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    行政処分から4年ースルガ銀行不正融資事件の闇は晴れたか?

    金融庁は2018年10月5日スルガ銀行不正融資事件を重く見て、「平成30年10月12日(金)から平成31年4月12日(金)までの間、新規の投資用不動産融資を停止」させ、「当行の役職員が融資業務や法令等遵守に関して銀行員として備えるべき知見を身につけ、健全な企業文化を醸成するため、全ての役職員に対して研修を行うこと。その際、各役職員が少なくとも一定期間通常業務から完全に離れ当該研修に専念することにより、その徹底を図ること。」を命令しました。

    「仕事をしなくていいので、研修をして意識を変えてください。以下の仕組みを作って再発を防止してください」という命令が下されたわけです。 

    1.経営責任の明確化(第三者による客観的な検証体制の構築及び責任追及を含む) 

    2.法令等遵守、顧客保護及び顧客本位の業務運営態勢の確立(当局への正確な報告の実施にかかるものや過去の不正行為等に関する必要な実態把握を含む)と全行的な意識の向上及び健全な企業文化の醸成 

    3.反社会的勢力の排除に係る管理態勢、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与に係る管理態勢の確立 

    4.融資審査管理を含む信用リスク管理態勢及び内部監査態勢の確立

    5.当行の営業用不動産の所有・管理や当行の株式の保有等を行い、創業家の一定の影響下にある企業群(ファミリー企業)との取引を適切に管理する態勢の確立

    6.シェアハウス向け融資及びその他投資用不動産融資に関して、金利引き下げ、返済条件見直し、金融ADR等を活用した元本の一部カットなど、個々の債務者に対して適切な対応を行うための態勢の確立

    7.上記を着実に実行し、今後、持続可能なビジネスモデルを構築するための経営管理態勢の抜本的強化

    https://www.fsa.go.jp/news/30/ginkou/20181005/20181005.html

    2018年9月7日付で公表されたスルガ銀行第三者委員会の調査報告書の内容を確認したうえで、金融庁による立入検査の結果や銀行法第24条第1項に基づき求めた報告を検証した結果、スルガ銀行の法令等遵守態勢、顧客保護及び顧客本位の業務運営態勢、信用リスク管理態勢、経営管理態勢等について問題が認められた為です。

    この行政処分の内容をみると、本当に言葉を選ばずに金融庁がスルガ銀行を断罪しているように見えます。何度見返しても前代未聞なスルガ銀行の不正融資に対する金融庁の怒りと呆れを感じさせるほどです。

    (1)シェアハウス向け融資及びその他投資用不動産融資に関する不正行為 

    スルガ銀行は、融資の窓口として販売店のように不動産関連業者を使い営業していました。その不動産業者がスルガ銀行に嘘の書類を提示し不正な融資を申し込んでいたのですが、スルガ銀行の営業マンや審査マンが嘘と知りながら受け取っていたことが大きな問題とされました。

    物件価格の水増しと偽装・改ざんされた物件評価資料

    販売チャネルとなっていた不動産業者が、投資用の不動産の想定賃料や入居率について、実勢よりも高く査定したり、実績値よりも高い数値に改ざんしていました。その結果、不動産の収益力から物件価格を査定する「収益還元法」上での不動産価格を吊り上げ、市場価格よりも割り増された不動産価格でスルガ銀行から相場価格の1.2倍から2倍強の融資を引き出していました。スルガ銀行はこの改ざんで営業実績を稼ぎ、不動産業者は高く売りつけることで利益を稼ぐことができていたのです。
     スルガ銀行は、担保価値を越えた融資を行うことで経営リスクを負うことになるのですが、現場の営業マンは営業ノルマをクリアできるということで、投資用不動産融資を扱う相当数の営業マンが、不動産業者による物件価格の水増しを理解した上で融資業務を行っていたのです。中には、スルガ銀行の営業マン自らが不動産業者に対して不正行為を行うように働きかけて改ざんを促す事例や、自ら改ざんを行った事例も認められたのでした。

