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スルガ銀行不正の暗部をえぐる麻生裁判のおどろきの判決とは?

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スルガ銀行の元経営幹部、麻生氏は、スルガ銀行不正融資事件の責任を麻生氏個人の業務の進め方にあるとして、スルガ銀行が懲罰的な降格人事の後に不当解雇したことを不服として、スルガ銀行を相手取り解雇無効を主張した裁判を起こしました。その判決が2022年6月23日に示されました。この裁判は通称「スルガ銀行麻生裁判」または「麻生裁判」と呼んでいます。今回の記事では、「麻生裁判の判決」、「裁判で争われた5つの争点」、「判決から見える裁判所がスルガ銀行の不正融資の理解」に関して解説していきます。

麻生裁判の判決

裁判の判決には主文という結論にあたる部分があります。冒頭に掲示されるのですが、まずはそちらからご紹介していきます。

被告は、原告に対して、次の金員を支払え。

1)150万円

2)平成31年3月から令和2年3月まで毎月22日限り50万円およびこれらに対する各支払い期日の翌日から支払い済みまで年6%の割合による金員

3)令和2年4月から令和3年7月まで毎月22認知限り50万円及びこれらに対する各支払い期日の翌日から支払い済みまで年3%の割合による金員

2原告のその余の請求をいずれも棄却する

3訴訟費用は、これを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

平成31年(ワ)第5925号 地位確認等請求事件 判決 主文より

判決によると、被告(訴えられたスルガ銀行)は、原告(訴えた麻生氏)に150万円のお金と、未払いの給料を利子付きで支払うように命じています。麻生氏は慰謝料800万円、減額前の給与をベースに月182万円未払い給与の支払いをもとめていたので、要求が満額回答で答えられたわけではありませんが、麻生氏の主張が認められ、一見、スルガ銀行に勝訴したようにみえる内容です。

窓際に左遷されても月給が50万円あるという点は、金融機関の給与水準の高さを示すものではありますが、減額前は182万円相当の月給であったことを考えると懲罰的な水準まで給与を下げられていたということなのでしょう。麻生氏がCo-COO(営業の執行役員)という高い地位にいたことが、給与の面からもうかがわれます。

ですが、この判決に至った、麻生氏、スルガ銀行双方の主張がぶつかる争点に関して、裁判所が下した判断は、麻生氏の主張も、スルガ銀行の主張も見事に否定している内容になります。

判決では、麻生氏の解雇は不当としながらも、慰謝料の請求を認めず、懲罰的な人事異動であったことも認めませんでした。スルガ銀行側の「不正融資や、不正融資を招いた審査機能の形骸化は麻生氏の責任」であるという主張を全面的に否定しています。

裁判所は、スルガ銀行不正融資はスルガ銀行の組織的な問題であり、麻生氏の解雇は不当であるとスルガ銀行を断罪した上で、麻生氏の降格は常識的な範囲での人事異動で懲罰性はなかったと判断し、麻生氏の主張を退けたうえで、スルガ銀行の解雇は不当なので、未払い給与の支払いを命じたのでした。

麻生裁判の5つの争点

判決では5つの争点があったと整理されています。

  • 争点1:部署移動が懲罰的な内容だったか
  • 争点2:懲戒解雇は有効か無効か
  • 争点3:就業規則にのっとった懲戒解雇の理由の該当点はあったか?
  • 争点4:懲戒解雇の処分の妥当性
  • 争点5:不法行為の成否、損害の有無・額

それぞれについてみていきます。

争点1:部署移動が懲罰的な内容だったか

スルガ銀行の主張では部署移動は合理的な判断を麻生氏自身が下したと主張していますが、麻生氏は給与の大幅減額、異動先で業務がなかったこと、異動後に異動前の仕事の対応を強要されるなど異動に合理性はなく懲罰的人事だったと主張しました。

スルガ銀行の主張麻生氏の主張
懲罰的な意味はない。麻生氏が自ら執行役員を降りた。
麻生氏は自らの裁量で、前例をもとに
妥当な給与と地位を判断し、部署移動を自分で決めた。
企業秩序違反の懲罰罪だった
・異動先で業務を与えられなかった。
・「金融庁のヒアリング対応」など、
自分しかできない業務があったが、不当に異動を強いられた。
・月給が約182万から50万円に減額された

判決では、スルガ銀行の人事権の行使だった。懲戒処分とは言えない。として麻生氏の主張を全面的に否定していきます。

争点2:懲戒解雇は不当か?

スルガ銀行側の主張麻生氏の主張
異動は懲戒処分ではない。
解雇は麻生氏の不祥事の結果の懲戒処分。一事再審理に当たらない。
正当な処分
異動と解雇は2つの別の処分。
異動後に業務が与えられなかった。
異動と解雇は同じ理由と考えられる。
同じ理由で複数回の処分を禁止する一事再審理の禁止原則に反するため解雇は不当

判決では、これは懲戒処分ではないから、この争点は成り立たない、として争点としても認めませんでした。

争点3:就業規則にのっとった懲戒解雇の理由の該当点はあったか?

