投資を考える際、多くの人が「金」と「不動産」のどちらが良いのか悩みます。両者とも実物資産として人気がありますが、その役割やリターンは大きく異なります。この記事では、過去20年間(2005年→2025年)の実際のデータをもとに、金と不動産の収益性を比較し、それぞれの資産クラスとしての役割や特徴を解説します。
目次
金価格の驚異的な上昇
まず、金の価格推移を見てみましょう。2005年の金価格は1グラムあたり1699円でした。それが2025年10月には23179円を突破し、過去最高値を更新しています。つまり、過去20年間で金価格は約13.6倍に上昇しました。年平均リターンに換算すると約14%という驚異的な数字です。
金価格が上昇した背景
金価格の上昇には、いくつかの重要な要因があります。特に2020年以降の上昇が際立っています。コロナショックをきっかけに各国が実施した大規模な金融緩和、そして続くインフレへの懸念が金価格を押し上げ続けています。
2025年10月には金価格が1トロイオンスあたり4000ドル台に到達し、記録的な高値を更新しました。第2四半期の平均金価格は3280ドルで、前年比40%、前四半期比15%上昇しました。さらに、北米の金ETFには2025年7月までに220億ドルの資金流入があり、その99%は米国ベースのファンドからでした。2025年は記録的に2番目に強い年になるペースです。
なぜ金が注目されているのか
金が投資家から注目される理由は明確です。トランプ大統領の関税政策や地政学的緊張の高まりが、インフレ懸念を引き起こしています。不確実な世界貿易政策、地政学的混乱、金価格上昇がETFへの資金流入を促進しています。また、米国のインフレ率が3から4%と高止まりする中、FRBの利下げが予想されており、利回りのない資産である金の保有コストが相対的に低下しています。
中央銀行も金の購入を続けています。2022年以降、2700トンの金を購入するペースで推移しており、これは近年で最速です。ドル建て金価格が急騰しても継続的に購入していることから、価格よりも長期的な戦略的考慮が動機となっています。
不動産価格の推移
一方、不動産市場はどうでしょうか。不動産の価格推移は金ほど単純ではありません。不動産価格は2002年が底値となっており、その後は概ね上昇傾向が続いています。首都圏の新築マンション価格に限って見ると、価格上昇は顕著です。
具体的な数字を見てみましょう。首都圏の新築マンション価格は2021年上半期の平均価格6414万円から、2025年上期に8958万円に達し、約2500万円の上昇となっています。仮に2005年に4500万円のマンションを購入していた場合、2025年にはその価値は約9000万円、つまり約2倍になっていると推定されます。
不動産価格上昇の要因
不動産価格が上昇した背景には、いくつかの政策的要因があります。2013年以降、日銀の黒田総裁が始めた超金利政策による影響で住宅ローンが組みやすくなり、不動産の需要が伸びました。2013年から2025年まで超低金利政策が続き、住宅ローンの金利も0.3から0.4%程度と極めて低水準に抑えられてきました。
ただし、全国的にみると不動産価格は上昇傾向にありますが、マンション価格はひときわ高騰しており、住宅地や戸建ては若干の間延び感があります。つまり、地域や物件タイプによって大きな差があるということです。
収益性の比較
それでは、実際の収益性を比較してみましょう。
金の収益構造
金の収益はシンプルです。値上がり益(キャピタルゲイン)のみです。金の保有は株とは異なり、利息や配当金などの利益はありません。保有しているだけでは利益を生みません。つまり、安く買って高く売ることでしか利益を得られません。ただし、維持コストは比較的低く、保管さえしっかりしていれば追加費用はほとんどかかりません。
不動産の収益構造
不動産はより複雑です。収益は大きく2つに分かれます。まず、値上がり益(キャピタルゲイン)があります。購入時より高く売却できれば、その差額が利益になります。次に、賃貸収入(インカムゲイン)があります。物件を貸し出すことで、毎月安定した収入を得ることができます。仮に2005年に4500万円のマンションを購入し、月10万円で賃貸していた場合を考えてみましょう。キャピタルゲインは約4500万円、20年間の賃貸収入は約2400万円(税引前)となり、合計で約6900万円の利益が見込めます。