    買い手の年収や自己資金の偽装や改ざん

    不動産業者が行った不法行為は物件価格の水増しだけではありません。スルガ銀行の融資審査を通すために、自己資金がほとんどない一般のサラリーマンなどの買い手の預金通帳の残高をフォトショップなどの画像編集ソフトで改ざんしていました。また買い手の口座へ見せ金を振り込んだり、年収基準を満たすよう買い手の源泉徴収票を改ざんして高額所得者のように見せかけたり、売買契約書を二重に作成して、嘘の融資審査資料を提出するなどの不法行為を行っていたと言います。
     こうした不動産業者の嘘や詐欺的な行為をスルガ銀行の営業マンが、「明確に認識、もしくは少なくとも相当の疑いを持ちながら」業務を行っていたといいます。 

    審査部門の審査が機能せず形骸化

    スルガ銀行にも審査申し込みが適正か審査する審査部門が存在します。その審査部門が、資料の改ざん等の不正な情報を提示する不動産業者を出入り禁止にしたこともあったそうです。しかし営業を行う支店が、取引継続をねらって、不動産会社に新会社を設立させ、取引を実質的に継続させる迂回取引を持ち掛けるなど、不正行為を継続・助長させる動きをとっていました。 

    https://www.fsa.go.jp/news/30/ginkou/20181005/20181005.html

    スルガ銀行は反社会的勢力(やくざや暴力団、右翼、テロ組織など)と認定しても、既存のカードローンの与信枠の閉鎖を行っていませんでした。また与信枠内でローン残高が増加している事例も散見されたと言います。しかも反社会的勢力に対する新規の預金口座の開設をブロックするシステムの整備が不十分ということで、口座開設がし放題という状況だったようです。
    「しかも既存顧客を新たに反社会的勢力と認定しても、警察への照会件数が少なく、照会する顧客(反社会的勢力)についても取引解消が相対的に容易な先を優先する」など、取引解消に向けた取組みを十分に行っていない状況を金融庁に指摘されています。

    不正な融資を行うだけあって、社会的責任も果たしていなかったといえます。 

    (6)当局に対する実態と異なる報告

    「シェアハウス向け融資や投資用不動産融資に関して、特定のチャネルとの取引関係の有無について当局から照会を受けた際の報告が、実態と異なる内容となっていた」ということで、金融庁に嘘の報告をおこなっていました。

    (7)示された金融庁の経営陣への不信と引導

    「創業家が実質的に当行を支配する中、審査態勢に不備が認められる営業優位の組織を構築する一方で、営業現場を放置したため、営業現場では、創業家の後ろ盾を得た特定の執行役員が、厳しい業績プレッシャー、ノルマ、叱責等で営業職員を圧迫した結果、法令等遵守を軽んじ不正行為を蔓延させる企業文化が醸成されたことが認められる。」と金融庁はスルガ銀行の経営陣を断罪しています。

    終わらない業務改善命令

    「改善計画について、当該計画の実施完了までの間、3ヶ月毎の進捗及び改善状況を翌月15日までに報告すること(初回報告基準日を平成30年12月末とする)」と金融庁に指導を受けたスルガ銀行ですが、もうすぐこの命令から4年がたちます。企業文化に深く根差した不正をただすための業務改善命令ですが、まったく効果はなかったのでしょうか?

