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    ドラマ「正直不動産」に学ぶ―『千三つ』

    『正直不動産』は、2022年春に、NHK『ドラマ10』枠で放送された、不動産業界の裏側をコミカルに描いた作品である。ドラマを題材に不動産取引で気を付けるべきことを学んでいこう。第12回は、『千三つ』である。

    千三つに勝つには

    不動産業界には、『千三つ』という言葉がある。不動産業界の成約率の低さを指す言葉だ。確かに、不動産業界は、厳しい。例えば、土地を売却するとしよう。10社が競合したとして、実際に購入に至るのは、最高額を提示した1社だけである。さらに、最高額で落札した1社も、それ以上の額で買ってくれる買い手が付かないと利益が出ない。この苛酷な環境の中で、利益を確保すべく、様々な工夫を凝らすことになる。具体的に、どの様な戦略が有効だろうか?古くからの御用聞きが、実は、意外と効果的だ。

    月下のひとり営業

    月下は成長した。永瀬は、そんな月下に、ひとり営業を命じる。力試しだ。月下は、まず、町内会長の衛藤明子の元に出向いた。御用聞きである。濡れ縁に座り、お茶を頂きながら、月下が切り出す。『誰か、家を買いたいって言う人知りませんか?今回は、どうしても、結果出したくて。』月下、成果にご意欲である。しかし、高齢の衛藤は、名ばかりの会長で、会員達の個人情報など、一切入ってこない。それどころか、心は既に、引退後へと向いている。衛藤が高級ケアハウスのパンフレットを取り出す。入居金が100万円、それに、毎月の費用も随分と掛かる。だが、温泉付きで実に快適そうだ。この費用を捻出するために、早くこの家を売りたいという。相場なら1億円の物件だ。月下が飛びつく。『だったら、そのお手伝い、私にやらせて貰えませんか?』だが、もう、他の不動産屋さんと相談中だという。担当者の名前を聞いて月下が驚く。『えっ、桐山さんですか!』帰社した月下は、桐山が作成した、衛藤宅売却の資料を見て、さらに驚く。なんと、桐山は、相場よりもかなり安い7,500万円での売却を予定していた。月下に、桐山への疑念が湧き上がった。

    月下の追及

    月下、我慢できずに、桐山に直接、疑問をぶつける。『桐山さん、なんで、衛藤さんの家を、2,500万円も安い値段で売ろうとしているんですか?あの家は、旦那さんや、ご家族と暮らしてきた、明子さんにとって、大切な家なんです。』だが、桐山の答えは、非情だ。『黙れ、あれは俺のもんだ。』そう言い残すと、きびすを返し、闇へと消えた。そして、同時に、月下の桐山への信頼も消え失せた。

    ついに、月下が、行動を起こす。資料を衛藤に見せ、その問題点を訴えたのだ。そして、担当を月下に変更するよう申し出た。だが、衛藤の答えは意外なものだった。『月下さん。私、桐山さんが、そんな人だとは思わないの。桐山さんね。毎日、来てくれて、私の昼の散歩に付き添ってくれるの。そこで、色んな話をするの。うちの死んだお父さんの話とか、桐山さんのお父さんの話も、聞いた。』毎日、顔を見せる桐山への信頼は、絶大なのだ。月下は思い出した。桐山は会社のメンバーと、ランチをしない。月下は、その理由を桐山が一匹狼だからと、勝手に決めつけていた。だが、事実は違った。桐山の御用聞き営業の時間だったのだ。

    桐山のカスタマーファースト

    それでも、月下は、安値売却への不審は、消えない。桐山の目的が見えないのだ。たまらず、永瀬に相談する。永瀬、資料を見ながら、何かを納得したように強く頷く。『この人、もしかして、売却急いでない?』月下が即答する。『はい、ケアハウスへの入居のために、早く売りたいって言ってました。』永瀬の解説が始まる。『相場の1億だと、売却までに時間が掛かる。だから、業者買取にして、少し安めに設定している。その代わり、解体費用などを買主である登坂不動産が負担するようにして、トラブルにならないよう免責事項も整備されている。これなら、スピード感があって、衛藤さんが安心して取引き出来る。』月下、声もでない。永瀬は続ける。『その上、更地にすれば、土地の価値は上がる。高値で売れれば、登坂不動産も損はしない。』永瀬が締めくくる。『これは不正なんかじゃない。売主のことを一番に考えて、調整されている。その上、買い手も損しない。』そう、これが、桐山のカスタマーファーストなのだ。しかも、桐山は毎日、衛藤の散歩に付き添い、深い関係性を築き上げている。『あれは俺のものだ。』という桐山の言葉は、桐山の傲慢さではなく、真摯さを表していたのだ。月下、目からうろこである。

    そして、もう一つ、衛藤は、桐山の父の話を、月下に伝えていた。14年前のことだ。新築のマンションにヒビが入り、傾いたのだ。その責任をとって、下請け会社の現場責任者が自殺した。それが、桐山の父だったのだ。月下に疑問が湧く。なぜ、桐山は父を殺した不動産業界に、身を投じたのだろうか?永瀬もその答えを知らなかった。そう言えば、月下は入社時に、なぜみんな、営業成績一位を目指すのか、二位じゃダメなんですかと、聞いて回った。その時の桐山の答えは、こうだ。『一位になれば、次に繋がる。俺にとって、こんな会社、ただの通過点でしかない。』 桐山が、目指す先は、一体、どこなのだろうか?桐山の正体をまだ、誰も知らない。

    スパイの正体

    その日の夜、永瀬は驚愕する。桐山が、ミネルヴァ社長の車に同乗する瞬間を目撃したのだ。『嘘だろぉ。』永瀬は、わが目を疑った。だが、スパイがいること自体は、確実だ。さらに、昨日の深夜も、永瀬のPCが、誰かにログインされた。これも、スパイの仕業に違いない。会社の危機が迫っている。永瀬は、社長に告げた。『桐山が、スパイでした。』

    投資と詐欺編集部
    投資と詐欺編集部
    「投資と詐欺」編集部です。かつては一部の富裕層や専門家だけが行う特別な活動だった投資ですが、今では一般の消費者にも未来の自分の生活を守るためにチャレンジしなくてはいけない必須科目になりました。「投資は自己責任」とよく言われるのですが、人を騙す詐欺事件は後を絶ちません。消費者が身を守りながら将来の生活に備えるための情報発信を行なっていきます。

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