Home 詐欺を知る ドラマ「正直不動産」に学ぶ―『あんこ業者』

ドラマ「正直不動産」に学ぶ―『あんこ業者』

ドラマ「正直不動産」に学ぶ―『あんこ業者』

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『正直不動産』は、2022年春に、NHK『ドラマ10』枠で放送された、不動産業界の裏側をコミカルに描いた作品である。ドラマを題材に不動産取引で気を付けるべきことを学んでいこう。第8 回は、『あんこ業者』である。

あんこ業者

不動産の売買は、売主側の不動産業者、買主側の不動産業者の間でなされることが多い。さらに、その不動産業者の間に入って、業者同士を仲介する業者が絡むケースもある。その顧客は、この中間業者の存在を知らないことすらある。この様子が、饅頭の中に隠れたあんこに似ていることから、あんこ業者と呼ぶ。物件を早く売りたい場合など、あんこ業者を使うことで、広く情報を流通させ、素早く取引きが成立するという利点がある。もちろん、メリットだけではない。ドラマで、そのデメリットを確認しよう。

あんこ営業

5月は、不動産業者の売上が伸び悩む季節だ。春の異動に伴う特需が一段落するからだ。登坂不動産でも、売上アップに躍起だ。営業成績1位には、いつもの倍のインセンティブが、用意された。この臨時ボーナスを狙って、桐山が、次々と成約を決めていく。だが、その商談の雲行きが怪しい。顧客が気づく。『あれ、資料には駅近って書いてあったけど、15分もかかるんですか?遠すぎでしょう。あれぇ、少し古いって聞いていたけど、17年も経ってるじゃないですか?話が違いますよね。』実は、桐山、スピードを重視するあまり、あんこ業者を使っていたのだ。そのマイナス面が、露呈した。あんこ業者にとって、顧客はほとんど重要ではない。とにかく、売れればいい。売れる為なら、うそも方便、それがあんこの正体だ。呆れて帰ろうとする顧客を、桐山が引き止める。『こちらの方々は、弊社の人間ではありません。』あっさり、あんこを切り捨てた。『彼らは、お客様にとって、耳障りの良いことしか言わなかったかもしれません。弊社では、物件について包み隠さずお伝えして、誠心誠意、お客様のご希望に沿うよう進めてまいります。いかがでしょう。この桐山に、再度説明させて、頂けませんか?』桐山、必死のフォローで、なんとか、この苦境を乗り切った。

正直営業

永瀬も正直営業が板についてきた。既に1件目の成約を決めた。今日は2件目を狙う。ターゲットは、30代の田之上夫妻だ。夫人が問う。『なんで、こんなに安いんですか?』永瀬が、正直に答える。『築年が古く、この価格となっています。但し、新耐震基準もクリアしていますので、ご安心下さい。』好調だ。夫が問う。『すぐ住めるってこと?』『住めますが、その前に、大規模リフォームが必要です。少なくとも、200万は掛かります。』永瀬、正直ベースを貫く。『でも、リフォームってことは、壁紙とかは自分の好みでできるんですよね。』夫人はまだまだ乗り気だ。永瀬は、これでもかと、正直をぶつける。『デメリットはそれだけじゃないんです。徒歩15分と書かれていますが、アップダウンが多く、20分近く掛かってしまうんです。』これには、夫が音を上げる。『通勤、不便じゃん、ダメだここ。』しかし永瀬は慌てない。正直を使いこなして、流れを変える。『ただ、奥様は、こうしたデメリットを加味した上で、この物件にご興味を持たれているのではありませんか?』夫人が応じる。『まぁ、リフォームで綺麗になるほうが、いいかなぁって。』ここで、すかさず、永瀬が決める。『不動産を選ぶ際の極意は、諦めることです。完璧な物件など存在しないのですから。全ての条件が揃えば、価格も上がります。何を捨てるかで誇りが問われ、何を守るかで愛情が問われるとスティーブジョブズも言っています。ご家族を優先するのか、通勤を優先するのか、今一度、ご夫婦で話し合われてみてください。』好感触である。永瀬は、成約を確信した。

ミネルヴァの妨害

翌日、永瀬と月下に、衝撃が走る。なんと、田之上夫妻からのクレームだ。物件を再度見に行ったところ、ミネルヴァ不動産の営業マンが、事故物件だと教えてくれたというのだ。だが、永瀬は慌てない。『この事故物件サイトを見せられたんですね。よく見て下さい。投稿年月日。』なんと、田之上夫妻が物件を見に行った時間が刻まれている。実は、ミネルヴァ不動産の営業マンが、同僚に頼んで、その場で事故物件情報を書き込せたのだ。『じゃあ、事故物件じゃなっかったんですね。』夫人が胸をなでおろす。永瀬、薄氷の成約である。

ミネルヴァとの攻防

永瀬と月下が、ミネルヴァ不動産に怒鳴りこむ。いきり立つ二人を前に、花澤は平然と不正を認める。しかし、あくまで、若手営業マンの単独行動としてだ。永瀬の怒りは納まらない。『ここ最近、うちの成約寸前だった物件でキャンセルが相次いでいます。理由は、今回同様、事故物件だからです。ほんとは、会社ぐるみでやってるんでしょ。あなたたちみたいな悪徳不動産屋のせいで、まっとうな業者が迷惑を被るんです。』花澤も負けてはいない。『どの口が言ってるんですか?あなた、さんざん嘘をついて営業してきたんでしょう。うちにもよく来ますよ。登坂不動産の永瀬に騙され、不良物件を買わされたっていうお客様が。それを棚に上げて、自分をまっとうだなんて、よく言いますね。』永瀬に代わって、月下が啖呵を切る。『うちの永瀬は、わたしの知る限り、まっとうです。』しかし、花澤は不敵だ。『これで終わるとは思わないでね。』そう、ミネルヴァの攻勢は、まだ始まったばかりだ。

あんこ営業の結末

営業強化月間の成績が発表された。桐山が、永瀬を抑えて、インセンティブを手にした。しかし、あんこ業者を使った桐山の仲介手数料は、通常の半分しか入らない。つまり、3件成約した桐山の仲介手数料は1.5件分だ。これに対し、永瀬はあんこ業者を使わず2件を獲得している。つまり、実質は、永瀬の勝利である。桐山は、社長から渡された茶封筒を、握りつぶした。

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