    1.経営責任の明確化「第三者による客観的な検証体制の構築及び責任追及を含む」とありますが、生え抜き以外の社外取締役を採用しているだけでは、対策を講じたということはできないでしょう。
    2.法令等遵守、顧客保護及び顧客本位の業務運営態勢の確立「当局への正確な報告の実施」、「過去の不正行為等に関する必要な実態把握」、「全行的な意識の向上及び健全な企業文化の醸成」に関して対外的な発表はありません。 ですが不動産ADRで腕利きの弁護士を前面に押し出し、不正融資被害者との法廷闘争を辞さない交渉姿勢に対して被害者からは不満の声が上がっているようです。
    3.反社会的勢力の排除に係る管理態勢、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与に係る管理態勢の確立 どのような取り組みが行われているか対外的な発表はないようです。
    4.融資審査管理を含む信用リスク管理態勢及び内部監査態勢の確立どのような取り組みが行われているか対外的な発表はないようです。
    5.当行の営業用不動産の所有・管理や当行の株式の保有等を行い、創業家の一定の影響下にある企業群(ファミリー企業)との取引を適切に管理する態勢の確立創業家を経営陣から一掃し、貸し出しを停止するなどの取り組みを行ったようです。
    6.シェアハウス向け融資及びその他投資用不動産融資に関して、金利引き下げ、返済条件見直し、金融ADR等を活用した元本の一部カットなど、個々の債務者に対して適切な対応を行うための態勢の確立不動産ADRを通じて顧客との交渉を行っています。しかし不正な融資があったことを認めても、元本のカットなどは行われていないようです。金利や返済条件の見直しの提案はあるようですが、不良債権処理の範疇で、不正融資への償いや補償というスタンスがないということで、被害者団体との対立が激化しています。金融機関へのデモ抗議や署名活動など類を見ない闘争が繰り広げられています。
    7.上記を着実に実行し、今後、持続可能なビジネスモデルを構築するための経営管理態勢の抜本的強化問題解決の取り組みを公表していないため、進捗が不透明なまま4年が経とうとしています。

    何がどこまで改善できたのか。スルガ銀行からも金融庁からも、公表されている内容はあまりに少なく、どの程度の進捗があったかは不透明です。スルガ銀行は、第三者委員会報告も、すぐにはアクセスできないようなわかりにくい場所に、内容をコピーできないPDFファイルだけで公開しています。隠したい、忘れてほしいという気持ちが透けて見えてしまう対応です。スルガ銀行側から進捗を明らかにすることは難しい状況なのでしょう。もう4年たったのではなく、まだ4年しかたっていないので、世間の風当たりが弱まるまでの、道半ばと考えられているかもしれません。

    社会問題化した中、通常の対応で問題を収束できるのか?

    スルガ銀行不正融資被害は、数百人の被害者と数千億円の被害総額を生み出しました。SI被害者同盟などの被害者団体に参加している以外にも、被害にあった被害者は多数存在しているはずです。行われた不正行為は悪質で、金融庁もスルガ銀行もこの問題の解決の道筋に迷っているのではないでしょうか。

    こうした中、被害者団体はスルガ銀行の支店や金融庁の前で、デモを行っています。デモで訴えられていることを聞く限りでは、「不正な融資があったこと、その被害によって生活が脅かされていること、問題が解決しないまま時間が経っていること、そのせいで被害者の生活破綻が迫っていること」は毎回同じ内容です。つまり何も問題が解決していないようなのです。

    スルガ銀行の嵯峨社長は「毅然とした態度で被害者に対応していく」というコメントを社内に発表したと言われています。スルガ銀行も民間企業なので、経営を行っていく必要があることは理解できます。不正融資の非を全面的に認めれば、個人向け不動産ローンへの貸出総額1兆円がすべて不良債権になってしまう可能性もあります。簡単に非を認めることはできないでしょう。
    また、スルガ銀行は収益不動産への融資を再開しています。先日、不動産業者の方からスルガ銀行融資の物件を紹介されました。スルガ銀行としては収益不動産への融資は稼ぎ頭ですので積極的に融資をしたいのでしょうが、上述の通り未だに業務改善命令が解けぬままの状態で融資を受けることは些か不安を感じるのでは無いでしょうか。

    地銀再編が訴えられている中、複数の金融機関や、金融機関になりたい事業会社がスルガ銀行との経営統合や救済の名乗りをでて、撤退していきました。被害者が自らの被害を世間に訴えかけ続ける限り、スルガ銀行との提携や経営統合は大きなブランド毀損につながります。根深い問題は、簡単には解決しないでしょう。それだけに政治や行政主導の解決策が待たれるところです。

    投資と詐欺編集部
    投資と詐欺編集部
    「投資と詐欺」編集部です。かつては一部の富裕層や専門家だけが行う特別な活動だった投資ですが、今では一般の消費者にも未来の自分の生活を守るためにチャレンジしなくてはいけない必須科目になりました。「投資は自己責任」とよく言われるのですが、人を騙す詐欺事件は後を絶ちません。消費者が身を守りながら将来の生活に備えるための情報発信を行なっていきます。

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