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    ドラマ「正直不動産」に学ぶ―『管理委託』

    『正直不動産』は、2022年春に、NHK『ドラマ10』枠で放送された、不動産業界の裏側をコミカルに描いた作品である。ドラマを題材に不動産取引で気を付けるべきことを学んでいこう。第19回は、『管理委託』である。

    管理委託とは

    不動産業界の収入源といえば、仲介手数料がメインである。しかし、これだと、売買契約が成立したタイミングでしか入金されない。安定的な企業経営を目指すなら、毎月、一定額が入金される収入源も欲しい。不動産業者を支える安定収入こそが、管理委託料である。物件の入居者募集、家賃集金、クレーム対応、修理手配といった事務作業を行う代わり、家賃収入の5%程度を代価として頂く。金額は大きくないが、毎月の確実な収入として、経営を支えてくれる。それだけではない。オーナーとの継続した関係性は、信頼関係の証でもある。新たな商談もこうした、関係性から生まれてくるのだ。

    ミネルヴァ不動産の最後通牒

    登坂不動産では、朝礼を行う。だが、ミネルヴァ不動産からの大量引き抜きにより、社員数が随分と減った。今朝は珍しく、登坂社長自ら、激を飛ばす。そこに、1人の強面の男が現れた。ミネルヴァ社長である。無礼にも、登坂社長の前に立ちはだかると、『おたくは、もう限界でしょう。うちの傘下に入りませんか?助けて差し上げますよ。』と手を伸ばす。もちろん罠であろう。このアクシデントにも、登坂社長は動じない。『おかしなことをいうね。あこぎな商売をやっているおたくのほうこそ、先に限界が来るじゃないですか。うちは、心配には及びません。お引き取り下さい。』これには、ミネルヴァ社長も引き下がざるを得ない。だが、ただ黙って引き下がることはない。『強がるのは勝手だが、後悔しても知りませんよ。』これが、ミネルヴァからの最後通牒であった。

    管理委託の横取り

    その日から、登坂不動産には、契約しているオーナーからの電話が続くようになった。 全て、管理委託契約のキャンセルの申し出だ。揃いもそろって、ミネルヴァ不動産に乗り換えるという。聞けば、通常、家賃の5%が相場のところ、2%を提案されたのだ。赤字覚悟の破格の提案で、経営の生命線である管理委託料を丸ごと、奪いに来たのだ。ミネルヴァ不動産による、登坂不動産潰しは、まさに佳境を迎えた。この攻勢に、登坂不動産は追い込まれた。登坂社長は、残った数少ない社員に、頭を下げる。『どうか、力を貸してくれ。お願いします。』まさに、社運をかけた戦いなのだ。永瀬は、そんな社長の言葉を耳に、ある決意を固める。この劣勢を跳ね返すには、ライアー営業しかない、今こそ封印を解く時だ。永瀬が向かったのは、神社である。高額の賽銭を入れて、ひたすら拝む。『祠と石碑を壊してごめんなさい。そろそろ、元に戻してください。会社が大ピンチなんです。』すると、どうだろう。一陣の風が、永瀬を吹き抜けていった。

    再びのライアー営業

    永瀬はまた、嘘がつけるようになった。ライアー営業復活である。しかし、なぜか心が晴れない。確かに、成約はうなぎ上りになった。だが、顧客へのうしろめたさが、永瀬の心を苦しめる。そこに月下が現れた。『永瀬さん、先ほどのお客様、キャンセルなさいました。事故物件だったことを隠してましたよね。最近、そんな営業ばかりじゃないですか。今の永瀬先輩を、私は、尊敬できません。』永瀬は、成約を取るためなら、手段を選ばないライアー営業に、大きな疑問を感じた。

    藤堂案件

    そんな時、登坂不動産の頼みの綱であった不動産王、藤堂景勝からも、全ての物件をミネルヴァに乗り換えるとの電話が入った。もし、藤堂案件がミネルヴァ不動産に渡ると、登坂不動産にはあとがない。終戦である。これは、なんとしても、回避するしかない。藤堂との信頼関係は、維持しなければならない。嘘という武器を取り戻した永瀬は、藤堂の豪邸へと急行した。そこには、まさに契約を結ぼうとしている、ミネルヴァ不動産の花澤の姿があった。『うちは、管理委託料2%でお受けさせて頂くんですが、登坂不動産は5%ですよね。それも、当初契約から一度も見直しをされてないそうですね。それは、オーナー様に対する甘えです。』既に、藤堂の腹は決まっている。『ミネルヴァさんの方が、信頼できる。』勝負あったか。だが、ここで永瀬に、逆転の一手が浮かぶ。-とりあえず1.5%で契約して、その後、コンサル料とかの理由を付けて不足分を取り返せば、いける-『お待ちください。でしたらうちは。』そう言いかけた永瀬の脳裏に、月下の言葉が浮かぶ。『今の永瀬先輩を私は尊敬できません。』花澤が、せかす。『登坂さんは、一体、何%にされるんですか。』暫く逡巡し、永瀬が静かに答える。『うちは、今まで通り5%でやらせて下さい。』これには、一同唖然だ。『私は今、1.5%と言おうとしました。嘘をつこうとしたんです。ですが、この金額では、行き届かない部分も出てきます。それでは、マンションの住人の方に迷惑が掛かります。だから、私は嘘がつけなかったんです。』花澤も負けない。『こんな言葉に惑わされないでください。住民の方が出ていかれても、新たな契約者を見つけてきます。』態度を決めかねる藤堂の前に、お客が現れた。和菓子屋の石田さんだ。永瀬の正直営業の第一顧客である。石田さんは、藤堂の親友だったのだ。石田は皆に自慢の和菓子をふるまう。あまりの美味に、全員に自然と笑顔が広がる。石田は語る。『この永瀬は、良いことも、悪いことも、全部、そのまましゃべってしまう。今時、珍しい馬鹿正直な男だ。バカかもしれん。とにかく、この男は私が保証する。』これを聞いて、藤堂が呼応する。『確かに、馬鹿正直な男ですね。わかりました。永瀬さん、今まで通り、管理委託は登坂不動産にお願いします。』永瀬、深々と頭を下げる。『有難うございます。』契約を失った花澤も、和菓子の味には勝てない。笑顔のままである。

    帰り際、永瀬は石田に礼をした。石田は、『礼なら、おたくの社長に言え。良い顔になったな。』そういうと、成長した永瀬の顔を写真に収めた。去っていく石田の後ろ姿を、永瀬はいつまでも、低頭して見送った。

    社長面談

    永瀬は、登坂社長に礼をした。すると、登坂社長は、『私が頼んだわけじゃないんだ。石田さんに藤堂さんの話をしたら、任せろとおしゃって。永瀬が石田さんに、誠意を尽くした結果だ。』永瀬は戸惑う。『最近、自分がどう営業していったらいいのか、分からなくなってきて。』社長が背中を押す。『確かに、営業スタイルで試行錯誤しているようだけど、私から見たら、何も変わってない。不動産屋になりたいと、うちに転がり込んできた、あの日のままだ。』永瀬は、ライアー営業を封印することを決意した。今、ここに、真の正直不動産、永瀬が誕生した。

    投資と詐欺編集部
    投資と詐欺編集部
    「投資と詐欺」編集部です。かつては一部の富裕層や専門家だけが行う特別な活動だった投資ですが、今では一般の消費者にも未来の自分の生活を守るためにチャレンジしなくてはいけない必須科目になりました。「投資は自己責任」とよく言われるのですが、人を騙す詐欺事件は後を絶ちません。消費者が身を守りながら将来の生活に備えるための情報発信を行なっていきます。

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