『正直不動産』は、2022年春に、NHK『ドラマ10』枠で放送された、不動産業界の裏側をコミカルに描いた作品である。ドラマを題材に不動産取引で気を付けるべきことを学んでいこう。第16回は、『地面師』である。
目次
地面師とは
地面師とは、土地の所有権者になりすまし、売却により大金を騙しとる詐欺である。近年も、大手企業が地面師に騙された。もちろん、本人確認書類などは偽造だ。書類を丹念にチェックすれば、偽造を見抜けるかもしれない。しかし、現実には、なかなかハードルが高く、実害が発生することも多い。騙されないためには、経験と勘が頼りとも言える。
大口案件
登坂不動産は、ピンチだ。ミネルヴァ不動産の攻勢により、虫の息に陥っている。そこに、起死回生の大口案件が転がり込んできた。永瀬が、不動産業界のパーティで、新規の不動産業者から持ちかけられた、5億越えの案件だ。けやき野興行が所有する不動産の買い取りになる。安く買って、高く売れば、差額は登坂不動産の総どりだ。部長は久々の大取引に小躍りを始めた。だが、登坂社長は、このビックビジネスにも冷静沈着だ。『この話、信じていいと思うか?』永瀬が答える。『はい、信じていいと思います。』社長はこれを聞いて、Goを出した。
顔合わせ
まずは、下見だ。利便性のよい300坪の土地。状態も良い。好物件だ。さらに、けやき野興行の登記簿をチェックする。事業目的は、輸入、イベント企画、翻訳など統一感がない。永瀬は、社員構成から、非上場の同族企業と判断する。
そして、いよいよ対面での交渉が始まる。ますは、月下が、先方に手土産を渡す。つぶあんだ。専務の顔がほころぶ。クリーンヒットだ。永瀬が、商談を始める。会社を畳む前に、資産を整理するという。代表取締役は、専務の父親であるが、肝臓をこわし入院中だ。借金もあり、早く売りたいのだ。永瀬は、この状況なら、安く買い取れると、心の中で、ガッツポーズだ。この案件に、登坂不動産の浮沈が掛かっているのだ。
商談の行方
数日後、永瀬が買値を提示する。4億5千万だ。この金額で乗ってくるはずだった。しかし、思いの外、反応が悪い。聞けば、ミネルヴァは6億を出すという。さすがにこれは、高すぎる。永瀬は、即座に金額勝負を諦めた。では、どこで戦うか。手付金だ。ミネルヴァは、手付金3千万で決済は3ヶ月後だ。これに対し、手付金5千700万、決済は3週間以内とした。借金を抱えている顧客は、何より現金が、今すぐ欲しいものだ。これが、功を奏す。『分かりました。この条件でお売りします。すぐに、買い付け証明書を頂けますか?』永瀬の狙い通りである。しかし、この態度の急変は、かなり怪しい。永瀬のリスク回避センサーが作動した。『その前に、一度、社長にご挨拶させて頂けますか?』永瀬も様々に試練をくぐり抜けてきている。ハイリスクな契約は急がない。翌日、入院先の病院で社長と会話する。永瀬が鎌をかける。『心臓のほうはいかがですか?』『悪いのは肝臓です。』引っ掛からない。信じていいのか?半信半疑ながら、永瀬、買い付け証明書を取り交わす。だが、気分は晴れない。やはり、何かがおかしい。地面師ではないか?疑念が頭を駆け巡る。だが、証拠がない。
桐山の助言
永瀬たまらず、桐山にヘルプを求めた。桐山は、登坂不動産を退社後、不動産デベロッパーとして活動の範囲を広げている。永瀬は語る。『そっくりなんだよ。やり方が。嘘ばっかりついていたころの俺に。』桐山、早くも席を立つ。『俺はこの案件からはすぐに手を引きました。似合わないスーツを着た人達とは商談をしたくない。』と言い残して。永瀬はまだ、確信は持てない。だが、桐山の鋭い指摘通り、とにかく強烈な異臭がする。詐欺の匂いだ。そして、なおも早期の契約履行を迫る顧客に向かって、オネスティ永瀬をぶっぱなす。『貴方たち、本当は地面師なんでしょ。』証拠はないが、確信はある。もちろん、商談はパーである。
社長の回顧
だが、永瀬の直感は正しかった。数日後、彼らは、警察に逮捕されたのだ。永瀬が、社長に報告する。『話を持ってきた不動産屋も、病院に入院していた社長も、全くの別人でした。会社も、ペーパーカンパニーだったんです。最初に見抜けなかった私の責任です。申し訳ありません。』社長が尋ねる。『なぜ、連中が地面師と分かった。』永瀬が答える。『私の危機察知能力といいますか。』月下が遮る。『違います。永瀬先輩。また正直に言っちゃたんです。貴方たち、地面師なんじゃないですかぁって。今回は、それが良かったんですけど。』登坂社長がそれを聞いてつぶやく。『私も、正直にその一言が言えていたらなぁ。』実は、登坂社長は、元々、大手不動産会社の優秀な営業マンだったのだ。しかし、地面師に引っ掛かった。いや、正しくは、怪しいと思っていたが、言い出せず、騙された。しかも、その失敗の全責任を上司に押し付けられて、退社に追い込まれたのだ。そして、地面師メンバーの元締めが、ミネルヴァ社長の父親であった。その恨みで、ミネルヴァ社長は、登坂不動産を攻撃していたわけだ。
最終確認
その夜、永瀬は1人で社長室を訪れた。『社長は、最初から地面師じゃないかって、気付かれていたんじゃないですか?』社長が答える。『もし、地面師に騙されていたとしても、永瀬を信じた私が責任をとれば済むことだ。そもそも、私は13年前、お前に賭けた。人を信じるという事は、相手に全てを賭けるということだ。裏切られたとしても、それは、かけた自分の責任でしかない。今更、そんなこと、聞くなよ。』この言葉に永瀬、感動だ。『社長。おれ、この会社に入って良かったです。必ず、世界一の不動産屋にしてみませす。』永瀬は、嘘がつけない男なのだ。