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    ドラマ「正直不動産」に学ぶ―『仲介業者』

    『正直不動産』は、2022年春に、NHK『ドラマ10』枠で放送された、不動産業界の裏側をコミカルに描いた作品である。ドラマを題材に不動産取引で気を付けるべきことを学んでいこう。第4回は、『仲介業者』である。

    仲介業者

    仲介業とは、一体、何だろうか?実は、仲介業者を経由せずに、直接、不動産契約を結ぶことも可能だ。しかし、通常は仲介業者を経由させる。そうすることで、オーナーは、自ら借り手を探す必要はないし、借り手は複数の案件の中から、自分の希望にあった物件を探すことができる。このサービスの対価として、仲介業者は、仲介手数料をとっていると考えられる。だが、仲介業者の役割は、それだけではない。お互いの折り合いがつかない時、仲介業者が仲立ちとなり、両者の調整を行う。今回は、仲介業者の調整機能の事例だ。

    トラブル発生

    新人、月下の営業は、冴えない。自身のモットーであるカスタマーファーストを貫くべく、内見を10件以上繰り返す。だが、今日も成約に至らない。靴擦れだけが、増えていく。嘘がつけない永瀬も苦戦する。マンションを少しでも高く売りたいと相談しにきた顧客に、あろうことか、一般媒介契約を勧めてしまう。一般媒介契約とは、複数の不動産業者と契約を結び、オーナーが比較検討しながら、売却を進めることができる契約だ。これなら、確かに、少しでも高く売りたいというオーナーの意向に沿った取引が可能だ。だが、相談を受けたはずの登坂不動産は、ただ働きとなる可能性がある。普通なら、オススメしない形態だ。これを盗み聞きしていた桐山が慌てる。急ぎの電話が来たと永瀬を呼び出す。その隙に、商談を横取りし、専属専任媒介契約に切り替えさせた。これで、確実に登坂不動産の収入になる。但し、高く売れる保証はないが。しかし、物は言いようである。桐山は、一般媒介契約では、各業者とも、優先度を下げるため、なかなか成約に至らないと告げ、顧客の信頼を勝ち取った。この様な調子で、永瀬の営業成績は、かつてないほどの、低迷を続けている。

    そんな様子を見かねた桐山が、自らの案件を永瀬に渡す。しかし、これが罠である。実はこれ、問題案件だ。何も知らない永瀬が、丸腰で、三浦夫妻の怒りと対峙する。まず、妻が一撃見舞う。『今になって、家賃を一万円上げるってどういうことですか?』夫も続く。『預り金払ってから値上げって、おかしいでしょ。』この不意打ちに永瀬は、早くもサンドバック状態だ。夫は、さっさと、切り上げる。『こんな詐欺みたいな不動産屋は、関わりたくない。預り金を返してください。』嘘という最大の武器を失った永瀬に、成すべはない。『預り金は全額、きっちり、お返しします』。と、あっさり、白旗を上げた。これを見て、夫は勝ったとばかりに、席を立つ。だが、妻は、立ち上がろうとしない。『私、どうしても、諦めきれない。もう、このマンション以外、考えられないんです。』ここで、永瀬の口が、勝手に動く。『何とか致しましょう。この永瀬にお任せください。』

    オーナーの言い分

    永瀬は、あくどい値上げをしたオーナーとの交渉に臨む。だが、意外にも、出迎えたオーナーは、腰が低い。あくどさの欠片も感じられない。これを見て、永瀬は静かに切り出す。『随分、リフォームにこだわられたんですね。』『はい、終の棲家にするつもりでしたから。ただ、静岡の母親が倒れまして。母の介護のため、ここを貸すことにしました。』『そうだったんですか。』いきなりの打ち明け話に矛先が鈍る。『実家のバリアフリー化と、このマンションのローンで、火の車でして。そしたら、桐山さんが相談に乗ってくれて。』『桐山が。』『はい、母の病状が悪化して、更に治療費がかかることになり、家賃の値上げも相談させてもらいました。』オーナーにも、止む無い事情があったのだ。永瀬、借り手とオーナーの双方の事情の狭間で、しばし、沈む。そして、逡巡の末、決断した。

    永瀬の仲介

    永瀬は、再び三浦夫妻と向き合った。いきなりの謝罪だ。『値上げを撤回して頂くことはできませんでした。』『なんだよ。お任せくださいなんて言ってたのに。』夫が失望する。『ですが、交渉して、値上げを5000円まで譲っていただきました。』『えっ。』夫が驚く。『それも、家賃ではなく、管理費にしていただけるそうです。ですから、敷金、礼金なども、当初の見積りのままです。いかがでしょうか。』夫が答える。『でも、ここのオーナーさんのことを、もう信用できないんだよね。』永瀬が言い切る。『こちらのオーナーは、100%と信用して頂いて、差支えないと思います。』まだ、夫は信じない。『本当ですか、それ。』ここで、オネスティ永瀬の殺し文句が生まれる。『はい、私は嘘がつけない人間なんです。』そして、オーナーの事情を代弁する。さらには、オーナーの幼い子どもを育てるためのリフォームであったこと。それが、これから生まれてくる三浦夫妻の子どもにも、良い住環境になっていることを告げる。まさに、永瀬の仲介が、両者をWinWinで繋いだのだ。これを聞いた妻が、静かに、しかし、はっきりとつぶやく。『ここにしよう。私たち3人の住む部屋は、ここしかないよ。』夫も応じる。『契約します。』

    永瀬、トラブルを、初めて誠意で乗り切った。

    投資と詐欺編集部
    投資と詐欺編集部
    「投資と詐欺」編集部です。かつては一部の富裕層や専門家だけが行う特別な活動だった投資ですが、今では一般の消費者にも未来の自分の生活を守るためにチャレンジしなくてはいけない必須科目になりました。「投資は自己責任」とよく言われるのですが、人を騙す詐欺事件は後を絶ちません。消費者が身を守りながら将来の生活に備えるための情報発信を行なっていきます。

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