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    ドラマ「正直不動産」に学ぶ―『リバースモーゲージ』

    『正直不動産』は、2022年春に、NHK『ドラマ10』枠で放送された、不動産業界の裏側をコミカルに描いた作品である。ドラマを題材に不動産取引で気を付けるべきことを学んでいこう。第14回は、『リバースモーゲージ』である。

    リバースモーゲージとは

    人生100年時代に入り、高齢者数が急増している。そんな中、ある金融商品が注目を集めている。リバースモーゲージだ。高齢者が、自宅を担保にして、融資を受ける商品である。従って、住み慣れた自宅に住み続けることができる。ちょっと、想像してみてほしい。年金に加えて、月10万円の収入を得ることができたらと。そんな、豊かな老後生活を実現してくれる、夢のようなソリューションなのである。もちろん、メリットばかりではない。当然、デメリットもある。では、リバースモーゲージのデメリットをドラマで、確認していこう。

    銀行員 榎本の罠

    メインバンクの美女行員、榎本が、永瀬に相談を持ちかけた。自分の顧客である藤崎夫婦の家を売却のアドバイスをして欲しいという。メインバンクからの案件で、成約すれば永瀬の成績もアップする。悪くない相談だ。断る理由はない。藤崎夫妻は、定年を迎え、退職金で家のローンを完済した。そのため、今は蓄えはなく、二人合わせて22万円程の年金で生計を立てている。ところが、これだけでは、やりくりが難しく、赤字の月もあるという。そこで、老後に備えるため、持ち家を売却して、資金化するつもりなのだ。そして、新たに家を借り、かわいい初孫の成長を近くで見守りたいと、語る。榎本は、永瀬を立てる。『不動産のプロである永瀬さんのご意見はいかがですか?』永瀬が答える。『駅から遠いなど好材料とは言えない部分もありますが、大体5000万円位の売却額になるかと。ただ、正直言って、すぐに売れるという確約は出来かねます。』榎本は、さらに立てる。『永瀬さん、最近、ご高齢者との賃貸契約に難色を示す大家さんが多いって耳にしたんですが。』『確かに、そういう傾向もありますね。』そして、ここで、永瀬を裏切る。『専門家のご意見も考慮した上で、私は、当行で扱っているリバースモーゲージをオススメします。』榎本は、ここから、一気にメリットを強調して、自分の営業を展開する。永瀬に出る幕はない。出汁に使われたのだ。つまり、榎本は、専門家である永瀬に売却が難しいことを正直にしゃべらせ、売却を希望する藤崎夫妻に不安を与えた上で、銀行の商品を安心感を全面にして、売り込む作戦だったわけだ。

    見事に作戦を敢行させた榎本が、これ見よがしに永瀬に同意を求める。『永瀬さんも、そう思いませんか?』出た、メインバンクの圧力だ。普通なら、同意以外に選択肢はない。だが、残念ながら、永瀬は正直だ。『そうですね。もちろん私も、榎本さんの提案をオススメ、、、なんて一ミリも出来ないんですよぉ。榎本さんは、耳障りのいいことしか言っていません。リバースモーゲージには、長生きリスクというものがあります。この商品の契約期間は20年です。それを超えて長生きすると、この家を手放し、リバースモーゲージという名の借金も一括返済が必要になるんです。』『えっ、長生きがリスクになるんですか。歳をとってから、この家を取り上げられた上に、大金を支払うんですか?』希望に満ちていた藤崎夫妻の顔色が、一気に曇る。『実際どうなるかは、契約の内容によりますが、そうしたデメリット面を榎本さんは全く話していません。』永瀬はひたすら正直だ。飼い犬に手を噛まれ、苦虫を百匹くらい嚙み潰したような表情の榎本が、なんとか場を取り繕う。『永瀬さん、ありがとうございました。丁度、今からこの商品のデメリットについて、ご説明するところでした。』榎本の思惑は、永瀬の馬鹿正直によって、頓挫した。売却か、リバースモーゲージかは、藤崎夫妻の判断に委ねられたのだ。

    どっちがオススメ?

    月下が、永瀬に尋ねる。『本当のところ、どっちがオススメなんですか?売却した場合、5000万円近くの資金が手に入りますよね。デメリットは、慣れない賃貸暮らしですね。リバースモーゲージなら、自宅に住み続けられて、お金も入ってくるから、やっぱり、榎本さんの提案の方が、有利なんじゃないですか?』永瀬が答える。『うん、でも、65歳を過ぎて、新たな借金を背負うことは、大きなデメリットだよ。期間中の金利の変動で、受取総額が目減りするなどのリスクもあるしね。結局は、藤崎夫妻が、何を重視するかだけど。』不動産業者の立場としては、当然、仲介手数料が入る、売却を選んでほしい。だが、藤崎夫妻の立場であれば、果たして、どちらが、正解なのか。永瀬は1人、思案に沈んだ。

    永瀬の変心

    数日後、藤崎夫妻は売却を選択した。夫が理由を語る。『やっと家のローンが終わったのに、また借金するというのは、ちょっと。』妻も心境を吐露する。『この家を手放すのは、心苦しいんですけどね。』夫妻の決断を聞いて、榎本が席を立つ。『では、永瀬さん。後はよろしくお願いします。』だが、ここで永瀬が変心する。『榎本さん、お待ち下さい。藤崎さん、この家、絶対に売ってはいけません。それより、榎本さんのリバースモーゲージを活用すべきです。』全員、キョトンだ。『お孫さん、アレルギーをお持ちなのではありませんか?』永瀬は、藤崎家の砂場の砂が、抗菌砂であることを見逃さなかった。二人の年金額から、庭付きの賃貸物件は、正直難しく、孫と遊べるこの家を手放すべきではないと理由を語った。そして、『私たちは、物件を右から左にただ仲介するわけではありません。家を通じて、お客様の人生を豊かにするそのお手伝いをさせて頂いています。』と、締めくくった。

    もちろん、売りたいと言っている客に、売ってはいけませんと諭した永瀬の馬鹿正直な営業は、会社的には、あり得ないものである。永瀬は、部長のお目玉を食らってしまう。

    どんでん返し

    さらに、数日後、藤崎夫妻と榎本が、登坂不動産に現れた。最終的に、売却することになったのだ。というのも、娘から、夫婦の幸せを最優先してと頼まれたのだ。さらに、新たな賃貸物件探しも、永瀬に任された。永瀬の正直営業が、藤崎夫妻の信頼を勝ち取ったのだ。 

    そして、もう一人、永瀬の正直営業に、感動した人物がいた。榎本だ。帰り際、永瀬に宣言する。『永瀬さん、もっと貴方を知りたくなりました。これからは、本気で行きます。覚悟のほどを。』永瀬、榎本から、営業のみならず、心まで奪っていたことに、まだ、気づいていなかった。

    投資と詐欺編集部
    投資と詐欺編集部
    「投資と詐欺」編集部です。かつては一部の富裕層や専門家だけが行う特別な活動だった投資ですが、今では一般の消費者にも未来の自分の生活を守るためにチャレンジしなくてはいけない必須科目になりました。「投資は自己責任」とよく言われるのですが、人を騙す詐欺事件は後を絶ちません。消費者が身を守りながら将来の生活に備えるための情報発信を行なっていきます。

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