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金融庁命令から6年半、株主の怒りが爆発
2025年6月25日に開催されたスルガ銀行第214期定時株主総会は、同行が抱える「アパマン不正融資問題」をめぐって株主と経営陣が激しく対立する異例の展開となりました。2018年の業務改善命令から6年半が経過しても問題が解決されず、今年5月には金融庁から報告徴求命令を受けるに至った同行に対し、株主からは厳しい批判が相次ぎました。(写真:株主総会当日、豪雨の中、街頭デモを行うスルガ銀行不正融資被害者)
冒頭から謝罪、でも具体策は見えず
加藤社長は総会冒頭でアパマン問題について謝罪しましたが、「1日でも早い解決に全力で努める」という従来の表現を繰り返すにとどまりました。金融庁への報告内容についても「守秘義務の対象」として詳細な公表を避け、解決の期限についても「一方的に決められるものではない」と明言を避けました。
「AI分析」で経営陣を痛烈批判
注目を集めたのは、株主提案の補足説明で披露された人工知能(AI)による同行の経営分析でした。提案株主は「ChatGPTやMicrosoft Copilot等のAIを活用して客観的に分析した」として、以下のような厳しい評価を紹介しました。
AIによる経営評価(要旨)
- 「短期的な損失管理するが、根本的解決には至っていない」
- 「法的な防衛と損益管理は成功しているが、レピュテーション悪化という深刻な長期的問題を抱え込んでいる」
- 「金融庁の報告徴求命令は、銀行が社会的要請に応えきれていないという強い懸念の表れ」
「白塗り改ざん」疑惑が浮上
総会では新たな問題も表面化しました。アパマン融資の被害者が「融資審査資料で担当行員名等が白塗りで隠蔽されている」と告発しました。この「白塗り改ざん」が20件以上で確認されているとし、「組織的・工作的に行われている疑いが高い」と批判しました。
同行は「社員を誹謗中傷から守るための必要最小限のマスキング」と反論しましたが、株主からは「白塗りではそこに証拠があったことさえ消えてしまう、証拠隠滅ではないか」との厳しい追及を受けました。
数字に表れる信頼失墜
同行の苦境は業績にも表れています。預金残高は前年度末比で964億円もの大幅減少となりました。一方で4期連続増益は達成しましたが、これについてもAI分析では「不良債権処理の一段落による貸倒引当金戻入益が大きく、新たな事業成長によるものではない」と厳しく評価されました。

株主提案は全面否決、でも議論は白熱
以下の5つの株主提案議案はいずれも否決されましたが、議論は白熱しました。
- 透明性確保と隠蔽体質改善
- 業務改善命令進捗報告の義務化
- AI活用客観分析の導入
- 不正融資利益の開示
- 第三者ガバナンス委員会設置
6年半続く被害者の苦痛
約650件のアパマン融資被害者の中には、精神的苦痛から離婚や転職を余儀なくされた人、さらには自殺者も出ているという深刻な状況が報告されました。被害者代表の弁護士は「一生懸命被害者救済を訴えているのに、銀行は支払督促で潰しにかかってくる」と強く非難しました。
シェアハウスは解決、なぜアパマンは?
同じ不正融資問題でも、シェアハウス案件は2020年に一括解決が図られました。その違いについて同行は以下のように説明しました。
- シェアハウス:新商品形態で裁判所が定型的不法行為を認定
- アパート/マンション:既存商品で個別事情が多様、定形的不法行為の認定なし
しかし株主からは「不正は不正。新しいか古いかは関係ない」との反論が相次ぎました。
サクラ疑惑まで飛び出す異常事態
総会運営をめぐっては、一部株主から「会社側のサクラがいるのではないか」との疑惑まで提起される異例の事態となりました。同じ人物が複数回発言している、スルガ銀行不正融資事件の被害弁護団に否定的な発言をする株主が多いなどの指摘がありました。真実は定かではありませんが、一種異様な雰囲気だったのは確かです。
投資家が知るべき重要なポイント
スルガ銀行の業績は好調ですが、リスク要因の多さ、複雑さは金融機関としては異例の状態が続いています。改めて確認してみましょう。
リスク分類別影響度分析
リスク分類 | 具体的内容 | 影響度 | 現状 | 対応状況 |
---|---|---|---|---|
レピュテーションリスク | 問題長期化による投資家離れ加速 | 高 | 信頼失墜継続中 | 新中期経営計画で信頼回復策検討 |
法的リスク | 集団調停・個別訴訟継続 | 高 | 複数案件進行中 | 個別解決による実効性重視 |
規制リスク | 金融庁監視強化・追加処分可能性 | 中~高 | 報告徴求命令対応中 | 継続的な当局対応実施 |
財務影響項目
項目 | 内容 | 規模・状況 | 重要度 | 備考 |
---|---|---|---|---|
預金残高推移 | 信頼度のバロメーター | 約1000億円減少 | 最重要 | 異例の減少幅、信頼回復の指標 |
貸倒引当金 | 将来損失への備え | 積み増し継続 | 高 | 不正融資関連の損失見込み |
不正融資関連費用 | 問題解決コスト | 継続発生中 | 高 | 調停・訴訟対応費用含む |
対応・進展状況
対応項目 | 進捗状況 | 予定・見通し | 重要度 | 課題・リスク |
---|---|---|---|---|
新中期経営計画 | 策定準備中 | 来年発表予定 | 最重要 | 信頼回復・収益性両立が課題 |
金融庁対応 | 報告徴求命令対応中 | 継続対応必要 | 高 | 追加処分リスク継続 |
アパマン問題進展 | 個別解決推進 | 段階的解決目指す | 高 | 解決実効性の確保が重要 |
総合リスク評価
評価軸 | 現状評価 | 短期見通し | 中長期見通し |
---|---|---|---|
財務安定性 | 資本十分性は維持 | 引当金負担継続 | 新計画次第で改善 |
事業継続性 | 通常営業継続中 | 信頼回復が課題 | 抜本的改革必要 |
株主価値 | 大幅下落継続 | 回復には時間要 | 実効性ある計画が必要 |
注記: 影響度・重要度は「高・中・低」で評価。財務数値は概算値。
編集部コメント
スルガ銀行の今回の株主総会は、日本の金融機関におけるガバナンス問題を象徴する事例として記録されるでしょう。6年半にわたって解決されない問題、AIを使った客観的分析の導入、資料改ざん疑惑など、従来の株主総会では見られない要素が多数確認されました。
特に注目すべきは、株主がAI分析を活用して経営陣を客観的に評価する手法を用いたことです。これは今後の株主行動主義(アクティビズム)の新たな潮流となる可能性があります。
投資家にとっては、業績数字だけでなく、こうしたESG(環境・社会・ガバナンス)リスクを総合的に評価することがますます重要になっています。スルガ銀行の今後の対応は、日本の金融機関全体の信頼性にも影響を与えかねない重要な試金石となりそうです。