スルガ銀行の主張麻生氏の主張
非違行為がある。懲戒解雇は妥当な処分
1)強権を振るって審査部門を形骸化させた
 審査部門幹部を恫喝した
 審査役を恫喝した
人事部に干渉して都合の良い人事を通した
審査機能を弱体化する改悪を推進した
2)副社長の指示を無視した
3)部下・営業社員の監督を怠った

上記は就業規則違反。懲戒解雇は妥当。
審査部門は独立している部門。
自分の権限は及ばない。
自分に審査部門の人事権はない。
審査内容変更は全社決定を経ている変更。
審査部門は勝手に暴走した。
上長の業務指示にさからったことはない。

懲戒処分は不当。

判決では、麻生氏は執行役員だがあくまで従業員であるため、社内で対抗できる担当部門や担当者がいるはず、審査の形骸化は組織の問題、との判断を示し、スルガ銀行側の落ち度を手厳しく指摘しています。

「審査担当者には、適正に融資審査をすべき職責があるのであるから、原告の要求について業務として正当化される程度を超える問題があると考えるのであれば審査部長または審査部管掌取締役に対して対応を求めたり、信用リスク委員会や経営会議、取締役会等で問題にしたりすることによって是正を図るべきなのであって、そのような措置も取らないまま、原告からの要望であることを弁解として、稟議書等に記録するのみで、不適切と考える融資の審査を承認したとすれば、当該審査担当者は職責を放棄していたと言わざるを得ない。」

麻生裁判判決文より

麻生氏ではなくむしろ審査部門の担当者や組織の問題であるとしています。副社長の指示に違反したとは言えない。部下営業社員の監督義務は怠っていたとは言えない。と次々とスルガ銀行側の弁明を否定していきます。

争点4:懲戒解雇の処分の妥当性

スルガ銀行の主張麻生氏の主張
1)麻生氏の犯した罪が重い
2)手続きに瑕疵はない。
権利の濫用。不当である。
1)処分の重さが不当に重い
2)処分内容が不平等
3)手続きに瑕疵がある

(1)本件懲戒解雇
    上記4の通り、被告が就業規則所定の懲戒事由に該当する事実として主張する原告の非違行為1〜3は、いずれも認定するに足りる証拠がない。したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件懲戒解雇は客観的に合理的な理由を欠き、本件懲戒解雇は、客観的に合理性を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから、権利の濫用に当たり、無効である。そうすると、本件労働契約は、本件懲戒解雇後も存続していたことになるが、前記認定事実(10)の通り、原告は、令和3年7月26日に定年に達していおり、本件労働契約は、同月31日をもって終了したことが認められる。したがって、原告の地位確認請求は理由がない。

麻生裁判判決文より

上記の通り判決では、スルガ銀行側の懲戒解雇を不当と断じています。

争点5:不法行為の成否、損害の有無・額

スルガ銀行の主張麻生氏の主張
主張を認めない。・不正融資の組織的責任を隠ぺいする
ために、麻生氏に罪をかぶせる懲罰的で不当な人事異動と解雇。
・8か月もの間、なんの業務も与えられなかった
・精神的に苦痛を受けた
・800万円の慰謝料を要求

第5 結論
   よって、原告の請求は、①本件懲戒解雇後の平成30年12月分から平成3年2月分までの月額50万円の給与合計150万円、②同年3月から本件懲戒解雇がされていなければ定年退職となるはずであった令和3年7月まで、毎月22日限り50万円及びこれらに対する平成31年3月から令和2年3月までは各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6%の割合による遅延損害金、同年4月から令和3年7月までは各支払期日の翌日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるから容認し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法64条本文、61条を適用して、主文の通り判決する。

麻生裁判判決文より

上記結論に記載の通り、この争点に関しては、裁判所はスルガ銀行の非を認めながらも、麻生氏主張の慰謝料請求に関しては認めませんでした。

まとめ:裁判を通じて見えてきたものスルガ銀行の組織的な責任

麻生氏は不当にスルガ銀行に解雇されたという点を認められました。解雇が不当ということで、未払いの給与の支払いを受けることになりました。またスルガ銀行が不正な融資を行う体質になってしまった責任がすべて麻生氏にあるというスルガ銀行側の主張は否決されました。

しかしスルガ銀行側の証言としてあがってきた「強い営業成績への執着とそのために審査部門に恫喝を繰り替えした過去」は多くの人に不当なパワハラであると感じられたことでしょう。強権を振るった事実はあったようです。

ですが銀行の審査部門が一営業部門のトップの主張で右往左往し、審査を形骸化させるのは職務怠慢であり、組織的に改善できなかったスルガ銀行という組織に問題があるという判断が下されました。

判決の中では、スルガ銀行側が提出した麻生氏の専横を示す多くの具体的な証言がふくまれていましが、その一つ一つに対して、判決の中で、反証が加えられ、組織的に問題があると切って捨てられてる結果となりました。

今回の裁判ではスルガ銀行の組織的な問題が浮き彫りになった形で判決が出ています。スルガ銀行としては麻生氏に責任を押し付けて不正融資問題の幕切れをする、という訳には行かなかったようです。今後のこの裁判の動向には引き続き注目していきたいと思います。

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