スルガ銀行は、2018年1月に大きく社会問題化したシェアハウス関連融資の問題を受け、社内で調査を行うだけではなく、監査法人や弁護士法人による第三者委員会を設置。事実関係の調査と原因究明を行い結果を公表しました。その結果をまとめた調査報告書はスルガ銀行第三者委員会報告と呼ばれています。その概要は以下の通りです。
- スルガ銀行は、早くからリテール戦略を採用し、特に不動産投資向けの収益不動産ローンの拡充に努めていた。シェアハウスローンもその一環として、2013年4月から本格的に取り扱われるようになった。
- 2015年2月以降、シェアハウス関連業者に関する不芳情報の告発が行われたが、スルガ銀行では適切な対応が取られず、むしろシェアハウスローンが急増した。
- スルガ銀行のガバナンス体制、コンプライアンス体制、内部監査体制、支店長の管理体制などには様々な問題点があり、不正行為等を防止できなかった。
- 事業計画・予算の設定プロセスや人事評価・昇進昇格の仕組みが営業重視に偏重しており、経営の健全性が損なわれていた。
- 以上のような体制面の問題が、シェアハウスローン問題の発生を招いた原因であり、ガバナンス・内部統制の強化や営業のあり方の是正などの改善策の必要性が指摘されている。
この第三者委員会報告には「公表版」と銘打たれており、社内では非公開版が存在するようです。いずれにせよ、スルガ銀行自体が、社内で営業数字を挙げるためにパワハラが横行し、社外から不動産営業経験者を多数採用しながら、銀行金融機関としては不正な融資資料の改ざんやその見逃しを行っていたことが赤裸々に語られています。
参考:第三者委員会の調査報告書の受領と今後の当社の対応について
また、この約半年後にはスルガ銀行の投資用不動産融資に係る全件調査報告がなされており、37,907件の投資用不動産融資に対する調査が行われています。その中で、改ざん・偽造等の不正が認められた案件として、シェアハウスにおいては1,647件中886件、シェアハウス以外では36,260件中6,927件の融資に不正があったとされています。なおこの報告書にはさらに『全件調査で「検出なし」と判断された案件の中には一切不正が存在しなかったことまでを保証するものではない。』と記載されていることからさらに多くの投資用不動産融資において改ざん・偽造があった可能性があることを示唆しています。
経営層も黙認し不正融資などの違法行為も横行
報告書によれば、スルガ銀行において以下のような法律に違反する可能性のある行為が行われていました。
- 債務者関係資料、物件関係資料、売買関連資料などの偽装・改ざんが行員により組織的に行われていた。
- シェアハウス関連業者への融資を継続するため、取引禁止後もダミー会社を使うなどして取引を継続していた。
- 審査書類の偽装等に行員が関与していた。
- 抱き合わせ販売や繰上返済の防止など、顧客の不利益になる行為が行われていた。
- 業者への審査条件の暴露や、専ら業者を通じた説明・書類受領など、銀行として不適切な行為があった。
- 一部の行員が業者から金員を受領していた。
これらの行為の中には、詐欺罪、背任罪、金融商品取引法違反などに該当する可能性のあるものが含まれています。銀行法に明確に抵触する内容も見逃せません。報告書では個々の行為の違法性の判断は示されていませんが、法令違反の疑いが指摘されている状況と言えます。
なお、本報告書を受けて2018年10月5日に金融庁よりスルガ銀行に対して業務停止命令と業務改善命令が発出されていますが、業務改善命令に関しては未だに解除されていない点もポイントです。
参考:金融庁 スルガ銀行株式会社に対する行政処分について
参考:スルガ銀行 当社に対する行政処分について
どう責任を認識し責任を果たすのか
スルガ銀行はこの調査結果を受けて、不正な行為に関与、または見逃した経営責任を持つと思われる役員とその家族などの経営幹部12人を2018年11月に提訴し35億円の損害賠償をもとめる裁判を起こしています。(通称:スルガ役員訴訟)
参考:シェアハウスその他の収益不動産に係る融資問題に関する当社現旧取締役及び旧執行役員に対する損害賠償請求訴訟の提起等に関するお知らせ