1000億円を超える被害規模と言われるスルガ銀行不正融資事件の渦中にあるあるスルガ銀行とクレディセゾンの資本業務提携の発表がされ、被害者を弁護するSI被害弁護団やSI被害者同盟の被害者が抗議の声を上げています。
この提携はバンクとノンバンクの両方の面から中古アパート・マンション投資需要を刈り取りたいという両社の思惑が一致した結果だと言われていますが、金融庁の行政指導が5年近く継続している上に、日常的に被害者団体のデモが行われているスルガ銀行との提携はクレディセゾンにとっても大きなリスクです。
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スルガ銀行と業務提携を行ったクレディセゾンにもSI被害者の抗議行動が始まる
提携発表からSI被害者同盟によるクレディセゾンの社屋前での抗議デモも始まり、すでにクレディセゾンはSI被害者同盟とスルガ銀行との交渉に巻き込まれてしまったように見えます。
そんな中、クレディセゾンの経営陣の経営判断が株価低迷をもたらすものだとして、スルガ銀行の株式の取得に関して差し止めを求める差し止め請求が提訴されました。皮肉なことにこのリスクを指摘してクレディセゾンの経営陣に対して合併の差し止めを行ったのはスルガ銀行不正融資事件の被害者でもありクレディセゾン株主でもある大田区在住の30代男性だったと言います。
スルガ銀行被害弁護団が東京地裁で開催した記者会見では、「スルガ銀行不正融資事件の被害者の中に、たまたまクレディセゾンの株式を長期保有していた被害者がいたということで事前に提携に備え計画された差し止め請求ではなかった」との説明がなされました。ですがSI被害者から見るとクレディセゾンに対する感情は当然よくありません。
弁護団の河合団長も強い口調でクレディセゾンを非難します。
「クレディセゾンはスルガ銀行を15%取得し持分法適応の子会社にする提携を行っています。『500円くらいの株価を400円くらいの割安で取得したら損はないんじゃないか』とおっしゃる方もいるかもしれません。ですが、この株価は幻の価格なんです。市場が本当のスルガ銀行の実態を知れば、株価は下がります。300円代に下落すれば60億円以上の損失に繋がります。不正融資の問題解決のために必要なコストは巨額です。株主としてこの巨額な損失を無視することはできません」(河合弁護士)
原告となった被害者男性も「なぜこの酷い不正融資事件を放置するスルガ銀行と手を結ぶのか。被害者のことを無視しているのか。強い憤りを感じます。」(スルガ銀行の不正融資の被害者でクレディセゾンの株主)と怒りを露わにしていました。
背景には業績を伸ばしたい2社の思惑
スルガ銀行不正融資事件をきっかけに、金融庁の指導もあり、サラリーマンの不動産投資に対する規制が非常に強化されています。お金が借りにくくなったわけですが、不動産投資の対象が数千万円から数億円するアパート・マンションから都心部の数千万円するタワーマンションや、郊外の数百万円台の激安戸建てに多様化するなど、以前不動産投資への熱は高く、資金需要は存在します。
その資金需要を狙って業績を伸ばしてきたのが『高金利ながら借りやすい』クレディセゾンのようなノンバンクです。ノンバンクからすれば数百万円の少額で高利な融資案件の対象顧客の中から、数千万円、数億円の資金需要をもつにいたった成長株の投資家を見出し、ノンバンクでは提供できないような条件の融資をおこないたい思惑があります。そのために持分法適用の子会社としてスルガ銀行がほしかったというところでしょう。ビジネスパートナーでは利がすくないので銀行そのものがほしかったわけです。
一方でスルガ銀行は経営再建を金融庁にも求められていますし、目標通りの利益計画を達成するためになりふり構わない経営を強いられています。
全貸出し総額2挑円のうち約半分を占める9000億円以上の不動産融資に関しては、スルガ銀行不正融資事件が明るみに出てから成績低下が当然のように進む一方で、1000億円は焦げつく可能性があるスルガ銀行不正融資被害者同盟に参加する組織的交渉先への貸出です。約12%も回収が長期にわたってみこめない投資先で、担保評価額は3分の1程度しか計上できておらず担保ではなく投資利益を見込んだ事業投資なので、ダメージは700億円以上にのぼります。年間の経常利益が120億円以下しか見込めないスルガ銀行にとって数年分の利益が消し飛ぶ大きなリスクです。
こうした爆弾を抱える中、スルガ銀行は低迷したブランドイメージと社会的信用の中で営業成績を維持しなければいけない状態なのですが、売上を伸ばす商品に欠けます。苦し紛れに回収が困難になったバルク債に手を出し、ハイリスクな貸出を引き受ける苦しい貸出金額をまぜこむことで目標数字を負う有様となっています。
毒食らわば皿まで?クレディセゾンの覚悟が問われる
「中古アパマンとシェアハウスの不正融資の問題で、シェアハウスの問題は解決されました。ですがスルガ銀行に対する業務改善命令がまだ解除されていないんです。業務改善命令がでてから5年近く経っていますが、まだ解除されていません。非常に異例なことですよ、普通は常識的に考えて業務改善命令が解除されてから提携しますよね。被害者は返済不能な多額の債務を抱えて家庭崩壊なども相次いでいます。この状況をクレディセゾンは容認していることになります。必然的に不正融資被害者との交渉を引き継ぐことになります」(河合団長)
クレディセゾンはこうしたスルガ銀行の苦しい事情を把握した上で、『地方銀行格を傘下に加えるためには不正融資問題で被る痛手は許容する』という強い意志で経営判断をくだし業務提携を行ったと思われます。全部わかった業務資本提携を結ぶのであれば、問題解決に動くべきだし、できないなら退場するべきと被害者が考えるのも無理はないことでしょう。
「この提携は契約はされたのですが、完了していません。被害者の苦しみを舐めないでほしい。この苦しみを蔑ろにして提携すると問題解決を蔑ろにしていることになるんです。」(河合団長)
弁護団は全面的に戦う意向をしめし、スルガ銀行不正融資被害者がクレディセゾンの株主総会やスルガ銀行の株主総会でも経営責任を追求することを明らかにしています。交渉の進展がない中、被害者の多面的な闘争がスルガ銀行やクレディセゾンに与える影響は少なくないはずだ。両社の今後の経営判断に注目が集まるところです。