Home その他 【現地取材】スルガ銀行不正融資問題、解決の道筋見えず。金融庁命令から1か月、被害弁護団が痛烈批判「責任逃れの個別解決策」

【現地取材】スルガ銀行不正融資問題、解決の道筋見えず。金融庁命令から1か月、被害弁護団が痛烈批判「責任逃れの個別解決策」

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スルガ銀行のアパートマンション不正融資問題で、被害者弁護団は同行の第214回株主総会後に記者会見を開き、銀行側が打ち出した「個別解決施策」を「責任を棚上げした表面的な優遇措置」と厳しく批判しました。金融庁の報告徴求命令から1か月が経過しましたが、抜本的解決への道筋は依然として見えない状況です。(写真:2025年6月25日、スルガ銀行の株主総会後にスルガ銀行不正融資被害弁護団(以下SI被害弁護団)の山口弁護士が記者会見で語る様子)

金融庁命令でも変わらぬ「開き直り」

SI被害弁護団の山口広弁護士(団長)は、「昨年まで目立っていた『不正だが違法ではない』という開き直りは表面上なくなりましたが、具体的な解決への取り組みには全く進展がありません」と指摘しました。

5月13日に金融庁が発出した報告徴求命令により、銀行側は株主総会冒頭で謝罪の姿勢を示しましたが、弁護団が求める処分行員の詳細情報開示には応じていません。

「約70名が処分されたと報告していますが、誰がどのような理由で処分されたのか一切明らかにしません。これでは裁判所も適切な判断ができません」と山口弁護士は語りました。

最も悪質な事案が約600件。わずか2件のみ進展

今回の問題の深刻さは、被害の規模と選別基準にあります。スルガ銀行の全融資約7000〜8000件のうち、約6700件で何らかの書類改ざんが行われていたといいます。

その中でも、SI被害弁護団が受任しているアパマン案件は、「通帳」、「レントロール」、「融資関係書類の偽造」がされている融資でもっとも重要視される3点セットともいうべき重要書類が改ざんされている悪質な約600案件のみでした。その中で前向きに被害者救済の交渉が進展しそうな交渉がわずか2件。拘わらず強硬に交渉に臨むスルガ銀行の姿勢に疑問が呈されました。

3点セット改ざんの実態

弁護団が扱う案件は全て「3点セット改ざん」と呼ばれる最も悪質なケースだといいます。

  1. 通帳の偽造 – 50万円の残高を6000万円台に改ざん
  2. レントロール(賃料表)の偽造 – 実際より高い収益性を偽装
  3. 融資関係書類の偽造 – 審査を通すための書類操作

「50万円しか残高がない通帳が、銀行に持ち込まれた時には数千万円単位で偽造されています。これは客観的に不正です」と山口弁護士は説明しました。

600分の2という異常な解決率

この最も悪質な600案件のうち、スルガ銀行が責任を認めたのはわずか2件のみです。5月13日の投資家向け情報でも公表されていますが、約600件については「個別対応」の名の下で事実上放置されている状況です。

五十嵐事務局長

「銀行は社内で他の600物件についても同様に職員関与があるか検討したのか質問しましたが、『コメントを控える』と回答拒否しました。一気に解決できるはずなのに、意図的に先延ばししています」と五十嵐潤事務局長は語りました。

「証拠白塗り」という証拠隠滅工作

調停で提出される銀行側資料の処理方法について、極めて悪質な実態が明らかになりました。従来の「黒塗り」から「白塗り」への変更は、単なる手法の違いではなく、証拠隠滅に等しい行為だということです。

白塗りによる完全消去

  • 従来の黒塗り:何かが書かれていたことは分かる
  • 現在の白塗り:白塗りで完全消去、記載の有無すら不明

「融資資料に『原本確認しました』と書かれていますが、実際は原本確認していません。その確認記録部分を白く消してコピーすると、何も映らない白紙状態になります。これは改ざん以外の何物でもありません」と山口弁護士は憤りました。

