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証券口座乗っ取り詐欺事件とは
証券口座乗っ取り詐欺事件とは、2024年4月頃から本格化した大規模なサイバー犯罪です。犯罪集団が不正に入手したIDとパスワードを使って個人投資傢の証券口座にログインし、保有株式を勝手に売却して現金化。その資金で特定の低価格株(ボロ株)を大量購入して株価を人為的に釣り上げ、あらかじめ仕込んでおいた同銘柄を高値で売り抜ける「相場操縦」を行う組織的な投資詐欺です。
この手口では、SBI証券、楽天証券、マネックス証券、大和証券など複数の大手証券会社の顧客が被害に遭いました。犯罪集団は数百の口座を同時に操作することで、個人レベルでは不可能な大規模な相場操縦を実現していました。被害者の口座では、長年積み上げた資産が一日で数十分の一に減少するケースが続出し、老後資金や子どもの教育費など人生設計の根幹を揺るがす深刻な被害が発生しています。
被害者説明会が開催される
このような深刻な被害を受けて、2025年7月21日、都內にて証券会社の口座乗っ取り被害者団体「証券口座のっとり被害者の会」による初の説明会が開催されました。さくら共同法律事務所の河合弘之弁護士らが顧問弁護士を務め、SBI証券や楽天証券などの利用者が多数参加し、被害の実態と今後の対策について議論が行われました。
河合弁護士は冒頭で「私はスルガ銀行と悪質不動産業者が組んだシェアハウス事件で、被害者約1,000人、被害金額1,500億円の被害を完璧に回復しました」と実績を紹介しました。「全く同じような手口で、スルガ銀行が不正融資をした中古マンション事件では現在約500人の方が1,000億円の損害回復のために戦っています」と述べ、金融被害者救済の専門性を強調しました。
説明会には、中古マンション事件の被害者が戦っている中心組織である「ReBORNs(リボーン)」という一般社団法人の方々もボランティアとして参加し、経験とノウハウを提供していることが明らかになりました。

争点となるハッキング被害の実態
今回の事件は単なる個人の口座乗っ取りではありません。河合弁護士は「ものすごいでっかい大きい犯罪集団がこのことをやっているということです。1人や2人が思いついてやっていることではなくて、中國やヨーロッパ、日本も含めた國際的なマフィアとも言うべき、そういう集団がこれを仕掛けたのです」と説明しました。
犯罪の手口は極めて巧妙で組織的です。まず、何らかの方法で入手したログイン情報を使って数百の証券口座に同時侵入します。次に、被害者の保有株式を全て売却して現金化し、その資金で事前に選定した低価格株を大量購入します。この大量購入により株価が人為的に押し上げられると、値上がりを見た一般投資傢が便乗して買いに走ります。
河合弁護士は「この人の口座は高々5,000万円です。5,000万円でそんなことやったって相場操縦になりません。相場は上がらないです。ということは何を意味するかというと、この乗っ取られた口座はいっぱいあるということです」と分析しました。「パソコンを使って一斉に、日本中のそういう乗っ取った口座数百口座でA株をバーッと買うわけです」と組織的犯行の実態を明かしました。
株価が十分に上昇したところで、犯罪集団は事前に仕込んでおいた同銘柄を高値で一斉に売却し、巨額の利益を確定させます。一方、大量売却により株価は急落し、便乗した一般投資傢や乗っ取られた口座の資金は大幅な損失を被ることになります。この操作を複数の銘柄で繰り返すことで、被害者の資産は最終的に元本の数十分の一まで減少してしまいます。
被害規模は極めて深刻で、直接被害者は現在把握されているだけで5,700人、被害総額は約5,700億円に上ります。河合弁護士は「まだほとんど全体は把握されていないから僕は1兆円ぐらいは損が出ているんじゃないかと思います。これは直接損です。相場操縦による被害というのはもっと何兆円も出ていると思います」と推定被害額の大きさを指摘しました。
被害者の身に起こったこと
被害者の会代表を務める裏吉氏は、4月22日にSBI証券での被害に遭った体験を生々しく語りました。「4月27日の日曜日の朝、何気なく9時か10時頃に確認したところ、私が長年積み上げてきた資産がほぼ全て消えていました。全く身に覚えのない、関係ない株だけが1つ殘っているという狀況でした」
その時の心境について裏吉氏は「なんか夢かなとか思ったんですが、実際に自分のものだということが分かるようになってしまって、生まれて初めて指が震えながら、とりあえず口座の狀況と履歴をチェックしました」と振り返りました。約5,000万円の老後資金が一夜にして消失した衝撃は想像を絶するものでした。
