2018年11月、スルガ銀行は当時の営業部門の執行役員であった麻生治雄氏を、スルガ銀行不正融資の「戦犯」として解雇処分にしました。麻生氏はスルガ銀行を地銀としては異例の個人向け不動産ローン分野での業務を通じて10年以上巨額の売上と利益をスルガ銀行にもたらした中心人物です。
営業の中枢にいた麻生氏ですが「いきなりの解雇」を不服として、スルガ銀行を相手取り、解雇不当の裁判を起こしています。前回スルガ銀行側が麻生被告に責任があると主張した内容を取り上げましたが、今回は、麻生被告がスルガ銀行に対して行った反論を取り上げていきます。
どちらが正しいかはさておき、その主張の応酬は同じ組織に所属していたキーマン同士が言葉で殴り合い論理で刺し合う血みどろの様相を呈しています。
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目次
解雇の経緯
何人ものスルガ銀行側のキーマンが出廷し発言していますが、「被告(スルガ銀行)からは何通も陳述書が提出されているところ、そのほとんどは、不可解なまでに持ち出されるケースや私の発言等が合致しており、コピー&ペーストの形跡も散見される」と麻生氏はスルガ銀行の組織的な麻生攻撃を批判します。
麻生氏のスルガ銀行内部での役職や役回り
麻生氏は1984年にスルガ銀行に入行し、営業畑として順調に出世したようで、2002年から執行役員に就任。2010年からパーソナルバンク部門の部長に就任、2015年からカスタマーサポート本部長の本部長およびCo-COO(副・最高執行責任者)に就任します。
スルガ銀行では副社長がCOOを名乗ります。Co-COOは副社長配下に当時3人いたといいますが、パーソナルバンク部門の本部長として個人向け融資を統括していた麻生氏は、重要な役職を務めていたことは間違いありません。麻生氏は「スルガ銀行にはCo-COOの業務規定はなかった」「岡野副社長の代理人として経営会議に出席したり、業務指示を出したことはない」と証言していますが、課長代理が課長の代わりに打ち合わせに参加したり業務指示をだすことは通常の会社でも普通にあることです。重要なポジションにあり多忙なCOOの代わりにCo-COOが指示をだすことは普通にありそうな気がします。
携帯電話を提出させられ、窓際社員に
麻生氏自身の証言によると、2018年2月初旬に不正融資事件の責任を問われ、当時の役員だった白井専務の命令で、社用携帯電話と個人用携帯電話を提出させられ、その後、当時の会長だった岡野氏から執行役員の解任を申し伝えられたといいます。携帯電話は専門業者による解析(デジタル・フォレンジング)を行い、通話先やメールのやり取りを記録され、不正に関与したとおもわれる内容を洗い出されたということでした。第三者委員会の報告時には、麻生氏以外にも多くの社員の電話・メール履歴が解析にかけられたといいます。
その後、3月から解雇される11月まで、危機管理委員会などの調査でヒアリングを受ける以外は何も業務がない窓際状態に置かれたと証言しています。(それでも年棒600万をもらえていた上に、自分自身の訴訟に備え顧問弁護士を用意していたそうです。非常に強く訴訟を意識していたことがうかがわれます。)
麻生氏を不意打ちにしたスルガ銀行の弾劾会議
11月に懲戒処分の審査のための会議の出席を求められ「弁護士と相談することもできないまま」不意打ちの弾劾会議に出席することになり、解雇処分を受けたと証言しています。
麻生氏はただの窓際で干された社員ではなく、この当時すでに弁護士に相談し、戦う準備を取っていたことが伝わってくる証言です。
麻生氏は不意打ちを受け、弁明も十分できないまま、圧力に屈し、懲戒解雇の書類に署名したと証言しています。スルガ銀行側は弁護士を2名臨席させ、強い圧力をかけてきたということです。その結果麻生氏は解雇を受け入れる書類にサインしてしまったということです。
この会社側の一方的な主張で行われた解雇は不当だとして、麻生氏はスルガ銀行を相手取り裁判を起こすことになりました。
「自分は強権を振るった絶対者ではない」と語った麻生氏の主張
営業部門のトップは現場の詳細には関わらない?
麻生氏は自分自身が2002年以降、管理職として営業現場から離れたと証言しています。管理職として支店ごとの営業目標を設定し、管理する立場だったので、細かい実務は見ていないと証言しています。また自分が合理的ではない案件をごり押ししようとしても、営業店の店長が事前に判断をしたら、職務上、麻生氏の決裁をまたず否決できるわけだから、細かい案件操作はできない組織構造になっている、と証言しています。
この証言はスルガ銀行の支店長クラスの証言で、「営業店の店長(いわゆる支店長)でも麻生氏が案件の細かい数字まで把握して強権を振るっていたため、麻生氏の意向に逆らえなかった」とする証言への反論にもなっています。
スルガ銀行の主張、麻生氏の主張、どちらも「あってもおかしくない話」に整えられているが果たして裁判所の判断は?
麻生氏の主張が正しければ、スルガ銀行は組織的に不正な行為を行っており、麻生氏はその意図を組んで行動した一従業員ということになります。営業部門のトップを任されていましたが、営業目標を決め管理する側であった、一方的に解雇される一社員でしかなかったことになります。たとえ営業主導の不正な融資があったとしても、審査する役目にある審査部門や経営層にきちんと管理する責任が問われる形となります。
スルガ銀行側の主張が正しければ、スルガ銀行の不正は創業家の意向を汲んで就任した麻生氏が大きな売上と利益をもとにスルガ銀行に恐怖政治を敷いたことになります。創業家と訣別し、麻生氏を放逐したことでクリーンな企業として生まれ変わることができる、というシナリオをスルガ銀行は描いているのではないでしょうか?
外野からみると、すごく強権を振るっている権力者がいる会社も、組織的に現場が権限を持っている会社も両方あっておかしくないので、真向から対立した主張のどちらが正しいかは、判断がむずかしいです。
次回はこうして交わされた双方の主張に対して、裁判所がどのように判断を下したかを見ていきます。