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    史上2番目の長さ:米政府閉鎖24日目、投資家は歴史なき領域へ

    2025年10月25日、米国政府閉鎖が24日目に突入し、1995-1996年のクリントン政権時の21日間を超えて史上2番目の長さとなったが解消の目途はいまだ立たない。残るは2018-2019年トランプ第1期政権時の35日間の記録のみ。だが今回、市場は過去のパターンが通用しない「未知の領域」に足を踏み入れつつある。

    楽観論の終焉

    従来、政府閉鎖は投資家にとって「買いの機会」だった。過去の閉鎖後12カ月でS&P500は平均16.95%上昇し、前回の閉鎖後は36%という驚異的なリターンを記録した。しかし、その前提が崩れ始めている。経済損失は週あたり約150億ドルに達しており、24日間で累計500億ドル以上の損失が発生している。モルガン・スタンレーのエコノミストは、閉鎖の各週でGDPが約0.1%減少すると推計している。3.4週間が経過した今、GDP損失は0.3-0.7%に達している可能性がある。

    市場の分断が鮮明に

    閉鎖開始当初、S&P500は0.80%上昇し、複数の新高値を記録した。だが水面下では明暗が分かれている。

    勝者:防衛的セクターの独壇場

    ユーティリティ、ヘルスケア、生活必需品、テクノロジーの4セクターがベンチマークを上回り、安定した配当と収益を提供している。金は閉鎖開始から3週間で12.6%急騰、投資家が安全資産へ殺到している証だ。

    敗者:景気敏感セクターの崩壊

    一方、エネルギーセクターは3週間で3.8%下落、石油価格は9%下落した The Motley Fool。金融セクターは3.1%下落し、地方銀行は6.7%急落。PNC Financialは月初来8.6%下落し、年初来でマイナスに転じた The Motley FoolNasdaq

    保険大手ProgressiveとAllstateは閉鎖以降約10%下落 The Motley Fool。消費者の財布の紐が固くなり、信用状態が悪化している現実を反映している。

    前例なき脅威:恒久的解雇

    今回の閉鎖が過去と決定的に異なるのは、トランプ大統領の発言だ。

    大統領は一時的な無給休暇ではなく、連邦職員の恒久的な解雇を示唆している CNBCCNN。約75万人の非必須職員が恒久的に解雇されれば、失業率が約0.5ポイント上昇し、景気後退のリスクが高まる CNN

    バークレイズのアナリストは「閉鎖が今回は過去の前例に従わない可能性がある理由がある」と警告し、「これは過去の慣行からの大きな逸脱であり、閉鎖の経済的影響に新たな不確実性を注入する可能性がある」と述べた CNBC

    データ・ブラックアウトの代償

    政府閉鎖により、雇用統計やCPIなど重要な経済データの公表が停止されており、投資家、エコノミスト、政策当局者は経済の実態を把握できない状況に陥っている。JPモルガンのチーフエコノミスト、マイケル・フェローリは「政府閉鎖が続く限り、我々は少し盲目的に行動することになる」と認めた。バンクレートのシニアエコノミストは「閉鎖に良いタイミングなどないが、今回は特に時期が悪い。最新の雇用データの欠如は、経済の脆弱性の他の兆候と重なっている」と指摘する。

    興味深いことに、データがない状態で投資家は「盲目飛行」しているが、市場は実際にそれを好んでいる兆候がある。金は昨日5.3%下落し、リスクオン姿勢への転換が見られた。悪いニュースが出ないことが、良いニュースになっているのだ。

    脆弱な経済への追い打ち

    過去の長期閉鎖時と異なり、2025年の米国経済は既に脆弱だ。労働市場は弱体化しており、関税によるインフレリスクも残っている。JPモルガン・アセット・マネジメントのチーフ・グローバル・ストラテジスト、デビッド・ケリーは「タイミングが悪い。今回は少し危険です」と警告している。アバディーンの副チーフエコノミストは、閉鎖が「米国の制度的信頼性、財政状況、機能不全への懸念を高めている」と述べた。

    投資家への処方箋

    あくまで一般論だがこうした異常事態の際にとるべき投資行動を考えてみた。この異常事態の中で株価や資産価値が下がるっものを売るべき、上がるものを買うべき、としているが、事態が解決した際は逆の値動きを見せる。そうした観点を踏まえてご一読いただきたい。

    売却・削減すべき資産(主に米国株):