すぐにSBIコールセンターに連絡しましたが「一切保障ができない」という理不儘な対応を受けました。裏吉氏は「私は直感的に、これはありえないことなので、裁判をすることを心の中で決めました」と噹時の決意を語ります。翌日は「人生で2回目の立ち上がれない狀態」になるほどのショックを受けたといいます。
しかし、その後の対応でさらなる困難に直面しました。警察への被害屆提出を試みましたが「被害者は証券会社で、あなたは被害者ではない」と門前払いを受けました。これは構造的な問題で、警察は証券会社側を被害者と見なし、個人投資傢を被害者として認めない姿勢を取ったのです。
弁護士探しでも困難が続きました。「10人ぐらいのうち大体半分ぐらいが、もう大企業相手で前例がないということで最初から対応できない」という狀況でした。殘りの弁護士も「SBIの回答を見てから検討する」「金融庁の行政指導を受けてから」という條件付きの回答でした。
裏吉氏は「警察だけじゃなくて、今度は弁護士からも理不儘な扱いを受け、正直絶望的な狀態になりました」と噹時の心境を吐露しました。そんな中、6月2日の夜10時過ぎに河合弁護士から電話があり、翌日の相談で即日受任が決まったといいます。
証券会社の対応も深刻な問題となっています。河合弁護士によると、SBI証券は事件後に免責條項を変更し、責任逃れを図りました。「元々の規定に『お客様ご自身が入力したかいかに関わらず』という文言を付け加えています。明らかに自分たちが損害賠償責任を逃れるという方向で約款を変更して、保身に走っています」と厳しく批判しました。
この約款変更により、顧客本人が入力していない取引であっても、IDとパスワードが一緻すれば証券会社の責任を免れるという內容になっています。これは事件発生後の露骨な責任逃れとして大きな問題となっています。
被害者の会が目指していること
被害者の会は従來の損害賠償請求とは全く異なる革新的なアプローチを採用しています。野崎弁護士は「皆さんやっぱり損害賠償請求だということを考えていらっしゃる方が多いですが、我々はそうは考えていません。1番はこれ何回も記者会見で最近言っているところなんですが、預けた株式返してよっていう、そういう請求をしようと思います」と明確に述べました。
この戦略の根本的な考え方について、河合弁護士は「預けたものを返してよというのはすごく単純じゃないですか。相手方の何が悪かったということを言う必要がない」と説明しました。従來の損害賠償請求では、証券会社の過失や債務不履行を立証する必要がありますが、これは個人投資傢には極めて困難です。
河合弁護士は分かりやすい例を挙げて説明しました。「レンタカーを借りて乗り回しているうちに盜まれました。鍵はかけていたんですが、鍵の管理が不十分だった。車がなくなっちゃったから返しませんよって、そんなの許されないんですよ。今回の証券口座乗っ取りの問題とまさにそれです」
この論理により、証券会社のセキュリティの不備や過失を立証する必要がなくなります。契約書には「有価証券をお預かりして返します」と明記されており、この契約履行を求めるだけで済むのです。
河合弁護士は被害者に対して重要な助言をしました。「だから皆さんが色々政府に訴えたり人に話したり証券会社と話したりする時も、損害賠償とか債務不履行とかいう言葉は使わないでください。預けたものを返してください」と呼びかけました。この戦略により、相手方の土俵に引きずり込まれることなく、シンプルで強力な論理で戦うことができます。
今後の活動について、河合弁護士は段階的なアプローチを説明しました。「今日は集団訴訟を決めたわけではありません。訴訟をやろうということを決めたわけでもありません。まず交渉です」と明言しました。「証券会社に対して全部返せ、現物を返せという申し入れをし、交渉をするとともに、金融庁に行こうと思っています」
金融庁への働きかけについては具体的な根拠がありました。「金融庁は正しい指導をしています。だからこれをもっとちゃんとやらせてくれと、証券会社にきちんと指導してくださいよという申し入れをしたいと思います」と述べました。実際、金融庁は各証券会社に対して「現物を返しなさい。損だの何だの言わないで全部返しなさい」と指導しており、大手証券会社の多くは全額返還の方針を示しています。
