More

    組織的に保険金詐欺!日本最大級の中古車販売会社ビッグモーターの闇

    2023年、ビッグモーターの不正保険金請求が社会問題化しました。自動車保険の対象になる不注意や交通事故で損傷した自動車の修理に関して、本来は壊れていない箇所を修理するビッグモーター社員が意図的に怖し、修理することで消費者と保険会社を騙し不正に売り上げを挙げていたというのです。そしてこの詐欺行為は、組織的に行われていたといいます。
    ビッグモーターの行った第三者調査によると、調査対象の8427件中、1275件でこうした自作自演の詐欺行為が行われていました。
    「グループ連結で売上高7000億円」「中古車買い取り日本一」を謳う日本最大級の中古車販売店であり、数多くの大手損保会社と取引のあったビッグモーターに何がおこっていたのでしょうか?

    ビッグモーターとは?

    中古車の購入を検討したことがないという方の中には、ビッグモーターという会社についてご存じない方もいるかもしれません。ビッグモーターは、全国に約300店舗を展開している中古車販売の大手企業です。中古車を購入する際に自動保険に加入する人が多いことから、自動車保険の加入窓口にもなっています。特に損保ジャパンとの結びつきが強く役員や部長級の役職者に損保ジャパンOBや出向者を受け入れているほどです。また自動車の車検や修理も行っているため、ビッグモーターで自動車を購入した人は車検や故障や事故の際の修理をビッグモーターに依頼することが多い状態でした。

    事件が明るみにでたきっかけ

    ビッグモーターが不正な保険金請求を行っていたという疑惑が浮上したのは、2022年3月のことです。損害保険防犯対策協議会を通じて、同社が保険金を水増し請求しているという情報が各損害保険会社に寄せられたのが直接のきっかけです。ですがそれ以前からも保険金の水増し請求に関して噂は絶えない企業だったといいます。
    事態を重く見たビッグモーターは外部の弁護士らによる「特別調査委員会」を設置し、自社の保険金申請を調査することにしました。同時に、損害保険会社も自社の支払済事案を調査することにしました。
    2023年7月18日、ビッグモーターは特別調査委員会の報告書を公表しました。報告書によると、同社はゴルフボールやドライバーなどを使って車体にわざと傷をつけたり、不要な部品交換をしたりして、修理費用を水増しして保険金を請求していたことが判明しました。これまでに調査した8427件のうち、1275件(15.1%)で不正が見つかり、合計4995万円の過剰請求があったことが明らかになりました。

    調査報告書の詳細は?

    ビッグモーターの特別調査委員会は、ビッグモーターが2022年3月に自動車保険の保険金不正請求問題が発覚した後に設置した、外部の弁護士らで構成される第三者機関です。同委員会の目的は、同社の保険金申請に関する事実関係の究明と、組織的な不正行為の有無や原因・背景の分析、再発防止策の提言などを行うことでした。
    同委員会が2023年7月18日に公表した、約200ページに及ぶ文書が特別調査員会報告書です。報告書では、同社が行っていた保険金不正請求の手口や規模、組織的な関与や責任者の特定などが詳細に記されていました。その原因として同社のガバナンスやコンプライアンス体制の欠如や問題点も指摘されています。

    報告書では以下のような事実を認めています。
    • 同社では、ドライバーやゴルフボールなどを使って車体にわざと傷をつけたり、不要な部品交換をしたりして修理費用を水増しして保険金を請求していたこと
    • これまでに調査した8427件のうち1275件(15.1%)で不正が見つかり、合計4995万円の過剰請求があったこと
    • 不正行為は組織的かつ意図的であり、店舗長やエリアマネージャーなどが指示や指導をしていたこと
    • 不正行為は業績目標達成やインセンティブ獲得などが動機であり、修理工場や損害保険会社とのコミュニケーション不足も原因であったこと
    • 同社では取締役会が開催されず、監督機能が働かなかったこと
    • 同社ではコンプライアンス教育や内部通報制度などが不十分であり、不正行為を防止する体制が整っていなかったこと

