2024年10月28日、大阪地方裁判所ではスルガ銀行不正融資の実態に迫る裁判が行われていました。投資と詐欺編集部では実際に傍聴を行い生々しいやり取りを直接耳にしました。ここでは記者の取材メモを元に裁判の一部始終をお届けします。
裁判の概要
この裁判はC氏がスルガ銀行を相手取り書類改ざんや不透明な融資契約を結んだことに対する賠償を求める裁判です。裁判所にはスルガ銀行の販売チャネルとして不動産を販売した不動産会社の社長A氏、スルガ銀行の営業担当として融資に関わったB氏、被害者のC氏が出廷し、弁護士からの質問に答えて証言しました。公の場で典型的なスルガ銀行不正融資事件の詳細が明らかになることになりました。
目次
スルガ銀行不正融資に関する主要な質疑応答
1. ノルマと融資審査に関する証言
A氏は事前に提出された資料の中で、スルガ銀行には営業目標があり、その目標に沿って不動産会社にはノルマと物件があてがわれたと述べていました。原告代理人の五十嵐弁護士が「銀行のノルマとはどういう意味ですか?」と尋ねたのに対し、証人のA氏は「(スルガ銀行の)各支店それぞれ売り上げ、貸付残高を増やしていくノルマがありました。新規融資の月のノルマです」と証言しています。
さらに五十嵐弁護士が「なぜ1ヶ月前という記憶があるのですか?」と質問すると、A氏は「1ヶ月ぐらいで商談をまとめないと物件が他社に取られてしまうということが一点と、私たちにもノルマがありましたし、スルガ銀行にもノルマがありました」と回答しています。
ノルマによって強いプレッシャーがあったことが窺い知れます。
2. 書類偽造に関する証言
五十嵐弁護士が「空室保証100%という記載がありますが、これは実際にA氏が代表を務める不動産会社が行っていたのですか?」と質問したのに対し、A氏は「いいえ、行っていません」と答えました。続けて「Cさんはこの空室保証契約書を知っていましたか?」という質問に対し、「知りません。当社が勝手にCさんの印鑑を使って捺印しました」と証言しています。
さらに五十嵐弁護士が「スルガ銀行が物件の評価額を高くするために、空室保証契約書を作らせたということですか?」と尋ねると、A氏は「はい。スルガ銀行から空室保証契約書をエビデンスとして作るよう指示がありました」と証言しました。
3. 自己資金に関する虚偽説明
五十嵐弁護士が「準備書類には現金が必要だと書いてありますが、実際の説明と矛盾しませんか?」と質問すると、A氏は「その部分については、『実質自己資金は必要ありません』と説明しました」と証言しています。
この点について、五十嵐弁護士が「書類上は必要な資金があるように見せながら、実際は不要だと説明したということですね?」と確認すると、A氏は「はい」と認めています。
4. 通帳偽造に関する証言
弁護人が「通帳の偽造について、かなり巧妙にされていますが、これは誰が行っていたのですか?」と質問したのに対し、A氏は「詳細にはわかりませんが、業者に依頼していたと思います。スルガ銀行も含めて相談して紹介してもらっていたようです」と証言しました。
銀行が関与して巧妙な私文書偽造を行っていたという証言です。
5. 銀行職員の関与
五十嵐弁護士が録音記録を示しながら「当時のスルガ銀行の役職者がエビデンス改ざんとか、みんな関わってた」というA氏の発言について質問すると、A氏はこれを認めました。
さらに、五十嵐弁護士が「A氏が通帳のエビデンスを提出してスルガ銀行に間違いを指摘されることもあった」という点について尋ねると、A氏は「はい」と認め、「正しく偽造するように直させる」という趣旨の証言をしています。
偽造はスルガ銀行が主導でスルガ銀行の営業ノルマを達成するために、組織ぐるみで行われていた様子が伝わってきます。
6. 二重契約の存在
スルガ銀行はC氏の融資契約の際に、同じ日付で契約金額の異なる二つの契約書を作成していました。五十嵐弁護士が「同じ日付で契約金額の異なる二つの契約書を作成した理由は何ですか?」とA氏に質問すると、A氏は実際の取引額(3億3,161万円)と表向きの金額(3億7,300万円)の差異について、頭金を不要とするために、表向きの金額で契約書を作成し、そののち、実際の取引金額に修正した契約書を用意したと説明し、これがスルガ銀行立ち合いのもと、合意の下で行われていたことを認めています。
物件金額の100%融資にあたるフルローンは実施しないというスルガ銀行の内規を守りながらも、2通契約書を作成し「変更した」体裁をとることで実質的にフルローン融資をしていたということが示唆されています。
7. 損害賠償に関する証言
弁護士がA氏に「Cさんに対して損害賠償はされたのですか?」と質問すると、A氏は「はい。話し合って可能な限りの範囲で清算しました。1,000万円前後は支払いました」と証言しています。こうした不動産会社がスルガ銀行不正融資問題に際して訴えられ、被害者に実質的に負けるケースは、水面下では珍しくなく、その多くが和解となるため表に出てきません。今回スルガ銀行を相手取った裁判だからこそこうした実態が公の目にさらされることになりました。
結論
これらの質疑応答から、スルガ銀行による不正融資は以下の特徴を持っていたことが明らかになっています:
- ノルマ達成のための組織的な不正融資の推進
- 銀行職員の積極的な関与による書類偽造の指示
- 自己資金要件の意図的な回避
- 複数の関係者による組織的な偽装工作
- 被害者への説明義務違反
- 二重契約による融資額の水増し
これらの証言は、スルガ銀行による不正融資が単なる末端職員による不正ではなく、組織的な違法行為であったことを示唆しています。