Home 詐欺と闘う 「スルガ銀行不正融資訴訟:元役員への追及と法廷のリアルドラマ」

「スルガ銀行不正融資訴訟:元役員への追及と法廷のリアルドラマ」

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詐欺被害
詐欺被害

スルガ銀行は審査書類の偽装や不動産会社との不適切な癒着による審査書類の改ざんや一般の消費者を餌食にする非常識な融資を繰り返して大きな融資実績をあげてきました。しかし無理な融資実績の拡大にひずみが生じ、2018年に発覚したシェアハウスローンの破綻、アパート・マンションの投資用ローンでの不正な融資実態の露呈につながりました。スルガ銀行の株価は2018年の問題発覚前には2300円以上あった株価が、社会問題化して一気に急落。一時は350円台を割るという信用の失墜を引き起こしています。

スルガ役員訴訟:不正行為の責任の所在は?

上場企業として株価が10分の1に失墜することは大きなダメージです。その経営責任を厳しく問う声は監督官庁である金融庁や被害者だけではなく、株主からも上がっていました。そこでスルガ銀行の現経営陣は、問題を引き起こした経営層と当時現場を推進していた役職者複数名を相手取り訴訟を起こしています。スルガ銀行による不正融資の責任の所在と実態に迫る裁判を、スルガ役員訴訟と呼ぶことにします。

高い営業目標とパワハラが書類改ざん・不正融資というゆがみを生んだ

I本氏によると、スルガ銀行の営業目標設定は非常に厳しく、常に新規融資の増加が求められていました。営業目標は当時の経営の実質的トップであったA被告率いる営業本部が決め支店に割り振っていたものでした。

スルガ銀行の一件当たりの融資額は平均8000万円。渋谷支店の場合、目標達成のためには30件程度の案件成立を求められました。6名程度の営業部隊が一人毎週1件以上の融資を作る必要がありますので、行員の独自の営業では到底賄えない状況と言えそうです。

融資残高の純増が重視され、前倒し返済や他行への借り換えなどがあると営業担当の行員に叱責があったほどでした。常に新規融資を増やし続ける構図になるわけですが、良質な投資物件が溢れかえっているわけではありません。ですが進捗は週に一回報告することになっているため、目標未達の営業は人格否定レベルのパワハラを受けることになります。

圧倒的な目標とパワハラ環境:I本氏の証言から

日本一の銀行になるという非常に高い目標を掲げたスルガ銀行は、営業部門に強いプレッシャーをかけ、未達成時には人格を否定するレベルのパワーハラスメントが行われたと言います。昭和のブラック企業のように、怒号が飛び交うことも日常茶飯事だったと言います。また、融資の実務に関しては、適切な原本確認が疎かにされていたことが明らかになり、これが不正行為を容易にしていたと指摘されました。このような実態が、今回の訴訟において重要な議論の焦点となっています。

そこでチャネルと表現される協力先として不動産業者からの紹介が重要になってきます。審査資料で預金残高が数千万円ある優良な消費者が毎週のように高額物件を申請してくることになるわけですが、顧客は全国に散らばっており、出張して現地での契約を結んでいたようです。営業としては全国のチャネルから提供された物件情報を充分精査せずに(書類の原本確認も行わずに)流れ作業のように社内で融資申請し、現地で物件購入のための融資のことを指す金消契約を行っていたという事です。

