目次
被害サマリー(2025年上半期)
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| ニセ警察詐欺の被害額 | 389億3,000万円 |
| 認知件数 | 4,737件(特殊詐欺全体の35.9%) |
| 特殊詐欺全体の被害額に占める割合 | 65.2%(被害の3分の2がニセ警察詐欺) |
| 特殊詐欺全体の被害額(上半期) | 597億3,000万円(前年同期比2.6倍) |
| 2025年9月末時点の累計被害額 | 約660億円(被害件数約7,600件) |
| 2025年10月末時点の特殊詐欺被害累計 | 約1,096億円(過去最悪を更新) |
| 主な被害年代 | 30代が最多(20.5%)、次いで20代(18.7%) |
| 主な被害金等交付形態 | インターネットバンキング(IB)が176億円・全体の45.3% |
ニセ警察詐欺とは——「オレオレ詐欺」の進化型
かつての特殊詐欺(オレオレ詐欺)は「息子が事故を起こした」と子や孫を装う手口が主流だった。ニセ警察詐欺はその進化版で、「警察官・検察官・金融庁職員」など公的機関の権威を装う点が特徴だ。警察庁が2025年1月から独立した統計区分として集計を開始したことからも、いかに急増・深刻化しているかが分かる。
2024年後半から急増し始め、2025年にはオレオレ詐欺全体の73.3%をニセ警察詐欺が占めるほどになった。1件あたりの被害額が大きく(IBによる送金で数百万円規模)、かつ若い世代まで被害が拡大しているのが従来の特殊詐欺との大きな違いだ。
手口の全体像:5ステップで完結する「スマホ詐欺」
ステップ1:国際電話・スプーフィングで最初の接触
「+1」などで始まる国際電話番号からの着信、または末尾を「0110」に偽装した番号が使われる。さらに実在する警察署の電話番号を着信画面に表示させる「スプーフィング」も確認されており、番号を見ただけでは偽物を見抜くことが極めて難しい状況だ。自動音声で大量に架電し、反応した人を絞り込む手法も広がっている。
ステップ2:「犯罪に巻き込まれている」と不安を煽る
「あなたの口座が犯罪に使われている」「あなたの名義で不正な口座が開設された」「マネーロンダリングの容疑がかかっている」などと告げ、心理的に動揺させる。「否定するなら身の潔白を証明してほしい」と追い詰めることで、被害者は「自分は関係ない」と必死になる状態に誘導される。
ステップ3:SNSのビデオ通話に誘導し「制服・警察手帳・逮捕状」を見せる
電話からLINEなどのSNSビデオ通話へ移行させる。通話画面には警察の制服を着た人物が登場し、精巧に偽造された警察手帳や逮捕状(被害者本人の名前が印字されたもの)を画面に見せる。公的機関の「権威性」を視覚的に演出することで、被害者の判断力を麻痺させる。
ステップ4:「資産調査・保護」名目で送金を指示
「身の潔白を証明するため、一時的に全財産を指定口座に移す必要がある」「資産を犯罪者から保護するため、捜査口座に振り込んでほしい」などと指示。インターネットバンキングでの送金を要求し、複数回にわたって繰り返させるケースが多い。1件あたり数百万円、高齢者では全財産を失う事例も報告されている。
ステップ5:被害者を受け子・出し子に利用する二次被害
特に悪質なケースとして、被害者自身を別の詐欺事件の「受け子」「出し子」として犯行に加担させる手口が確認されている。「あなたが犯罪者の疑いを晴らすために、捜査に協力してほしい」と指示し、被害者が気づかないうちに犯罪に加担させられる。2025年上半期にこのような二次被害に遭ったとみられる事例が5件確認された。
なぜ20〜30代の若者が被害に遭うのか
従来の特殊詐欺は高齢者が主な標的だったが、ニセ警察詐欺では30代が最多(20.5%)、20代が2位(18.7%)と若い世代の被害が目立つ。その理由は手口の変化にある。固定電話への架電からスマートフォン・SNSへ完全移行したことで、スマホ操作に慣れた若年層が狙いやすくなった。また、インターネットバンキングで自ら送金させる手口は、操作に慣れた若者ほどスムーズに騙されるという逆説がある。「詐欺は高齢者が騙される話」という固定観念が若者の警戒心を下げていることも要因だ。
絶対に覚えておくべき「本物の警察は絶対にやらないこと」
- 警察はSNS・ビデオ通話で捜査・事情聴取を行わない LINEやZoomで警察手帳を見せて捜査することは絶対にない
- 警察は電話で口座への送金・振込を指示しない「捜査口座に振り込め」「資産を移せ」は100%詐欺
- 警察は「全財産を出すことで疑いが晴れる」とは言わない このような要求は詐欺の典型的パターン
- 検察・金融庁・総務省も電話で金銭を要求しない どの公的機関も電話での送金要求は行わない
- 「折り返し先の電話番号」を犯人から教わって電話しない 同じグループにつながる偽番号の可能性がある
同じ被害に遭わないためのチェックリスト
- 「+」で始まる国際電話には出ない・折り返さない 着信拒否設定を今すぐ確認する
- 電話番号が「0110」で終わっていても安心しない スプーフィングで偽装できる。電話番号だけで本物と判断しない
- 不審な着信があったら必ず電話を切り、自分で番号を調べて掛け直す 相手から教わった番号には折り返さない
- 警察・検察・金融庁を名乗る電話への対応は「電話を切る」一択 どんな事情を告げられても、まず電話を切る
- 家族・知人に「こんな電話が来た」とすぐ相談する 一人で抱え込まずに第三者に話すことで冷静になれる
- 高齢の家族に繰り返し話す 高齢者は標的になりやすい。定期的に注意喚起を
- 固定電話に「自動通話録音機」を導入する 録音開始のアナウンスだけで犯人が諦めるケースが多い
よくある質問(FAQ)