    非常にショッキングな内容が事実として行われていたことがこの報告書によって明らかになりました。ビッグモーターは経営責任をとるために社長や役員らが辞任したり報酬を返上したりすることを発表し不正請求があったお客さまや損害保険会社に対しては返金や等級訂正などの対応を進めるとしています。さらに、過去5年間にさかのぼって全件調査することも発表しました。

    ビッグモーターの経営責任を問う各界からの非難

    この問題に関して、政治家、経済評論家、法律の専門家は以下のようなコメントをしています。

    <政治家のコメント>

    斉藤鉄夫国土交通相は「ビッグモーターの不正行為は極めて重大であり、消費者の信頼を大きく損なっている。国交省としても厳正に対処する」と述べました。また 野党の立憲民主党の枝野幸男代表は「ビッグモーターの不正は、損保ジャパンとの癒着が背景にあると疑われる。政府は第三者委員会を設置し、真相究明と再発防止策を徹底的に検討すべきだ」と主張しました。新規の自動車保険獲得のために損保ジャパンはビッグモーターと深い関係にあったことも言及する踏み込んだ発言をしています。一方で自民党の二階俊博幹事長は「ビッグモーターの不正は個別の問題であり、自動車業界全体に泥を塗るものではない。しかし、消費者保護の観点からも、同社には誠意ある対応を求めたい」と語っています。ある程度の忖度をみせる政権党としての配慮が見えるコメントです。


    <経済評論家>

    テレビなどの情報発信を通じて大きな影響力を持っている池上彰氏は「ビッグモーターの不正は、中古車市場の競争激化や業績目標達成へのプレッシャーが原因だと考えられる。同社はガバナンスやコンプライアンス体制を見直す必要がある」と分析しています。
    山口邦男氏は「ビッグモーターの不正は、自動車保険制度そのものに問題があることを示している。現在の制度では、事故車の修理費用が高くなればなるほど、保険会社や修理工場に利益が入る仕組みになっている。このようなインセンティブ構造を改めることが急務だ」と指摘しました。たしかに修理する箇所が多いほど自動車修理会社は儲かります。今までは「そういうものだから」とまかり通ってきたわけですが、こうした癒着は経済原理を損ない、結局消費者が損をすることになります。

    自身がベンチャー投資家である堀江貴文氏は「ビッグモーターの不正は、保険会社や修理工場とのコミュニケーション不足や情報非対称が生んだものだと思う。この問題を解決するには、ブロックチェーンなどの技術を活用して、保険金申請や修理作業の透明性を高めることが必要だ」と提言しています。法外な値段にならないように保険会社は調査員なども置いて事故の内容と修理箇所や修理内容の妥当性や金額の相場観を踏まえた交渉を行っているはずですが、癒着関係がある場合、最適化がすすまないことでしょう。その費用負担は結局自動車保険の加入者が負担することになるので、適正化が望まれます。


    <法律の専門家>


    亀井正貴弁護士は「ビッグモーターの不正行為は、刑法上の器物損壊罪や詐欺罪に当たる可能性がある。しかし、刑事責任を追及するには、不正行為に関与した個人や組織を特定することや、故意性や被害額を立証することなどが必要であり、ハードルが高い」と述べています。第三者調査としての自白をもとにどこまで真実に迫ることができるかがカギですが、刑事罰となると従事していた従業員が逮捕される事態につながります。

    山口真由弁護士は「ビッグモーターの不正行為は、民事上でも損害賠償請求の対象となりうる。しかし、被害者である保険会社や利用者は、不正行為によって具体的にどのような損害を受けたかを明らかにする必要がある。また、時効の問題も考慮しなければならない」と説明しました。保険会社は本来払う必要のない修理費に関して保険料を負担し、その保険料は自動車保険の料金に転嫁されています。しかしどの箇所が不正に傷をつけられた部分かを明確化していくには、現場の情報がないため、第三者調査だけに頼ることになります。裁判をするための費用や手間を考えると、被害が数万円で住んでしまう場合は多大な苦労に見合わないと感じる消費者も出てくることでしょう。

    丹羽洋典弁護士は「ビッグモーターの不正行為は、自動車事故の保険金問題における信頼関係を根底から揺るがす大事件だと思う。この問題を防止するためには、保険会社や修理工場の監督体制を強化することや、消費者の権利意識を高めることが必要だ」と主張しています。結局うるさい世間の目があることが犯罪の抑止力となるというわけですね。

    ビッグモーターの経営責任は?