確かに、今回のケースでは原本を確認していないのに、「原本を確認しました」と銀行側が嘘をつて、本来は融資できない案件にも関わらず融資をしていることになります。これは不正融資に対して行員が関与していることを示しています。それが白塗りされてしまうとこの行員関与の事実そのものが消えてしまうわけです。極めて悪質であると言えるでしょう。

組織的な証拠隠滅

問題は個人レベルの判断ではなく、組織的な指示による可能性が高いとされます。PDFでの黒塗り・白塗りは意図的な選択で、個人情報保護なら記名部分の黒塗り処理で十分対応可能なはずです。白塗りにより、そもそも何が記載されていたかも不明になっています。

「もし検察庁がこんな証拠隠滅をしたら、検事の首が飛ぶレベルです。それを金融機関が平然と行っています」と山口弁護士は指摘しました。

調停委員会も呆れる状況

東京地裁の調停委員会でも、銀行側の対応に疑問の声が上がっています。「裁判官から『本当に出さないんですか』と嫌味を言われる始末です。調停委員会も銀行の証拠開示拒否を問題視しています」と山口弁護士は説明しました。

「勝手口解決」で闇に葬られる約600案件

最も深刻なのは、約600案件が「個別解決施策」という名目で、真の責任追及を回避したまま処理されようとしていることです。

スルガ銀行が6月20日に公表した新たな支援策の真の狙い

表面上は被害者救済に見える施策ですが、その本質は責任逃れです:

  1. 調停取り下げの強要 – 法的責任追及の断念
  2. 損害賠償請求権の放棄 – 完全な責任回避
  3. 表面的な優遇措置 – 世論対策

「正面から責任を認めて損害賠償を払うのではなく、勝手口から入って勝手口から出る解決です。本来なら借金と損害賠償を相殺して大幅減額すべきなのに、1%の利益は必ず確保するという発想です」と五十嵐事務局長は批判しました。

「闇に葬る」システム化

弁護団は、この個別解決施策を「組織的な隠蔽工作」と位置づけています。最悪質案件でも責任認定わずか2件、のこりの約600件は法的責任を曖昧にしたまま処理し、社会的責任や刑事責任の追及も困難にする仕組みです。

「数の力がなければ、金融機関は不正を隠蔽し揉み消すことができる組織だということが証明されています」とReBRONs代表の冨谷氏は語りました。

「シェアハウスとアパマンは別」論理の破綻

悪質な約600案件の実態を踏まえると、銀行側が主張する「シェアハウスとアパートマンションは別物」という論理は完全に破綻しています。

銀行側は、既に一律解決済みのシェアハウス問題と、個別対応を続けるアパートマンション問題を区別する姿勢を維持しています。しかし、弁護団は組織的な不正行為の実態を示す証言を引用し、この論理の破綻を指摘しました。

山口弁護士によると、現在スルガ銀行が元取締役10名を相手取って起こしている損害賠償請求訴訟の尋問で、中堅職員が「通帳改ざんは分かっていましたが、実績を上げるため原本確認をしませんでした」と証言したということです。これはアパートマンション融資での証言でした。

「通帳改ざんを見逃して不動産業者と一緒に融資実行したのは組織的です。シェアハウスとアパマンを分ける理屈は成り立ちません」

「勝手口解決」への強い批判

6月20日に銀行が発表した個別解決施策について、五十嵐潤事務局長は「勝手口から入って勝手口から出る解決策」と痛烈に批判しました。

施策の内容は一見被害者に有利に見えます:

