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    ドラマ「正直不動産」に学ぶ―『ペアローン』

     『正直不動産』は、2022年春に、NHK『ドラマ10』枠で放送された、不動産業界の裏側をコミカルに描いた作品である。ドラマを題材に不動産取引で気を付けるべきことを学んでいこう。第6回は、『ペアローン』である。

    ペアローン

     皆さんは、ペアローンを御存知であろうか?共働きの夫婦には、大きなメリットがある住宅ローンだ。借用限度が大幅に拡大する。その上、夫婦双方が、住宅ローン控除を受けられ、団体信用保険にも入ることができる。その一方で、物件は共有名義になる等、デメリットもある。今回は、ペアローンのデメリットを確認していこう。

    室田夫妻の憂鬱

     室田夫妻は、離婚協議中だ。1億3000万円で購入した高級マンションの扱いを相談に来た。3年前、『ペアローンにはメリットしかありません。』と売りぬいたのは、永瀬だ。『揃って高収入のパワーカップルにはペアローンがピッタリ』『才色兼備の奥様にふさわしい超高級マンション』『ご負担を半分に、喜びを二倍に。』と美辞麗句でメリットだけを強調したライアー営業であった。しかし、離婚が、ペアローンのデメリットを、浮き彫りにする。共有名義の物件の売却には、二人の意見の一致が必要だ。だが、離婚予定の二人はことごとく意見が合わない。そこで、マンションを手放したくない夫は、自分の単独名義に変えようとする。だが、それには、夫が妻のローンを肩代りしなければならない。4千万円クラスの一括返済を求められ、『聞いてないよ。』と怒る夫に、『契約書、読まないからよ。』と突き放す妻。結局、返済能力がない夫は、妻の意向に従い、売却に同意した。このところ営業成績が伸びない永瀬に、成績1位奪還のチャンスが到来した。

    根尾夫妻の激怒

     根尾夫婦は新婚3か月。年上の根尾夫人は大手IT企業の社員、それに対して、夫は中堅企業だ。夫人は、室田夫婦が売りに出した高級マンションに興味津々だ。『わぁ、ウォークインクローゼット大きいね。ここなら、私の服たくさん入りそう。』夫が乗せる。『この部屋、書斎に良さそうじゃない。』『ほんとだ、最近、リモートワーク多いから、私の仕事部屋にしよう。』そう、この夫婦、夫人が中心だ。永瀬も煽る。『ミストサウナも付いていまして、忙しい奥様のリラックスタイムに最適かなと思います。』好調だ。夫人が問う。『同僚に共有名義を勧められたんですけど。』永瀬は逆らわない。『そうですね、お二人の収入は安定していますし、メリットは大きいと思います。』しかし、次の瞬間、永瀬は自ら、この好調な営業をぶち壊す。『お二人は離婚の可能性を視野に入れていますか?どうみても、格差婚ですよね。』もちろん、根尾夫婦、激怒である。『なんて失礼な不動産。』夫人は、店を飛び出した。残った夫が、永瀬に詰め寄る。『僕、このマンション、気に入っていたのに。』永瀬は夫に詫びる。『私は、共有名義のデメリットを説明したかっただけです。旦那様から奥様を説得できませんか?』『説得なんて、無理ですよ。』夫の立場は弱い、年上の夫人に従うだけの存在だ。永瀬は、自らの失言で、大口契約を失った。

    えり香の営業

     成績不振の永瀬、久々に訪れたビッグチャンスを諦めきれない。そこで、強力な助っ人を用意する。室田妻のえり香だ。大手広告会社勤務で、ファッション雑誌の編集長。実際に暮らしていた経験に基づく豊富な商品知識、ペアローン失敗者としての学びに加え、コミュニケーションスキルとマンション売却への意欲をも兼ね備えている。まさに、スペシャルな営業員だ。永瀬がなんとか内見にひっぱり出した根尾夫婦を前に、えり香は言う。『お話はお聞きしました。折角、ここを気に入っていただいていたのに、ご気分を害されてしまったそうですね。当然ですよ。新婚のご夫婦に離婚の話を切り出すなんて。でも、経験者から言わせてもらうと、新婚の夫婦こそ共有名義のリスクについて、知っておくべきだと思うんです。』やさしく、静かな語り口だ。『ただ、このマンションは、私たちの離婚とは関係ありません。駅から近いし、スーパーに行くのも便利。凄く住みやすかった。唯一失敗したのは、旦那選びね。』思わず根尾夫人も笑う。ここからは、完全にえり香のペースだ。実際に住んでいた経験をバックに、説得力のあるプレゼンが続く。一気に形勢逆転だ。内見前は、怒りに震えていた根尾夫人も、今は楽しい時間を過ごしている。

    最後の逆転

      しかし、にっくき永瀬を前にして、根尾夫人の顔が、再びこわばる。『でも、買いませんよ。離婚した夫婦が住んでいたマンションなんて、縁起が悪すぎます。』夫を連れて帰ろうとする夫人に、オネスティ永瀬が立ちはだかる。『私には見えます。お二人が数年後、離婚届に判を押している姿が。』これには、夫人激高だ。『何それ、いい加減なこと言わないで。』『残念ですが、私はうそが付けない人間なんです。例えこのマンションを購入されなくても、お二人の経済状況からペアローンを組むことになるでしょう。これは、お互いが連帯保証人になる契約です。つまり、二人分の人生を人質にとられるようなものですよ。どんなに苦しいときも、お互いに助け合うのが本当の夫婦ではないでしょうか。収入差だとか、年齢差だとかで、言いたいことを我慢してはいけません。夫婦は対等なんです。あなた達は、お互いの気持ちを包み隠さず、話し合ったんですか?』夫人がキレる。『大きなお世話よ。』立ち去ろうとうする夫人を、なんと気弱な夫が止める。『ごめん。僕は、ここを買いたい。今まで、嫌われるのが恐くて、何も言えなかったけど、これからは、なんでも二人で話し合って決めたい。』夫が夫人の手をとる。『僕たちの未来のことなんだから。』夫の言葉に、夫人もうなづく。

     数日後、営業成績上位者の中に永瀬が入った。正直営業になって、初の快挙である。

    投資と詐欺編集部
    投資と詐欺編集部
    「投資と詐欺」編集部です。かつては一部の富裕層や専門家だけが行う特別な活動だった投資ですが、今では一般の消費者にも未来の自分の生活を守るためにチャレンジしなくてはいけない必須科目になりました。「投資は自己責任」とよく言われるのですが、人を騙す詐欺事件は後を絶ちません。消費者が身を守りながら将来の生活に備えるための情報発信を行なっていきます。

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