2024年1月19日午後、静岡地方裁判所で行われたスルガ銀行の不正融資問題に関する証人尋問で、元行員のK氏が証言に立った。午前中に証言したW氏同様、長年スルガ銀行で営業マンとして活動したK氏は、経営陣の指示に反してスマートライフ関連の不正融資が行内で継続されていたという実態に関して、克明に語った。
目次
K氏の経歴と担当業務
K氏は2007年12月にスルガ銀行に入行。ドリームプラザ大宮、横浜東口支店などで、主に個人向け不動産融資業務に従事した。
横浜東口支店では2015年半ば頃からシェアハウスローンを担当。当時の融資案件の9割以上がシェアハウスで、そのほとんどがスマートライフ関連の案件だったという。「シェアハウスローンは横浜東口支店の生命線といっていい状況でした」とK氏は振り返る。
スマートライフ禁止指示とその違反
しかし2015年2月頃、元副社長の喜之助氏からスマートライフの取扱いを禁止する指示が下った。「当時のスルガ銀行では、副社長の言うことは絶対でした。それがたとえ口頭の指示であっても守らなければならないものでした」とK氏は証言する。
ところが、横浜東口支店のF支店長と営業担当部長のS氏は「スマートライフの名前が使えなくなったので、これからはアマテラスでやる」と言い、取扱いを継続したという。「横浜東口支店の数字はもうスマートライフ頼みでしたから、何としても取扱いを継続したかった。それが営業現場の思いでした」とK氏は証言した。
原本確認の欠落
スルガ銀行の内規では、融資実行時までに顧客の預金通帳などの原本確認が義務付けられていた。しかしK間氏はそれを確認していなかったという。
「もし原本を確認して偽装が発覚すれば、融資ができなくなります。営業として数字を作るためには、目をつぶるしかなかったんです」。融資実行までのタイトなスケジュールの中で、あえて書類の原本に目を向けなかった背景が浮かび上がる。
審査部門への介入
不正融資を支えていたのが、営業担当部長のA生氏の存在だ。A生氏は毎週水曜日に横浜東口支店を訪問。融資案件のほとんどに事前承認を与えていたという。
「パーソナルバンク協議済みと記載された案件は、審査部門でほとんど否決されることはありませんでした」とK氏。A生氏は時に審査担当者に直接電話し、強い口調で融資を促したこともあったという。
偽装の常態化
K氏自身、多くの案件で顧客の自己資金確認資料の偽装を疑っていた。「通帳の残高が年齢や収入に見合わない高額なケースが少なくなかった」というのだ。
しかし、「営業成績のために、偽装に気づいても見て見ぬふりを続けた」と告白する。行内ではそれが日常的に行われていたことも明かした。
イノベーターズへの集約
スマートライフとアマテラスの取扱いも次第に難しくなっていく。しかし営業現場の姿勢は変わらなかった。「今度は業者の名前で直接やれと。そう指示されました」
こうして持ち込まれた案件は最終的に「イノベーターズ」に集約されていったという。「イノベーターズの役員はスマートライフの元社員。実質的にはスマートライフが運営していました」。禁止の対象となった案件は、看板を掛け替えながら、行内に温存されていたのだ。
不正を認識していた行員
K氏は、「支店では皆、スマートライフ案件の取扱いが継続されていると認識していました」と語り、不正融資の実態を行員たちは認識していたと言う。
ただ、多くの案件を抱える中で「これは不正だ」と深く考える余裕はなかったという。「とにかく目の前の案件をこなすことに必死で、それ以上は考えられませんでした」。行員たちは、目標達成のためにただ前だけを向いて走り続けていたのだ。
銀行の責任と課題
一連の証言から浮かび上がるのは、スルガ銀行の脆弱なガバナンス体制だ。不正を招いた背景には、営業現場に過度なプレッシャーをかけながら、審査部門の牽制機能が働かない企業風土があった。経営陣の責任は重大だ。不正の実態を知りながら、それを漫然と放置したのではないか。リスク管理の甘さが度重なる不祥事を招いた原因といえる。
金融機関への信頼を揺るがす事態に、スルガ銀行は抜本的な改革を迫られている。二度とこのような不正を起こさないために、ガバナンス体制の見直しと企業文化の改善が何より急務だ。組織を挙げての再発防止策が問われている。