  • 売却成否に関わらず利息・遅延損害金の一部免除
  • 赤字時の金利1%下限設定
  • 家賃収入7割の借金充当

しかし、これらの適用条件として「調停取り下げ」と「損害賠償請求権の放棄」が求められています。

「例えば1億円の借金に1000万円充当されても、残り9000万円を耳を揃えて払えというのでしょうか。根本的解決になっていません」と五十嵐事務局長は指摘しました。

被害者の実状「7年は長すぎる」

株主総会に8年連続で出席しているReBORNs代表の冨谷氏は、「なぜこんなに被害者が長期間苦しまなければならないのか」と憤りを隠しません。

冨谷氏は銀行の6月20日発表について、「早期解決のための働きかけが不十分だった」との記述を「もっと早く被害者を潰しておけばよかったという意味」と解釈しています。金利1%下限設定についても「本来は上限設定すべきなのに、自分たちの利益確保を優先しています」と批判しました。

クレディセゾンとの「計画的同日開催」

今回の株主総会では、関連会社クレディセゾンとの同日開催が問題となりました。両社は役員を相互派遣しており、本来であれば両方の総会に出席すべき立場にあります。

被害者側は「被害者の数的力を分散させる計画的な策略」と分析しています。実際に河合弘之団長はクレディセゾン総会に出席し、スルガ銀行総会は山口弁護士が参加しました。

またスルガ銀行総会ではスルガ銀行不正融資被害弁護団の報酬などの質問がなされる一幕もありました。スルガ銀行と不正融資被害者に関する質問が計7名からあったのですが、「サクラを動員した可能性があります」と冨谷氏は指摘しました。

各省庁の「たらい回し」構造 – 7年間放置の背景

被害者側は、この問題が「各省庁の隙間に落ちた社会問題」だと指摘しています。7年間という異常な長期化の背景には、行政機関の責任回避体質があります。

金融庁は「銀行の健全性確保が主務」として、個別被害者救済は管轄外と消極的対応を続けています。特に問題視されているのは、森信親元金融庁長官時代にスルガ銀行を「地銀の優等生」と称賛し、他の地方銀行に「スルガ銀行を見習え」と指導していた事実です。

「森前長官がスルガ銀行を褒めそやした結果、他の金融機関でも類似被害が発生しています。被害者が私のところに相談に来ますが、数が少ないため組織化できていません」と冨谷氏は指摘します。

一方、消費者庁は投資詐欺に対する消費者被害としての認識が不足しており、金融機関絡みの案件は金融庁マターとして門前払いする傾向があります。

最も深刻なのは警察の対応です。これだけ大規模な組織的詐欺事件にも関わらず、逮捕者が1人も出ていません。警察庁は県警への相談を促しますが、実際の捜査には消極的で、弁護士に対しては「依頼者が被疑者として取り調べられる可能性もある」と恫喝めいた発言まで行っていたと言います。

「こんな大きな事件で逮捕者が1人も出ないのは異常です。通帳改ざん、書類偽造、組織的詐欺の証拠があるのに、なぜ刑事事件にならないのでしょうか」と冨谷氏は憤りを隠しません。

超党派議員による金融庁への働きかけは継続していますが、財政金融委員会での金融庁監督責任追及、消費者問題特別委員会での消費者保護の観点からの問題提起など、各委員会レベルでの取り組みに留まっており、省庁間連携による総合的解決策は見えていません。

「定型的不法行為」の欺瞞 – シェアハウス解決の真相

スルガ銀行が既に解決したシェアハウス問題について、銀行側は「定型的不法行為があった」と説明していますが、この説明自体が実態を隠蔽するものだと弁護団は指摘しています。

銀行側はシェアハウスについて「新しいビジネスモデルで収益性を見誤った」「銀行としても認識が不十分だった」として、だから「定型的不法行為」として一律解決したと主張しています。

しかし被害者代表は「収益性を見誤ったことが定型的不法行為なのでしょうか?それは違います。本当の定型的不法行為は、融資審査資料の改ざん、売買契約書の改ざん、それに行員が組織的に関与していたことです」と反論しています。

真の「定型的不法行為」とは、通帳残高の大幅偽造(50万円を数千万円に改ざん)、レントロール(賃料表)の収益性水増し、売買契約書の条件操作といった書類改ざんへの組織的関与を指します。さらに、改ざん発覚回避のための原本確認省略、異議を唱える審査部門の無視、融資実行のための行内ルール改変など、融資審査の意図的形骸化も含まれます。