    こうした各界からの圧力に屈して第三者調査を行ったビッグモーターですが、明らかに不正を行ったことを発表せざるをえない状況に追い込まれました。その結果ビッグモーターの経営陣は経営責任をとるため、兼重宏行社長ら経営陣が報酬の自主返上を決めました。また、不正請求があったお客さまや損害保険会社に対しては返金や等級訂正などの対応を進めるとしています。さらに、過去5年間にさかのぼって全件調査することも発表しました。

    詐欺事件としての問題点

    あらためてこの事件を振り返って、詐欺事件としての要件を満たしているかを考えてみます。詐欺事件かどうかは、法的な判断が必要ですが、一般的に詐欺罪の成立要件は以下のようになります。
    • 虚偽又はその他不正な手段
    • 相手方の財産上の利益を侵害する目的
    • 相手方に錯誤(まちがえ)を生じさせる
    • 相手方から財産上の利益を得る
    この問題では、ビッグモーターが虚偽又はその他不正な手段(車体への傷付けや部品交換)で損害保険会社から保険金を得ようとしたことは明らかです。また、損害保険会社はビッグモーターの申請内容を信じて保険金を支払ったことから、錯誤を生じさせられたと言えます。さらに、ビッグモーターは損害保険会社から財産上の利益(保険金)を得たことも事実です。したがって、この問題は詐欺罪の成立要件を満たしている可能性が高いと考えられます。

    まとめ

    ビッグモーターは組織的な不正を行い、その行為は詐欺行為といえる犯罪行為です。しかし行われていた不正行為の件数が多い事や一件一件の被害額が小額であること、犯罪行為の内容を立証することが難しいことから、法的に裁くことは難しいと言わざるを得ないでしょう。しかし問題が表面化し、ブランディング上大きく価値を棄損し、売上にも大きな影響がでるなど、社会的な制裁を受けている最中でもあります。

    こうした不正行為はどこの業界にも多かれ少なかれあるかもしれません。「売上至上主義でばれないからやってやろう。」「どうせだれも損しないからいいんだ」などの言い訳で、自分や部下を納得させ、売り上げを作らざるを得ない中間管理職を生み出してしまう企業は、社会に害悪や不幸せを再生産する組織になってしまいます。

    今回は取り上げませんでしたが、店の前に街路樹が生えていると、雑草を抜くのが手間なので枯らしてしまうほど大量に除草剤を捲くなど、社会への影響で自分が問題ないと判断した範囲でわがままなことを行っているなど、詐欺行為をする組織はさまざまな問題行為をおこなってしまうものです。

    投資と詐欺でも継続的に追っているスルガ銀行不正融資事件でも、社員が売上を求められた結果、個人としての倫理観や企業人としての誇りを歪曲させられてしまう、踏みにじられてしまった結果、不正な行為がまかり通るようになってしまいました。

    こうした問題は社内だけでは自助解決できないものです。社会からの厳しい視線で不正を正していく必要があるのかもしれません。

    投資と詐欺編集部
    投資と詐欺編集部
    「投資と詐欺」編集部です。かつては一部の富裕層や専門家だけが行う特別な活動だった投資ですが、今では一般の消費者にも未来の自分の生活を守るためにチャレンジしなくてはいけない必須科目になりました。「投資は自己責任」とよく言われるのですが、人を騙す詐欺事件は後を絶ちません。消費者が身を守りながら将来の生活に備えるための情報発信を行なっていきます。

    Related articles

    Comments

    Share article

    spot_img

    Latest articles

    Newsletter