    エネルギー株(50-100%削減)。

    これは政府支出により支えられている公共インフラ事業の側面がつよく、アメリカ政府の予算執行に業績が大きく左右される銘柄だ。当面業績、株価はネガティブな影響があるだろう。ただしウォーレン・バフェットは逆張りで住友商事を買い増し筆頭株主に躍り出た。逆張りもまた検討するべきオプションだ。

    地方銀行・保険株(全売却推奨)

    地方銀行とコミュニティバンクは、大手国内銀行と比較して地理的分散が不足しており、より集中した顧客基盤を持ち、関係性に基づく預金に依存しているため、閉鎖の影響をより強く受ける。 一部の地域では農業関連の季節的な連邦支払いに依存していたり、近隣の軍事基地や退役軍人病院と密接に関連している銀行もあるため、地域経済が深刻な打撃を受ける可能性がある。

    ローン延滞の急増リスク

    消費者の懸念、家計の逼迫、信用状態の悪化により、ローン延滞が増加しており、特に中低所得層の借り手で顕著だ。長期化する閉鎖は地域経済に負担をかけ、銀行はより高い延滞率と追加の貸倒引当金を計上する必要がある。

    商業用不動産(CRE)爆弾の存在

    モーゲージ・バンカーズ協会によれば、2025年に記録的な9,570億ドルのCRE債務が満期を迎えます。多くの地方銀行はオフィスローンへの多額のエクスポージャーを抱え、「延長と先延ばし」戦略を行っている。特別サービシング率は25年ぶりの高水準に達しており、一部の専門家は銀行が損失を認識せざるを得なくなれば「ハードランディング不況」を予測している。 閉鎖は連邦政府のリース活動を停滞させ、数十億ドルのCRE投資を遅延させる可能性がある。

    貸出活動の縮小のリスク

    長期化する閉鎖による経済データ発表の遅延と、閉鎖が回答収集に影響を与えることでデータの信頼性が低下すれば、より厳格な引受審査、需要の減少、純金利マージンの縮小(スプレッド圧縮)につながる可能性がある。

    小型株(30-50%削減):市場の影響を受けやすいという意味でリスクが高まっている。

    政府契約依存企業(既存ポジション削減)

    購入・増加すべき資産:

    • 金・金鉱株(10-20%追加):最強のリスクヘッジ。ついに4000ドルを超えた。
    • 米国債(5-10%追加)
    • ユーティリティETF(XLU)
    • ヘルスケアETF(XLV)
    • 防衛的テクノロジー大手(GOOGL、META、UNH、PG、NEE)

    現金比率の引き上げ

    歴史的に、より良い参入ポイントは閉鎖開始から5-10日後に現れるが、1カ月を超えた今、解決の明確な兆候が見えるまで待つべきかもしれない。現金ポジションを20-30%に引き上げ、機会を待つ。市場の押し目、特に政府閉鎖の不安による弱さは、魅力的な買いの機会となる可能性があるが、それは解決後の話だ。

    35日目の壁

    あと11日で史上最長記録に並ぶ。それを超えれば、市場は完全に未知の領域に入る。

    歴史的に、防衛請負企業は解決の兆候が見えると急速に回復する。2013年と2018-2019年の閉鎖では、解決後3カ月以内にS&P500がそれぞれ2.4%と5.3%上昇した。だが今回、その前提は成り立つのか。野村證券のエコノミストは、トランプの恒久的解雇の脅威は「通常よりも深刻な短期的影響を及ぼす可能性がある」と警告している。

    結論:警戒モードへ

    歴史的に、政府閉鎖は市場にとってほとんど影響がなかった。Truist Wealthの調査によれば、1976年以降の20回の閉鎖でS&P500には平均してほとんど変化がなかった NBC News

    しかし24日目の今、その歴史的な慰めは色褪せつつある。投資家は楽観論を捨て、防衛的ポジションを固め、解決への明確な道筋が見えるまで待つべき時だ。

    長期投資家にとって、解決後の大幅なリバウンドは依然として魅力的だが、そのタイミングを見極めることが全てとなる。史上最長の閉鎖という記録更新は、もはや時間の問題かもしれない。

    投資と詐欺編集部
    投資と詐欺編集部
    「投資と詐欺」編集部です。かつては一部の富裕層や専門家だけが行う特別な活動だった投資ですが、今では一般の消費者にも未来の自分の生活を守るためにチャレンジしなくてはいけない必須科目になりました。「投資は自己責任」とよく言われるのですが、人を騙す詐欺事件は後を絶ちません。消費者が身を守りながら将来の生活に備えるための情報発信を行なっていきます。

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