目次
「10個の提案」がすべて否決された株主総会
既出の通り、スルガ銀行は被害者株主が提案した10個の株主提案にすべて反対を表明。急遽コロナ対策を理由に総会会場への入場に抽選制を導入したほか、嵯峨社長自身が議長を務めるなど異例の布陣をもって開催に臨んだスルガ銀行。役員が臨席する第一会場は鉄柵と係員が人の壁を作るものものしい雰囲気だったという。株主総会でもその被害者株主との対立姿勢は変わらないまま、株主提案はすべて反対多数で否決され総会は幕を閉じた。
そんなスルガ銀行株主総会の後、SI(スルガ銀行不正融資)被害弁護団による記者会見が行われた。(写真はSI被害弁護団とReBORNs代表の冨谷氏)記者会見の場には10数名の記者が集まり、株主総会の結果を我先に聞き出そうと待ち構えていた。波乱含みの株主総会の直後に行われたスルガ銀行不正融資被害者の弁護団による記者会見に参加してきたので、会見でのやり取りをそのままお伝えしたい。
「株主提案権を行使したことの意味が大きい」(河合弁護団団長)
今回の株主総会の大きな成果は、被害者が株主として、株主提案権を行使したということだ。株主提案権を行使することで、3万2千人以上いる株主のすべてに、今回の提案を広めることが出来、スルガ銀行不正融資事件はまだ終わっていないのだということを知らしめることができた。
今回の事前登録制及び抽選制に対しての仮処分申請は却下されたわけだが(ローカルジャッジメントのような気もするが)、株主のうち206名しか参加できなかったのはあまりにも無理がある。それはコロナ禍に乗じたものとはいえず、我々被害者を入れさせないための策に過ぎない。
「議事運営には疑義が残る」(五十嵐弁護団事務局長)
株主総会は1時間55分かけて行われた。我々が行った10個の株主提案について、たった20分しか説明時間が用意されなかった。その前に、議長が嵯峨社長自身であるということに対しての動議が起こったが、拍手の数で否決されてしまった。我々は9人で説明しようと思っていたのだが、4人説明したところで20分が過ぎており、カットされてしまった。そのことに対しても動議を行ったのだが、否決されてしまった。
麻生判決の例を見ても、通帳偽造の件は銀行ぐるみでやっていたとしか思えないのに、アパマンの件は個々で対応するとの一点張り。銀行としては、個別に不正行為があったことは認めるが、全体で一律に不正行為があったとまでは言えないので個々で対応するという紋切り型の答弁だった。
嵯峨社長の「毅然と対応する」という言葉の使い方に対してもその意味を問うたが、敵対的な意味ではなく、きちんと銀行の立場を示したいという意思からのものであったが、言葉自体を使ったことは認めるとの答弁であった。しかし会場ではブーイングが出ていた。
総会では、不公正な議事進行に物申した一般株主の方で退場者が1名出てしまったが、その時点で1時間45分が過ぎていた。ここで、残り2つの質問で打ち切るという事態となった。結局それも、1つの動議と1つの質問とで費やされてしまい、株主総会はシュプレヒコールの中で閉会した。
「都合のいい解釈」(紀藤弁護団副団長)
会場の拍手の数について、第1会場では相応の数の拍手があったが、第2会場・第3会場ではあまり拍手がなかった。それを勘案すると、はたして本当に各会場の構成比は本当に正しかったのか、疑問が残る。
また、仮処分申請について、裁判所は「合理性を欠くものであるとまでは認められない」といっただけなのに、総会では「合理性がある」と積極的に使っていたことに疑義が残った。また、麻生判決については言葉を濁していた。議長の株主総会の議場運営については時間ありきだった感じで打ち切られた気がする。
「異常事態」(山口弁護団団長)
株主総会という場ではあったが、発言のほとんどが不正融資事件に対しての対応を求める声に終始した。被害者の生の声をほかの株主にも聞いてもらうという集会になったが、株主総会の議事録のほとんどが不正融資事件で占められる異常事態である。不正融資事件が解決しなければこの異常事態は解消されない。
嵯峨社長あるいは銀行側の代理人は、アパマン問題について個別案件の早期終結に動かざるを得ないと思うが、具体的にいつまでにどう解決するのかが不透明なままだ。具体的にいつまでに(アパマン問題に対して)対応するのか回答してくれという質問が株主総会で飛んだが、『個別に対応する』という回答でしかなかった。弁護団としては本当の解決にはならないと感じる。会社全体としての不法行為を認めなければ解決しないのではないか。