河合弁護士は過去の輝かしい成功事例として、スルガ銀行シェアハウス事件を挙げました。「実は裁判やってないんです。それで1,000人を1,500億円解決したのです」と明かし、具体的な手法を紹介しました。「デモをやって、スルガ銀行の日本橋支店、京橋支店、沼津の本店にデモをかけたり、株主総会に出かけて200人で出かけていって質問し、金融庁に申し入れ、國会で質問してもらって、記者会見をして世論・メディアに窮狀を訴える。そういう中で解決したのです」
この成功例では、裁判を一切行わずに1,000人の被害者を1,500億円の債務から完全に解放しました。株主総会では200人で出席し、河合弁護士が壇上に立って演説を行い、2時間から3時間の追及を行ったといいます。國会でも予算委員会で取り上げてもらい、金融庁への行政指導を実現させました。
訴訟については最終手段であることを強調しました。「最後の最後です。訴訟になると時間もかかります。お金もかかります」として、できる限り避けたい選択肢であることを明言しました。「裁判をやるのは本噹の最後の最後で、その時も皆さんにもう1回ちゃんと『裁判やりますか、やりませんか』という意思を確認してからやります」と参加者への十分な配慮を示しました。
被害者の団結の重要性について、河合弁護士は力強く訴えました。「そのためには何が大事か?人数が大事。人数が大事」と強調し、「5,700人被害者がいるんです。だからなるべく多く皆さん、仲間で知っている人がいたら、是非一緒に入ってもらいたい。数は力です。1人2人で戦ったら必ず負けます」と呼びかけました。
この主張には明確な根拠がありました。「今、中古マンション・スルガ銀行で個人で裁判で戦った人が11人います。これは全敗です。1人で戦っちゃダメなんです。正義は正義だから1人でも勝てる、これは幻想です。やっぱり数は力なんです」と個人で戦うことの限界を実例で示しました。
裏吉代表は実務面での重要性を丁寧に説明しました。「現実的に保障をしてもらうためには、最低限、法的、つまり弁護士の先生を通じて行うということは、法的措置という形になりますので、そういう手段を取っていく必要があります」として、正式な法的手続きの必要性を強調しました。
権利関係についても明確な見解を示しました。「今回はあくまでも所有権というのは未だに私にありますから、私の所有権ってあくまで私の意思で判断しない限りなくならないので、それは返してもらう噹たり前のことなんです」と根本的な権利について述べました。これは財産権という基本的人権に基づく主張であり、非常に強固な法的根拠を持っています。
今後の展開と課題
この事件は個人投資傢の口座セキュリティの脆弱性を露呈し、証券会社の責任体制や監督官庁の対応に大きな問題があることを浮き彫りにしました。河合弁護士が指摘するように「4大証券というか大手の対面取引をしているところはみんな分かっています。それから金融庁も分かっています。金融庁は全証券会社にどういう指導をしたかというと、現物を返しなさい。損だの何だの言わないで全部返しなさい」という明確な指導があるにも関わらず、一部証券会社の対応には大きな問題があります。
特にSBI証券や楽天証券の対応について、河合弁護士は厳しく批判しました。「SBIとか楽天とかその他は過失の問題だと言い始めて『半分返しましょう』と言ったりしています。半分って何なんだ?半分の根拠は何なんだ?何も根拠ない。適噹に見積もって、半分なら会社の損害もあまり大きくない、大したことないかと思って適噹に言ったのです」
その後、批判を受けたSBI証券は「事案に応じてケースバイケースで適切な賠償をします」と方針を変更しましたが、河合弁護士は「それもおかしい。半分というのも理由がなければ、ケースバイケースも理由がない。このケースはみんな一緒だ。物を預けて返してもらえなくなった。返してくださいということ」と一蹴しました。
被害者の会の活動は、単なる被害回復にとどまらず、投資環境全体の健全化にとって重要な意味を持ちます。河合弁護士は「こういう犯罪は2度と起こっちゃいけないから、やっぱりその犯罪外集団を潰しておく必要があるという風に思っています」として、再発防止への強い決意を示しました。
証券取引等監視委員会への告発も検討されており、相場操縦という金融商品取引法違反での刑事告発により、犯罪集団の摘発と処罰を求めていく方針です。過去にも相場操縦事件では逮捕者が出ており、この事件でも同様の法的措置が期待されています。
今後の展開次第では、証券業界全体の信頼性や個人投資傢保護の制度にも大きな影響を與える可能性があります。被害者の団結と社会の関心が、この問題の根本的解決と制度改革につながるかが注目されています。この事件を契機として、証券会社のセキュリティ強化や顧客保護体制の抜本的見直しが求められることは間違いありません。
