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    ドラマ「クロサギ」に学ぶ―『起業セミナー詐欺』

    詐欺師を騙す詐欺師。『クロサギ』。TBS系金曜ドラマ」枠で放送されている。ドラマで描かれた様々な詐欺を題材にその手口を学んでみたい。第1回は、『起業セミナー詐欺』である。
    ※一部ネタバレになりますので、ご注意ください。

    詐欺師はなぜ捕まらないのか?

    ドラマでは、法律では裁けない詐欺師たちが描かれる。なぜ、彼らは、明らかに人を騙しているにも関わらず、捕まらないのか。まずは、ここから、始めよう。詐欺とは、人を欺いて、金品をだまし取る犯罪である。だが、詐欺の立証は、思いのほか、難しい。考えてみて欲しい。私が、道で拾った石ころを誰かに、1万円で売り渡したとしよう。あなたは私の詐欺を立証できるだろうか?立証するには、私が『人を騙す』意思を持っていたことを客観的な証拠を示す必要がある。しかし、私の意思は、私しか知らない。『騙すつもりはなかった。』といくらでも言い逃れができる。しかも、石ころには価値がないことを証明するのも、実は、難しい。買い手が、納得した上で、1万円を払ったならば、購入時点では買い手が、1万円の価値を感じていたと言えるからだ。つまり、立証が極めて困難であるがゆえに、詐欺師は捕まり難いのだ。

    起業セミナー詐欺とは

    第一話のテーマは、起業セミナー詐欺だ。ドラマでは、大金を騙し取る手口が描かれる。シロサギは、まず、無料セミナーで、ターゲットを集める。そして、相談に乗る親切な講師を装いながら、有料コースへターゲットを誘う。もっと、具体的な情報をお渡しできますといった売り文句で。そして、入会金や会費を納めさせ、ターゲットを囲い込む。メインターゲットは、リストラや定年で、働き場を失った中高年だ。彼らは、強い挫折感を抱えている。しかし、それでも自分の力を信じ、もう一旗上げたいと願っている。そんな心の弱みに付け込み、退職金という虎の子の財産を巻き上げる。それが、起業セミナ―詐欺である。

    勿論、セミナーをいくら受けたところで、実際に起業し、成功できる人は一握りである。多くのターゲットは、自分には無理だったと気づき、退会を申し出ることなる。ここで、シロサギは、ひと芝居打つ。『あなたのチャレンジに私は感銘を受けていました。』と心にもないことを言い、『追い込まれての決断は、たいてい間違っている』と翻意を促す。

    起業への再チャレンジを決意したターゲットは、さらなるアリ地獄へと導かれる。

    周囲の起業を目指す仲間達と、ゴルフや、バーベキューなどのイベントを共にし、高級車を乗り回す成功者達とのパーティを興じるなかで、仲間達との信頼感が生まれ、夢が膨らみ、やがて、貯金が底をつく。決して、レンタカーやサクラを使った、偽りの成功を見せられているとは、最後まで気づかない。

    この起業セミナー詐欺の恐ろしいところは、騙されたと気づかないか、気づいても、自らは認めないことにある。確かに、お金は無くなった。成功もしていない。しかし、自分は頑張った。ちょっと、運がなかっただけだ。そう考えて、被害を訴えることはしない。まさに、シロサギの思うツボである。

    また、シロサギにとっては、引き際が肝心な詐欺である。調子にのって稼ぎ続けると、警察にも目を付けられやすくなり、自分の首を締める。もし捕まった場合の保険として、シロサギは、大金を隠す場所を探すようになる。

    クロサギの手口

    このシロサギから、お金を騙しとるのがクロサギである。クロサギには、シロサギ界のフィクサーが後ろ盾としてついている。確かに、詐欺は捕まりにくい犯罪だ。だが、それもほどほどにやっている場合の話だ。億単位の大金をだまし取るなど、荒稼ぎをすれば、当然、警察も黙ってはいない。また、被害者の数も多数になれば、集団訴訟などを起こされるリスクが高まる。そんな、荒稼ぎをするシロサギは、シロサギ界の迷惑者でもある。この禁を犯したシロサギには、フィクサーがクロサギを送り込むのだ。見せしめとして。

    クロサギの手口は、シロサギよりもさらに、巧妙である。資産を隠せるフィンテック企業の社員として、シロサギに近づく、会社の登記簿は本物だ。Webページには、有名企業との関係を示す写真が載っている。勿論、身なりも羽振りもよい。こうした、詐欺の小道具は、フィクサーが準備したものだ。第一印象で、シロサギも『本物かも…』と騙される。だが、この時点で、いきなり喰いつくことはない。まだ、状況が整っていないのだ。

    クロサギは、じわじわと外堀を埋める。シロサギが雇っていた業者を買収し、騙されたターゲットを仲間に引き入れる。そして、一気に仕掛ける。シロサギが、『哀れな中高年に夢を売った』とうそぶく動画をネットに流し、謝罪会見を開かせる。会見では、騙されたターゲットが、本気で怒る。こうして追い込まれたシロサギに、クロサギが悪魔の誘いをかける。

    『資産を隠すお手伝い、致しますよ。』追い込まれたシロサギは、自ら全資産をクロサギの口座へと入金する。まさに、『追い込まれての決断は、たいてい間違っている』という自らの言葉通りだ。最後に、クロサギがこうささやく。『ご馳走様でした。』

    投資と詐欺編集部
    投資と詐欺編集部
    「投資と詐欺」編集部です。かつては一部の富裕層や専門家だけが行う特別な活動だった投資ですが、今では一般の消費者にも未来の自分の生活を守るためにチャレンジしなくてはいけない必須科目になりました。「投資は自己責任」とよく言われるのですが、人を騙す詐欺事件は後を絶ちません。消費者が身を守りながら将来の生活に備えるための情報発信を行なっていきます。

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