「納得できない事前登録制及び抽選制」(松尾弁護団副団長)
3万人を超える株主のうち、700を超える株主が事前登録制に名を連ねたにもかかわらず、抽選制で当選したのは200名程度。抽選制での当選率は27%。このようなやり方はやはりおかしいし納得できないと感じている。もし仮に仮処分申請を控訴して高裁にまで行ったら、決定がひっくり返るものと感じている。なお、来年はコロナを理由に登録制にすることは難しいのではないかと思っている。
「スルガ銀行に生まれ変わってほしい」(冨谷氏)
我々はスルガ銀行に生まれ変わってほしく10の提案をした。これらの提案は至極全うな内容の提案だと思っていたが、すべて納得できないような理由で否決された。本当に生まれ変わる気はあるのかと思ってしまう。株主総会はもっとまともに開かれるべき。
先日、不正融資事件で自殺をした方のご遺族に会ってきたが、やはり悲惨である。今我々の中には、結束して戦うことによって生きる力を得ている方もいる。スルガ銀行にはぜひとも真摯にこの問題を解決すべく向き合ってほしい。
我々はスルガ銀行の株主総会で暴れる集団ではない。嵯峨社長のふるまいによってそうせざるを得ない状況であることを理解してほしい。
質疑応答「今回の成果は?」「今後は?」とメディアから質問が飛ぶ
一通りの説明の後、質疑応答が行われた。『10個の提案がすべて否決された。正直な感想を教えてほしい。』という質問に対しては「否決されたからと言ってがっかりしているということではなくて、我々の意見を全株主に広められたという満足感の方が強い。」という回答がなされた。
また『弁護団として今後行うことは?』という質問に対しては「スルガ銀行が本来融資すべきでない方々に融資を行ってきたことが問題であり、それに対して具体的な証拠を示してスルガ銀行を説き伏せることが今後の命題だ。」という回答がなされた。
まとめ
今回はスルガ銀行株主総会当日のSI被害者及び弁護団の動きを前後編にわたって取り上げました。
各弁護士のコメントを集約すると、
1 株主提案できたことが大きな成果である。
2 話し合いは成立していない。強行採決で動議にもまっとうな対応がなかった。対応に不満が残る。
3 株主総会で存在感を示せたが、被害者救済が必要な状況。それだけ深刻に追い詰められた被害者の声に応じない中では、スルガ銀行の信頼回復はないし、誰も救われないのではないか。
といった内容になります。
取材した中で感じたことは、スルガ銀行と被害者がきちんと向き合って会話が成立していない現状では、解決までの道筋がまだまだ遠く見えていないという点です。
すでに金融庁の行政指導が1000日以上続く中で、被害者の反発はとどまるところを知りません。スルガ銀行の営業数字は振るわず、不良債権は日本で一番大きい地銀となっています。経営状況は極めて悪く、株価も低迷する中、今回も株主総会は大荒れの状況です。
問題解決のための話し合いの場はもたれず、法廷での闘争を辞さないとするスルガ銀行の体力が先に尽きるのか、被害者が撃破されていくのが早いのか消耗戦の様相を呈しています。
被害者が痛みにあえぐ間は、こうした強烈な抗議行動は続くでしょう。強烈なネガティブキャンペーンが続く間は、スルガ銀行の経営を救う救済策を出す銀行や企業は現れないはずです。
結成から被害者団体に集まる被害者の数は増え続けています。被害者団体への参加者が集まるほど、スルガ銀行の回収に懸念がある貸倒引当金は積みあがります。現状1000億円を超えるといわれる不良債権率が増えることでしか問題は解決しないのか。すでにスルガ銀行側に事態収拾のシナリオがあるのか。状況は混迷を深めています。地銀の大型破綻といった事態につながれば日本経済へのインパクトも少なくありません。
スルガ銀行に解決能力がないのであれば、監督官庁による一層の指導が求められます。シェアハウスでみそぎが済んだと金融庁が判断するには、今回のスルガ銀行側のなりふり構わぬ対応は悪手だったように感じますが、金融庁は今後どのような判断をくだすのでしょうか。
平和的な事態の収拾につながる次の一手を誰が打つのか。今後も投資と詐欺編集部では取材を通じてこの問題を追いかけていきます。