スルガ銀行と資本業務提携し大きく注目を集めているクレディセゾン。先日2023年の株主総会が行われましたが、スルガ銀行不正融資被害者と思われる株主からのスルガ銀行との提携に関するリスクの指摘やスルガ銀行不正融資被害者からの大規模なデモが行われるなど、先行きを不安視する声も多く出ています。実際のところクレディセゾンは何を狙ってスルガ銀行と提携したのでしょうか。またリスクに関してどのように考えているのでしょうか?2023年6月に開催されたクレディセゾン株主総会を取材しました。
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業績は好調なクレディセゾン
クレディセゾンの23年3月期の売上は3226億円、経常も610億円で、200億円超の増収、100億円超の増益となり、2期連続で過去最高益を更新する見通しでした。また前期の年間配当を60円から70円(前の期は55円)に増額し、今期も前期比10円増の80円に増配する方針ということで、業績は好調です。
クレディセゾンは日本のクレジットカードの会社というイメージが強いのですが、成長をけん引したのは海外でのペイメント事業と不動産領域でのファイナンス事業です。
クレディセゾンはライバルである楽天、オリックスと違って銀行を持っていないノンバンク一本の業態です。銀行は金融庁の監督下にあり、サービス提供に厳しい制限がありますが、預金という形で資金を集めやすく、優良な顧客を抱えることができる業態です。ノンバンクとして勢いのあるクレディセゾンから見ると、銀行機能を獲得すれば、銀行ではお金を借りることができない顧客層にはクレディセゾンの既存のサービスを提供し、資産運用で成功し、ノンバンクの条件では割に合わないと考える富裕層へのサービス提供は銀行機能で行うことができます。倍の成長チャンスがある取り組み甲斐のある領域なのです。
傷がついたスルガ銀行を取り込むクレディセゾン
楽天やオリックスといったライバルとの戦いの上で、銀行機能を獲得したいクレディセゾンが白羽の矢を立てたのが、スルガ銀行でした。スルガ銀行は個人投資家向けにシェアハウス、アパート・マンションローンを提供することで大きく業績を伸ばしたものの、2018年に融資に不正があったことが発覚。業績も株価も大きく低下しました。現在も不正融資の被害者との間で係争を抱えており、1000億円以上の不良債権を抱えていると言われています。ノンバンクが格上の銀行を取り込むわけですので、クレディセゾンとしてはスルガ銀行の傷物具合がちょうどよかったのでしょう。
さらなる成長を目指す、という経営の意思が見える業務資本提携ですが、リスクを懸念する声が株主から上がっています。2023年6月に行われた株主総会ではこんなやり取りが株主との間で交わされています。
「なぜスルガ銀行と資本業務提携を結ぶのでしょうか?シナジー効果をめざして他にはないサービスを作る、という点は理解できるのですが、スルガ銀行は評判が悪い銀行です。金融庁の行政指導がもう何年も続いていると聞いています。報道によれば、金融庁の監査が入ったとも言われております。スルガ銀行との資本業務提携が良くなかったのではないでしょうか?」という株主の質問に対して、スルガ銀行を担当している高橋副社長は、「金融庁の検査という件、日経ビジネスに書かれているかと思いますが、そういった事実はございません。次になぜスルガ銀行なのか、という点ですが、スルガ銀行がリテールに特化した銀行だと考えているためです。バンクとノンバンクで扱える商品に違いがあります。取り組みに意義があると考えています。係争債権があることは認識しております。この点に関して当社でも財務デューデリ、法務デューデリを厳しく実行しました。その結果、資本業務提携を行っても問題ないと判断し、実行するものです。」と回答しています。
充分リスクを理解した上での業務資本提携であることを強調する回答となりました。
別の株主からは「金融のコングロマリット、オリックスなり楽天なり、銀行機能をもっているが、クレディセゾンもネット銀行機能を持つ予定がありますか?」という質問に対しては、「銀行機能、証券、保険といった機能を持つ必要があるだろうと考えております。ネット銀行に関しても、できればスルガさんにも力を借りて実行していきたいと考えています。この分野に関しては、スルガさんのノウハウがあるところと考えておりますので、勉強しながらノウハウを吸収しながら取り組んでいきたい次第です。」と回答がありました。
スルガ銀行と組んでブランドは傷つかないのか?レピュテーションリスクは?
財務面、営業面でのリスクは充分承知しているクレディセゾンの経営層ですが、ブランドに与えるマイナスな影響に関してはどのように理解しているのでしょうか。
株主からも「スルガ銀行との資本業務提携に関するレピュテーションリスク(風評被害)に関してどのように検討したのでしょうか?」という質問がでました。
スルガ銀行との提携を担当するクレディセゾンの高橋副社長は「デューデリに関して、守秘義務契約があるので詳細に関しては差し控えさせていただきます。債権の2021年12月末時点で2250億に関しては、非常に手厚い引当金を用意されています。その他の再建に関しても、個別にずいぶん調べさせていただきましたが、非常に健全な管理をされていると認識しています。レピュテーショナルなリスクに関しては、スルガ銀行さんが真摯に債権者の方と交渉していると思いますので、一日も早い解決を望み、見守りたいと思います。」と答えるにとどまりました。
株主総会当日も会場となったホテルの前でスルガ銀行不正融資事件被害者が長蛇の列を作り、抗議デモを行っていました。スルガ銀行との交渉内容に不満を持った被害者数百人がデモを行うという異様な光景です。池袋のクレディセゾン社屋前でも連日デモが行われており、突然明らかになった両社の資本提携に被害者は危機感を抱いていることは明らかです。「被害者の抗議活動は重要視しない」というクレディセゾン経営層の姿勢が見えてきます。
スルガ銀行不正融資被害者からすると、積極的に問題解決に乗り出すという姿勢ではないクレディセゾンがスルガ銀行に新しい後ろ盾として立つと、問題解決に対して大きな阻害要因になる懸念があるということでしょう。また心情的にも問題を抱えていると知っているにもかかわらずスルガ銀行の側にたつことは、被害者の苦しみを無視しているようにも感じられるかもしれません。被害者たちの批判の矛先はスルガ銀行だけではなく、同陣営となったクレディセゾンにも飛び火することは間違いないでしょう。
銀行機能を取り込んで好業績に弾みをつけたいクレディセゾンの消費者軽視の姿勢に対する被害者の反発が今後どのような影響を及ぼすのか。今後の情勢に注目が集まります。