目次
株主として総会に参加!
当然ですが株主総会にはスルガ銀行株を保有してる株主しか入場できません。取材班の有志メンバーは今年の開催に備えて、取材用にスルガ銀行株を取得し、この日のために備えていました。「報道として」ではありませんが、「株主として」会場入りを果たし実際に株主総会を体験しました。
受付から会場までは多くのスルガ銀行 行員が配置されており、1人ひとり物腰は柔らかいのですが表情は少し硬い印象。ピリッとした空気で独特の雰囲気があります。番号が書かれた紐付きの首から下げるタイプのカードを渡され、各所に立つ行員の案内を受けながら第1会場に到着しました。施設カタログによると、最大キャパシティは1000人程の会場ですが、16のブロックに座席を鉄の柵で区切っており、半分以下の400人ほどを収容する会場構成です。数十名の警備スタッフと随所に張り巡らされた鉄柵が見守る物々しい雰囲気でした。
そして第212期スルガ銀行株主総会が開会
何十回と繰り返し放送される「撮影や録音をしないでください」や「議長の許可のない不規則発言や大声を出さないでください」などの注意事項のアナウンスが流れます。そんな中、袖からスルガ銀行の取締役の面々が壇上へ上がります。現社長であり議長の嵯峨行介社長の開会挨拶から株主総会は始まりました。
総会は粛々と進行します。事業報告(クレディセゾンとの資本業務提携などを含む説明)、決議事項(会社提案による第1号議案第2号議案の説明が入る)などを経て、いよいよ今回20議案にも及ぶ株主提案(5名の株主からの提案「第3号議案〜第12号議案」)(329名の株主からの提案「第13号議案〜第22号議案」)が嵯峨社長から淡々と読み上げられる時をむかえます。今回の取材もいよいよ山場です。
悲痛な被害者からの補足説明
嵯峨社長からは「第3号議案〜第12号議案」、「第13号議案〜第22号議案」それぞれ代表者から各10分以内に簡潔に補足説明をする、という短い時間が提示されました。
挙手でそれぞれ指名され、補足説明をする被害者の方々が説明を始めます。これまでのスルガ銀行の対応、自分たちの窮状は10分以内では説明できなかったようで、あっという間に持ち時間を超過してしまいます。そんな一人ひとりの悲痛な訴えの最中、時間が過ぎると話の途中でも容赦無く嵯峨社長の「お時間過ぎています」という言葉が遮りました。到底聞き入れる姿勢ではなく、とにかく「手続き的に正しく進行させて、義務を果たし、最短時間で終わらせようとする」スルガ銀行側の態度が目立つ対応でした。
被害者の補足説明として筆者が感じたのは、早期解決の取り組みと言いながら弁護士を挟んだ交渉であり、結局は法的な論争にしかなっていないのではないか、ということ。
不正はあったが不法はなかった、ということなのでしょうか。法的に悪くないスルガ銀行が譲歩することもなく、交渉が平行線を辿っているという印象を持ちました。
筆者も企業に長らく勤めておりましたが、お客様に対して問題を起こした際に、企業側が法に触れたかどうかをお客様との話し合いに持ち出すことはありませんでした。法にふれずともお客様の不利益に対しては誠心誠意対応する、これがお客様本位ということだと叩き込まれた筆者からすると、スルガ銀行の対応は顧客対応上、驚きを隠せません。
スルガ銀行は決算資料では不正融資問題の早期解決に向けて、前向きに取り組んでいるような表現をしておりますが、金融庁の業務改善命令が解除されていないところを見ても、これも一般株主や提携先などに対する印象操作の感が否めないところです。
株主からの質疑・動議
つぎに会社提案による第1号議案と第2号議案などに対してを含む質疑・動議へ。ここでもやはり被害者の悲痛な叫びは続きます。次々に発言する被害者の面々、女性の方の動議は発言中に涙が出るほどに訴えていましたが、またも嵯峨社長の「簡潔にお答えください」という言葉が遮ります。
こうしたスルガ銀行側の台本を読むような進行から「話し合いに応じる気がない」という意思が伝わってくるのか、被害者からの怒号が、だんだんと増えてきました。中には「真面目に答えろ」や「答えになってない」「心を込めて対応しろ」などのメッセージを書いた紙を頭上に掲げる被害者も多数現れます。
株主提案全て否決へ
そして総会の最後に、20個にもなる議案の株主提案の採決に移ることになりました。議長である嵯峨社長が被害者の方々が提出した第3号議案〜第22号議案までを読み上げ「賛成の方の拍手の数によって決める」という方式で、参加株主の意向を確認します。会場は騒然としており、多くの参加株主は提案に賛成のような雰囲気に感じられますが、スルガ銀行側の対応が気になるところです。
読み上げられる議案とその後の拍手。周りを見渡しても過半数の株主が拍手をしているように見えます。ですが「過半数に満たないため否決します」と嵯峨社長の否決を伝える声が淡々と流れました。否決、また否決と続々と否決が続いていきます。
そのうち全て否決になると察した被害者からのシュプレヒコールのような怒号が飛びかいます。「嵯峨行介はー!」「真摯に対応しろー!」「嵯峨行介はー!」「被害者の声に耳を傾けろー!」など、その怒号は現副社長の加藤広亮にも及びました。
しかしそれでも、会場では怒号も拍手も何も起きてないかのように、進行する嵯峨社長。議案を読み上げその後拍手の数もはっきり確認せず「過半数に満たないため否決」と嵯峨社長はつづけ、全てを読み上げたあと総会は、一方的に閉会しました。
筆者は今までこのような大荒れの株主総会に参加したことはないのですが、明らかに過半数以上を占めた拍手があるなか、次々と否決していく議事進行は正直、相当な違和感を感じました。この採決のシステムに関して、議事進行役の嵯峨社長はきちんと説明すべきではないでしょうか。まさかとは思いますが、株主総会の議事進行にも不正があるのでは、と勘繰ってしまいます。
総会終了、退場
嵯峨社長の参加者の移行を半ば無視した進行で、さっさと総会が終わり閉幕を告げるアナウンスが流れます。「総会は終了しました。速やかに退場してください」。やむを得ず席を立ち、出口に向かう人の列が続きます。
そんな列をなして帰る出席者の多くが紙を手に持ち声を上げていました。出席者の中でも相当な数がスルガ銀行不正融資被害者なのです。スーツ姿に不似合いな「内部通報お願いしまーす」と大きな声をあげながら歩く人が目立っていました。その声には隠し切れない怒気とやるせなさがありました。両手で「株主総会無効!」や「打ち切るな議事続行!」などのメッセージがかかれたA2ほどの紙を広げながら、歩く人たちは、この人もあの人も、きっとスルガ銀行の不正融資被害者なのでした。
会場を後にしようとするときでも声を上げている、そんな荒ぶる参加者とは対照的に「ありがとうございました」「お気をつけてお帰りくださいませ」と涼やかな声で挨拶するスルガ銀行の女性スタッフたちが奇異に映ります。デパートの受付を思わせる完全な敬語と声質ながら、表情はやや硬いようにも見えます。この女性スタッフの笑顔は対話を拒否する笑顔なのです、おそろしいことに。
すべてはこうした「礼儀正しいポーズで武装されて、対話がなされていない」そう思わざるを得ない両者の感情のギャップが今回の株主総会のスタンスを明確に表現していて、強く印象に残りました。
株主総会を終えた被害者の方々はこの後も記者会見や各地でデモを実施する予定とのことでした。被害者の方々の活動はまだまだ続きます。(後編に続く)