Q. 実際の警察署の番号が表示されていたのですが、本物ではないのですか?
はい。「スプーフィング」という技術で、着信画面に任意の電話番号を表示させることができます。2025年には実在する愛知県警察本部の代表電話番号を偽装した事例も報告されました。表示された番号がどんなに正しく見えても、それだけでは本物の証明にはなりません。不審に感じたら電話を切り、自分でその警察署の番号を調べて掛け直してください。
Q. ビデオ通話で本物そっくりの警察手帳や逮捕状を見せられました。本物では?
本物ではありません。警察手帳や逮捕状は画像・動画で精巧に偽造できます。また、生成AIやディープフェイク技術の普及により、本物と見分けがつかないレベルの偽造が容易になっています。ビデオ通話での警察手帳・逮捕状の提示は「詐欺の証拠」と考えてください。本物の警察がSNSビデオ通話で捜査を行うことはありません。
Q. 「送金しないと逮捕する」と言われました。本当に逮捕されますか?
絶対にありません。警察が逮捕する場合は直接自宅を訪問するか、裁判所が発行した令状に基づいて手続きを行います。電話で「今すぐ送金しないと逮捕する」というのは100%詐欺です。恐怖を感じても、電話を切って最寄りの警察署(#110)か警察相談専用電話(#9110)に連絡してください。
Q. すでに送金してしまいました。どうすればよいですか?
すぐに次の2つを行ってください。①送金した銀行・証券会社に電話して「振込詐欺被害」であることを伝え、振込先口座の凍結を依頼する。②最寄りの警察署に被害届を提出する。振込直後であれば口座凍結・被害回復の可能性があります。時間が経つほど回収が困難になるため、気づいた直後に動くことが重要です。
Q. 「副業詐欺」も増えているそうですが、関係がありますか?
2025年上半期には副業名目で現金等をだまし取る「副業詐欺」も832件・14.1億円の被害が確認されています。ニセ警察詐欺とは別の手口ですが、どちらも「公的権威や信頼できる存在を装って不安・期待を煽る」という本質は同じです。SNSや電話での金銭要求には、種類を問わず慎重に対応してください。
被害に遭った・疑いがある場合の相談先
- 警察相談専用電話:#9110(詐欺の疑い・相談。24時間対応の都道府県もある)
- 緊急の場合:#110(すぐに被害届を提出したい場合)
- 消費者ホットライン:188(詐欺被害の相談)
- 振込先金融機関のカスタマーサポート(送金直後なら口座凍結依頼)
- 警察庁「SOS47」サイト:https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/sos47/
関連事件・類似手口
ニセ警察詐欺と同時期に増加している手口として「ロマンス詐欺」がある。2025年上半期のロマンス詐欺被害は239億6,000万円と前年同期比52.4%増で、マッチングアプリを介した接触が約半数を占める。また、地方銀行や宅配業者を装う「ボイスフィッシング」も法人を標的に増加している。いずれも電話・SNS・偽サイトを組み合わせた「複合型詐欺」であり、単一チャネルだった従来の手口から進化している共通点がある。
編集部コメント
「警察がSNSで捜査する」「送金すれば疑いが晴れる」——こう書くと誰もが「騙されるわけがない」と思うだろう。しかし現実には30代・20代の若者を含む4,737人が上半期だけで被害に遭った。突然「あなたは犯罪者だ」と告げられ、本物そっくりの制服・手帳・逮捕状を見せられたとき、人は想像以上に冷静でいられなくなる。「自分は大丈夫」という過信こそが、詐欺犯が最も期待する心理状態だ。「怪しい電話は切る」という単純な行動を、今すぐ家族全員で共有してほしい。




