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    スルガ銀行の元営業トップとスルガ銀行が骨肉の裁判!裁判記録からみる驚くべきスルガ銀行の実態

    麻生裁判とは、スルガ銀行の売上・利益の8割を占める個人向け不動産ローンを率いた麻生治雄氏がスルガ銀行不正融資事件の戦犯として事実上クビにされたことを不服として、スルガ銀行を訴えた裁判です。投資と詐欺編集部では、不正な融資が横行した事実を経営幹部たち自身が認め、責任の所在を争い証言を行った裁判記録を入手し、実際に裁判を傍聴した方にも取材を行いました。外部からの批評ではなく、当事者たちの発言からスルガ銀行不正融資事件を語っているその一端を見ていきたいと思います。

    営業部門にモノ申せないー堤智亮、スルガ銀行常務取締役 兼 審査本部長の証言

    堤智亮氏は現在のスルガ銀行において常務取締役を務める経営幹部です。1990年にスルガ銀行に入行後、営業店、経営企画、経営管理部などを歴任後、2017年には審査部門長に就任する生え抜きのエリートです。2022年6月29日開催の物議をかもしている株主総会にも出席する人物です。

    「私は審査部門を担当するのは、2017年4月に審査部長になったときが初めてであり、それまで審査業務を担当したこともありませんでした。審査部長になってまず驚いたことは、一般的なサラリーマンが1億、2億円もする物件を購入していることです。他部署にいる間は個人ローンの全体的な数字は見えていましたが、個々の稟議は見ていなかったので審査部に移動し具体的な収益不動産ローンの内実を見て驚きました。当時は会社の利益を作り出している営業部門に対してモノを申せない雰囲気が審査部門も含めて銀行全体に蔓延していましたから、収益不動産ローンの内実に個人的におどろきは感じたものの、私は審査部の従前のやり方を踏襲していました」

    と語ったのちに、案件内容が多すぎて精査できない中、処理を続けたと続けています。所謂めくらばんを押す日々だったのでしょうか。ただ門外漢ながら審査部門トップを続ける中で、現場から審査意見として、融資案件に対して否定的なコメントが出ていることは無視できなかったようです。証言の中でも触れています。

    「『審査意見』を見ると2016年から取り組みに否定的な意見が急増していることがわかりますが、今思えばその頃になると銀行として融資の対象とすべきではない物件や一定以上の属性を備えていない債務者が増えてきているため、審査部内でそのような『審査意見』が頻出しているのだと思います。しかしながら稟議上は当行への返済資金は確保できる形に整えられており、さらに稟議資料の中の補足説明書に『パーソナルバンク協議済み案件』と記載があると、審査部としては、麻生治雄氏が認識し、案件の実行に関し責任を取る案件であると理解していました。したがって、営業のトップである麻生氏が責任を取るといっている以上、審査としてそれを拒絶することは当時の当行内の情勢からは不可能でした

    営業部が強いスルガ銀行内部の当時の雰囲気を表現している証言ですが、審査部門が営業の横車に機能不全に陥っている様子や、審査の現場を知らない審査部門トップが営業部門の暴走を食い止められなかったという状況が伝わってきます。

    もともとスルガ銀行は創業家である岡野家の牛耳るオーナー企業でしたが、麻生氏はオーナー一族である岡野一族の抜擢で営業担当執行役員に就任していた経緯があります。その上、なんと麻生氏が推進する個人向け不動産ローンはスルガ銀行の売上と利益の8割を作っていたといわれています。

    このような状況は第二審査部の部門長だったM氏も証言しています。

    「(麻生氏に)『じゃあどうやって数字をつくるんだ?』『そうすると100億数字が落ちる。どう責任を取るんだ?』と言われれば、何もいうことができませんでした」(元スルガ銀行第二審査部長の証言より)