実際に裁判を傍聴した関係者によると「しらを切る」I本氏の言説が印象的だったと言います。「スルガ銀行側の弁護士が『渋谷支店の融資実行額のうち、シェアハウスはどの程度か』と質問するとI本氏が『1~3割程度』と答えました。『残りの7~9割はアパマン?』と弁護士がきくと、I本氏は『はい』と答えていました。シェアハウス、アパート・マンションともに不動産投資系の案件は同じような扱いだったようです。また弁護士による『原本確認をしていないことを部下から聞いたという事だが、行員がそういった不正への関与をしていたことを知っていたか?』という質問に対しては『知りませんでした』と回答。I本氏は渋谷支店で行われた数々の書類改ざんに関して、全て知らなかったと平然と答え続け、弁護士からの『業者から担当行員へのメールはccで所属長にも送られていたと報告書にも書いてあるが、そんなので支店長が務まるのか?』という厳しい質問に対して『務まっちゃいましたね』と赤面しながら自棄になった感じで答えた一幕もありました。自分はとにかく上の言われた通りやった。スルガ銀行はノルマがきついブラック企業体質だ。部下が勝手にやった。自分は悪く無いの一点張りという印象でした。」(傍聴者した関係者)

証言の中には「原本確認して案件が流れるようなことがあれば、案件がつぶれるだけでなく、そんな物件を持ち込んだチャネルも出禁になる。それは店舗も困るのでやりたくない」(I本氏)という本音も出ていました。

スルガ銀行の営業方針:融資プロセスの問題点

スルガ銀行の融資プロセスには深刻な問題があったことが、I本氏の証言から明らかになりました。特に、シェアハウスへの融資が焦点となり、これが全体の融資実行額の1~3割を占めていたという事実が、銀行の営業方針の偏りを示唆しています。しかし、それ以上に深刻なのは、原本確認の欠如とその結果としての不正行為への門戸の開放です。I本氏は、原本確認が適切に行われていなかったと証言し、これがスルガ銀行内の広範な問題を示しています。

このスルガ役員訴訟は、スルガ銀行の現経営陣が旧役員陣に対する訴訟を起こした背景には、広範囲に及ぶ不正行為とその責任所在の明確化を行い、いまの経営陣に問題がないことを示す狙いがあると思われます。

スルガ銀行の現経営陣としては、不正の事実をシェアハウス問題に限定し、現在も係争中であるアパート・マンションへの不正融資被害者団体との交渉を不利にしないように配慮しつつ、監督官庁や株主や顧客層に対して、問題はあったが解決されたというアピールを行いたいと考えているはずです。

一方で不正な経営を推進し大きな成長目標を掲げていた役員は自らの不正の実態をなるべく穏便にかつ自分に責任がなかったという体裁で責任回避を行いたい考えのはずです。「ここまでは発言しても大丈夫」という線引きは、すでに公表されている内容かどうかという点になってきます。明確に交渉している事実として、スルガ銀行が自身の監査法人や弁護士に依頼して作成された「第三者委員会報告」です。すでに取引関係にある身内の先生にお願いして作成された調査報告書です。実はウェブサイトで公表されている第三者員会報告には、公表版という文字があります。(社内向け、金融庁向けの限定版もあることをにおわせています。)裁判中でも弁護士からの「第三者委員会報告書は見ましたか?」という質問に対して、I本氏が「大っぴらにしている方ですか?」と聞き直す一幕もありました。

そんなみそぎを済ませたいスルガ銀行と組織的な罪を個人の暴走として切って捨てられないように発言する役員や自分は上に言われたからやった、下の者が勝手にやったと繰り返すマネージャー層の発言が飛び交っているのがスルガ銀行役員訴訟です。銀行が旧経営陣を複数人相手取り、訴訟を行う前代未聞の注目裁判には、多くの被害者や関係者も傍聴し、緊迫した裁判となっています。

法廷内外での反響:裁判の社会的影響

スルガ銀行と元役員との間の訴訟は、まだ結論が出ていませんが、今後の裁判の進展が注目されています。裁判の結果次第で、金融業界全体の内部管理体制やコンプライアンスの在り方が問われることになります。また、この裁判は、金融機関の倫理観と社会的責任に関する国民の認識を新たにする機会となり得ます。今後の展開によっては、金融業界の透明性の向上や、顧客との信頼関係の再構築に向けた動きが加速する可能性があります。

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