2018年に発覚したスルガ銀行の不正融資問題は、社会に大きな衝撃を与えました。2024年現在もスルガ銀行はこの問題を解決することができていないようです。不正融資問題の改善を金融庁に求められていますがまだ業務改善命令は解除されず、不正融資被害者との交渉も進展を見せていないように見えます。そんなスルガ銀行は、当時の経営者である岡野一族や経営層を相手取り経営責任を問う裁判を行っています。
この問題の核心を理解するうえで、元渋谷支店長のI本氏の証言は非常に重要な意味を持ちます。I本氏は、スルガ銀行の営業の実態、問題のある融資商品、審査プロセスの不備、内部統制の脆弱性など、様々な問題点について赤裸々に語っています。
営業の実態
I本氏の証言によれば、スルガ銀行の営業現場では、非常に厳しいノルマが設定され、達成へのプレッシャーが常にあったとのことです。「必ず達成しなければいけないものでしたが、それ以上に、目標をプラスアルファでクリアするかということが我々の課題でした」とI本氏は述べています。ノルマを達成できない場合、上司から「何やってんだ、なんでできないんだ、お前の部下が可哀そうだな」などの罵倒を受け、人事評価にも影響があったそうです。
特にI本氏が支店長を務めていた渋谷支店では、月平均25億円もの融資実行が求められ、わずか6名の営業員では達成が非常に困難な状況だったと言います。「非常に非常に困難なものです」とI本氏は当時の状況を振り返ります。こうした過度なノルマと達成へのプレッシャーが、不正な融資を助長した可能性は高いと言えるでしょう。
スルガ銀行の融資商品 スルガ銀行は、当初は住宅ローンを主力商品としていましたが、次第に投資用不動産ローンにシフトしていきました。I本氏によれば、「投資用不動産ローンの方が扱いやすかった」とのことです。その過程で、不動産業者(チャネル)との関係性が重要になっていきます。
「もう投資用不動産ローンを取り扱っていくためには投資用不動産を取り扱っている不動産業者であるチャネルとお付き合いしていくしか案件を獲得する方法がありませんので、もうここに集中して」とI本氏は述べ、チャネルとの関係性の重要性を指摘しています。チャネルから持ち込まれる案件は、スルガ銀行の融資基準に合わせて組み立てられていた可能性が高いと言えます。
特にシェアハウスローンは、賃料設定の不透明さなど、多くの問題点を抱えていたことが指摘されています。「シェアハウスというのは、まず新築ですので、定期借家契約というもの自体が適用されない」「入居者の、賃貸事業のターゲット層を考えますと、シェアハウスの方がかなり限定される」とI本氏は述べ、シェアハウスローン特有のリスクについて言及しています。
スマートライフ社との取引禁止 I本氏は、スマートライフ社という不動産業者との取引が問題視され、副社長から取引禁止の指示が出たと証言しています。「今まで、スマートライフが関わる案件については一切取り扱いをしてはいけないという風に私は認識していました」とI本氏は述べています。
しかし、この指示は必ずしも徹底されず、取引禁止後も同社との不正な取引が継続された疑いがあります。「どうやらスマートライフの取引を継続しているのだということがわかって」とI本氏は述べ、取引禁止の指示が現場で守られていなかったことを示唆しています。こうした指示違反が、なぜ起こったのかは大きな問題だと言えるでしょう。
融資審査における原本確認の問題 融資審査において、顧客の自己資金確認のための原本確認は非常に重要ですが、I本氏は、営業の現場では原本確認が徹底されていなかったと証言しています。「実際はしておりませんでした」とI本氏は認めています。
審査プロセスの不備を改善するための提案もしましたが、「その提言が、なかなか受け入れづらかったんじゃないかと思いますけれども」と述べ、受け入れられなかったそうです。原本確認を徹底しないことで、顧客の自己資金が不十分な案件も通過してしまった可能性があります。こうした審査プロセスの不備が、不正融資を助長した一因と考えられます。
内部統制の問題点 I本氏の証言からは、不正を認識していた可能性のある役員の存在も浮かび上がります。「認識していたであろうというか、認識していただきたかった」とI本氏は述べています。
しかし、内部通報制度が整備されておらず、「正直、内部通報という手段は全く頭になかったです」と個人では問題を指摘しづらい雰囲気があったようです。組織的な不正を防止するための内部統制が機能していなかった点は、大きな問題と言えるでしょう。
おわりに スルガ銀行の不正融資問題は、営業現場からトップマネジメントに至るまで、組織全体に深刻な問題があったことを浮き彫りにしました。金融機関には、健全な融資を実行し、適切な内部統制を確立することが強く求められます。
I本氏の証言を教訓に、今後の金融機関のあるべき姿を真剣に考えていく必要があるでしょう。I本氏は、「本当に誰かに気づいてほしくて、もし原本確認も含めて、その審査プロセスと審査プロセスに問題があるのであれば、誰かに早く気づいて止めてほしかったです」と当時の心境を吐露しています。この言葉を重く受け止め、二度とこのような不正融資問題を起こさないための取り組みが求められています。