    個人向け不動産ローン分野で、圧倒的な実績を築く麻生氏。ですがその手法は書類を改ざんし、本来融資を行うべきではない物件や対象者に融資を行うという大きなリスクをはらんだ手法でした。スルガ銀行の審査部門も営業店の店長もそのことを知った上で大きな売上と利益を背景に強権を振るいパワハラも辞さない麻生氏率いる営業部門に流されてしまったといいます。

    不正は知っていたが数字を挙げなければ殺されるー現名古屋支店 支店長の証言

    実際に現場の営業担当として不正融資に関与していたW氏は改ざんが行われていただろうと認め、当時のことをこう語っています。

    「私は収益不動産ローン案件の多くで、融資関係資料の偽装・改ざんが行われているだろうと思っていました。例えばまだ20代であるにもかかわらず、通帳の写しを見ると数千万円の保有資産をもっているような顧客が次々現れるのです。常識的に考えて、提出された通帳の写しが改ざんされていることは明らかだと思います。しかしながら私は、多くの案件で、このような偽装、改ざんに目をつむってそのまま融資を実行していました」(現スルガ銀行名古屋支店 W支店長)

    現場のトップである支店長ですが、実際は本社の圧力におびえる日々だったと語っています。

    「当行では、毎期、増収増益が求められ、特にパーソナルバンク所属支店の営業担当者は、きわめて重いノルマが課せられ、ノルマを達成できなければ上長から厳しい叱責を受けていました。営業担当者はなんとかノルマを達成しようと、常に多数の融資案件を抱え、必死に処理していました。もし原本確認を徹底すれば、その分だけ融資実行が遅れますし、原本確認により偽装・改ざんが判明すれば、その融資案件がなくなるため、数字を上げることができません、さらにチャネルからも敬遠されることとなり、今後、新規案件の持ち込みがなくなってしまいます。このような状況の中で、営業担当者が原本確認を徹底することなど物理的にも心理的にも不可能でした。私は偽装・改ざんを認識しつつも、気づかないふりをして、案件を処理していました」(現スルガ銀行名古屋支店 W支店長)

    本社の圧力は、昔のブラック企業をそのまま地で行くような、怒号と示威的な暴力を含む行為だったといいます。ここで証言した関係者自身も自ら同じようなふるまいを取っていた可能性もありますが、スルガ銀行がそのような社風であったことは間違いがなさそうです。具体的に描写した証言を見てみましょう。

    「罵倒・叱責は様々です。『バカ』『アホ』などの罵倒は当たり前で、『今すぐビルから飛び降りろ』と言われたこともあります。また椅子を蹴られる、反省文を書かされて支店内に配布される、何時間も立たされる、書類を投げつけられる、怒りに任せて机の上の電話機を殴られるといったこともありました」(W氏)

    スルガ銀行は、こうした昔のドラマでしか目にしないような、クリーンでない社風でしたが、実際に圧力にさらされた組織内に生きる行員は生きた心地がしなかったようです。W氏はこうも語っています。

    「当時、私は数字をあげなければ、本当に殺されるのではないかと思っていました。当時は何が何でも数字をあげなければならないという考えに支配されていました」(現スルガ銀行名古屋支店 W支店長)

    麻生氏に責任を負わせたいスルガ銀行

    こうした複数の経営幹部の証言は、事実に基づく当事者の証言であることには間違いがありません。ですがスルガ銀行が弁護団の指導の下、麻生氏に責任を負わせようと戦っている裁判の中での証言ですので、利害関係が含まれています。スルガ銀行を弾劾する麻生氏の発言も公平に見ていく必要があるでしょう。次回は麻生氏の発言から、スルガ銀行が組織的な責任をどのように負うべきだったかを見ていきたいと思います。

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    投資と詐欺編集部
    投資と詐欺編集部
    「投資と詐欺」編集部です。かつては一部の富裕層や専門家だけが行う特別な活動だった投資ですが、今では一般の消費者にも未来の自分の生活を守るためにチャレンジしなくてはいけない必須科目になりました。「投資は自己責任」とよく言われるのですが、人を騙す詐欺事件は後を絶ちません。消費者が身を守りながら将来の生活に備えるための情報発信を行なっていきます。

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