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    ドラマ「正直不動産」に学ぶ―『サブリース契約』

    『正直不動産』は、2022年春に、NHK『ドラマ10』枠で放送された、不動産業界の裏側をコミカルに描いた作品である。ドラマを題材に不動産取引で気を付けるべきことを学んでいこう。第1回は、『サブリース契約』である。

    サブリース契約とは

    サブリース契約をご存じだろうか?分かりやすく言えば、転貸借、又貸しのことである。不動産業者は、物件をオーナーから借り上げ、借り手を探して転貸する。このサブリース契約は、オーナーに、大きなメリットがある。運用を業者に任せたまま、入居状況が悪くなっても、一定の収入が約束されるのだ。

    その一方で、デメリットについては、あまり知られていない。その結果、トラブルが多発している。では、デメリットとは何であろうか?ドラマで確認していこう。

    ライアー永瀬の営業

    永瀬は、嘘つきである。彼の嘘は、スキルですらある。長年、登坂不動産で、営業成績No1を続け、タワマンの上層階に住み、高級車を乗り回す。これらは全て、嘘を武器に、築き上げてきたものだ。皆、彼をライアー永瀬と呼ぶ。息を吐くように嘘を並べて、契約をもぎ取る、悪魔のような男だ。早速、彼の営業トークをご覧いただこう。

    顧客は、石田親子。おやじは50年以上、和菓子を作り続けている。娘は、そんなおやじの体を案じ、引退を勧めている。引退後の生活費は、30年一括借り上げ保証のサブリース契約による安定収入をあてにしている。入居状況に関わらず、一定の家賃が保証されるので、安心だ。永瀬は言う。『入居者集めから、アパートの管理まで弊社が行います。更に、家賃変更を協議します。物価の上昇や、増税などの時代の変化に応じて、4年目以降は、2年毎に家賃を原則3%上げていきます。』おやじは、『俺、仕事辞めるのか。』とまだ渋い顔だ。永瀬が押す。『これは、石田さんだけでなく、いずれ誕生されるお孫さんのためでもあるんです。石田さんは、これまで、十分働いてこられました。これからは、土地に働いてもらう番です。』この言葉に、おやじも、うなずく。土地を担保に、1億のローンを組んで、アパートを建てる契約が成立だ。更に、お菓子作りの作業場をたたんで、二棟めのアパートを建てる計画も依頼された。永瀬は、しっかり、石田親子の信頼を得たのだ。

    新人、月下は賞賛する。『永瀬先輩の嘘偽りなく、顧客に誠実に向き合うカスタマーファーストの営業、感動しました。』だが、永瀬の営業トーク、詐欺まがいだ。実は、3年後、石田家のアパートの近くに、おしゃれなマンションが建つ予定だ。この重要事項を永瀬は、一切伝えていない。そう、入居率が悪くなるのが目に見えているのだ。すると、家賃を下げざるを得なくなる。値下げの前には協議が必要だ。契約書には、協議により、家賃を原則として3%アップとするとの記載がある。しかし、これは、原則に過ぎない。約束値ではないのだ。実際には、値下げを協議することになる。そして、それでも経営が改善しなければ、石田家を見捨て、中途解約する予定だ。契約書には、そのための条項も入っている。つまり、長期保証とは名ばかりのリスクしかない案件を、さもノーリスクであるかのように、営業トークで、売りさばいたわけだ。正直者が馬鹿を見る。嘘をついて何が悪い。それが、ライアー永瀬の営業スタイルだ。

    両手とは

    後日、2棟目のアパートの計画は白紙になり、売却の方向に変わった。登坂不動産の狙いは、両手である。両手とは、売り手と買い手の双方の仲立ちをして、仲介料を双方から貰うことを指す。1案件で2度美味しい商売である。石田家は、サブリース契約によるアパート経営と、土地の売却とを、同時に進めていくこととなった。

    オネスティ永瀬の誕生

    地鎮祭の日、永瀬に異変が起きる。なんと、嘘がつけなくなったのだ。いや、正確には、飛び出す本音だ。これがまた、口が悪い。上司からの飲みの誘いに、『あなたのしょうもない自慢話なんかうんざりなんですよ。このクソ上司が。』と返す始末である。これをオネスティ永瀬と呼ぼう。

    オネスティ永瀬は、大切な顧客にも、炸裂する。営業トークに騙され、アパート経営にはリスクがないと語る石田父に向かって、『アパート建てるにしても、売却するにしても、リスクだらけに決まってるじゃないですか。大体、あなた達、親子でちゃんと話し合ったんですか?家の売買は一生を左右するんです。あなたの孫の代まで。不動産なめんな。』と言い放つ。もちろん、契約は解除の方向である。永瀬は、一気に、ダメ営業へとなり下がった。給料減額の上に、社長は、永瀬の解雇まで検討し始めた。

    石田家の決断

    数日後、石田親子が、登坂不動産にやってきた。詫びる永瀬に、菓子折りが渡される。美しい桜の和菓子だ。おやじが語る。『あんたに言われて、娘と話し合った。俺の菓子を食べるとみんな幸せそうな顔をするんだ。その姿を見るのが好きだ。俺はまだ、仕事がしたい。』娘が続ける。『本当は、父にはもうゆっくりからだを休めて欲しかったんですけど。久しぶりに父が作った和菓子を食べて、思い出しました。私が、小さい時から、父はいつも作業場に座って、和菓子を作っていて、私は、その背中を見るのが、大好きで。だから、そんな大切な場所を無くしちゃいけないなって。二棟目のアパートも、土地の売却もやめて、父にはまだまだ、仕事を続けてもらおうと思います。』そして、おやじが宣言する。『但し、一棟目のアパートは永瀬君に任せる。君なら信頼できる。』正直で勝ち取った、はじめての契約だ。この契約で、永瀬は首の皮一枚、繋がった。

    投資と詐欺編集部
    投資と詐欺編集部
    「投資と詐欺」編集部です。かつては一部の富裕層や専門家だけが行う特別な活動だった投資ですが、今では一般の消費者にも未来の自分の生活を守るためにチャレンジしなくてはいけない必須科目になりました。「投資は自己責任」とよく言われるのですが、人を騙す詐欺事件は後を絶ちません。消費者が身を守りながら将来の生活に備えるための情報発信を行なっていきます。

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