極めて悪質なのは、不動産業者との共謀に加え、上司からの「窓から飛び降りろ」といった極端なノルマ圧力の下でシステマティックに不正が実行されていた点です。

「シェアハウスでは個別事実確認をしなくても『シェアハウスだから』という理由で一律解決しました。同じ改ざん手法、同じ組織的関与があるアパマンで個別対応というのは論理的に破綻しています」と被害者団体代表は指摘しています。

さらに重要なのは、シェアハウス解決プロセスの真相です。銀行は「裁判所がシェアハウスの責任を認めたから解決した」と説明していますが、実際の順序は逆で、弁護団と銀行が一律解決で合意した後に裁判所が承認したということです。

金裕介事務局次長は「アパマンでも銀行が解決すると弁護団と合意すれば、裁判所は承認します。裁判所の判断を隠れ蓑にするのは責任逃れです」と批判しています。

この問題は単なる個別トラブルではなく、金融機関による組織的詐欺事件としての性格を持ちます。詐欺罪、有印私文書偽造罪の成立可能性、金融庁の監督責任、組織的不法行為による損害賠償など、刑事・行政・民事責任が複合的に問われる事案です。

山口弁護士は「定型的不法行為の認定により、同種事件の再発防止と他の金融機関への警告効果が期待できます。それを回避したいのが銀行の本音です」と分析しています。

弁護団の今後の戦略

弁護団は多角的なアプローチで問題解決を図る方針を明らかにしました。

まず、類型化による一律解決の実現を目指します。処分職員117名の具体的関与内容の開示を強く求め、事案の悪質度による類型化を進めることで、最悪質事案である「3点セット偽造」案件での一律責任認定を実現したい考えです。

調停においては証拠開示の徹底追求を続けます。現在問題となっている白塗り資料の適切な開示を要求し、個人情報保護を理由とした開示拒否に対しても粘り強く対抗していく姿勢を示しています。

政治的働きかけの強化も重要な戦略の柱です。超党派議員による金融庁への圧力を継続するとともに、各省庁が連携した解決スキームの構築を求めていきます。これまでの「たらい回し」構造を打破するため、より強力な政治的後押しが必要だと判断しています。

さらに、メディアを通じた全国的な問題提起により社会的関心の喚起を図ります。この問題をスルガ銀行だけの特殊事例で終わらせず、他の地方銀行での類似被害防止につなげることで、金融業界全体の健全化を促進したい考えです。

投資家への警鐘

この問題は単なる地方銀行の不祥事を超えた構造的問題を示しています。投資リスクの観点から見ると、金融機関の内部統制の脆弱性が浮き彫りになりました。規制当局である金融庁の事後対応にも限界があることが明らかになり、被害回復メカニズムの不備も深刻です。特に注目すべきは、最悪質案件でも約600件が未解決という現実で、これは投資家にとって極めて重要な警告となります。

詐欺被害防止の観点では、通帳・書類改ざんの組織的実行、融資審査の形骸化、収益性誇張による被害拡大といった手口が明らかになりました。さらに今回明らかになった証拠隠滅工作としての「白塗り」手法は、金融機関の隠蔽体質を象徴する事例と言えるでしょう。

現在も全国で類似の投資詐欺事件が発生しており、投資家は金融機関だからといって安心せず、十分な検証が必要です。特に地方銀行の投資商品については、より慎重な判断が求められます。

解決への展望

紀藤弁護士は「銀行が本気で解決する気があるなら、週1回のペースで弁護団と会議を重ね、450名の個別案件を突き合わせる作業が必要です。しかし、銀行側弁護団は会議すら嫌がる雰囲気で、加藤社長の言葉と現実に大きな乖離があります」と厳しい現状認識を示しました。

金融庁の報告徴求命令から1か月。被害者の苦悩は7年目に入り、真の解決への道のりは依然として険しい状況です。

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