ただし、不動産には以下のようなコストが発生します。固定資産税や管理費、修繕積立金といった定期的な支出があります。大規模修繕などの臨時費用も必要です。空室期間があれば収入がゼロになるリスクもあります。ローンを利用した場合は金利負担も考慮する必要があります。
レバレッジ効果の重要性
不動産投資で見逃せないのがレバレッジ効果です。例えば、自己資金500万円で5000万円の物件を購入した場合を考えてみましょう。物件価格が2倍の1億円になれば、自己資金に対するリターンは10倍以上になります。金でもレバレッジ取引は可能ですが、不動産ほど低金利で長期の融資を受けることは困難です。この点が不動産投資の大きな魅力の一つです。
資産クラスとしての役割の違い
金と不動産は、ポートフォリオにおいて異なる役割を果たします。
金の役割
金は純粋な守りの資産です。危機時の最後の砦として機能し、ポートフォリオの安定装置となります。流動性が高く、すぐに現金化できる点も重要です。少額から投資可能で、数万円から始められます。管理の手間もほとんどかかりません。分散投資の手段として、ポートフォリオのリスク低減に貢献します。一般的には、ポートフォリオ全体の5から10%程度を金に配分することが推奨されています。富裕層投資家は過去1年間で金への配当を約2倍に増やしており、資産を守る手段として重視しています。
不動産の役割
不動産は守りと攻めの両面を持つ資産です。安定収入源として機能し、賃貸収入は生活の基盤となります。長期的な資産形成に適しており、レバレッジを使った資産拡大も可能です。税制面でのメリットも大きく、相続税評価では時価より低く評価されるため、相続対策としても有効です。ただし、大きな初期資金が必要で、専門知識も求められます。管理の手間も大きいという点は理解しておく必要があります。
経済環境による動きの違い
金と不動産は、経済環境によって異なる動きをします。
好況時
好況時には、金の需要は低下しやすくなります。安全資産としての魅力が減るためです。一方、不動産は価格が上昇し、賃貸需要も増加する傾向があります。
不況時
不況時には、金は安全資産として需要が増加します。しかし、不動産は価格が下落し、空室率が上昇する可能性があります。
インフレ時
インフレ時には、金価格が上昇します。不動産も家賃や価格が上昇しますが、金利上昇がマイナス要因となることがあります。
金利上昇時
金利が上昇すると、金利低下環境では利回りのない資産である金の保有コストが相対的に低下し、魅力が増します。逆に金利上昇時は不利になります。
不動産は、ローン金利上昇で需要が減り、価格下落圧力がかかります。
実際の市場動向(2025年)
2025年現在の市場を見ると、両資産とも高値圏にあります。金は4000ドルの大台を突破し、投資家の関心は非常に高まっています。投資家が金をAIバブルのリスクヘッジとして購入している可能性があり、株式市場が高値で偏っている状況が金需要を高めています。不動産市場については、2025年も価格上昇の傾向が見込まれています。主な理由は、住宅ローンの固定金利上昇が限定的な影響しかもたらさないと予想されるためです。ただし、現在の市場環境では、債券が過去ほど分散効果を提供しなくなっており、金のような代替資産の重要性が高まっています。
どちらを選ぶべきか
結論として、どちらか一方を選ぶのではなく、両方を組み合わせることが理想的です。過去20年の純粋な価格上昇率では金が圧勝しています(13.6倍対2倍程度)。しかし、不動産には賃貸収入という大きなメリットがあります。
投資家の状況に応じて、以下のように使い分けることをおすすめします。金を選ぶべき場合は、危機への備えを重視したい、流動性を確保したい、手間をかけたくない、少額から分散投資したい、グローバルな資産分散を図りたい、といった場合です。不動産を選ぶべき場合は、安定収入が欲しい、レバレッジを活用したい、税制メリットを活用したい、長期保有を前提にできる、地域経済への投資をしたい、といった場合です。
理想的なポートフォリオ
バランスの取れた資産配分の一例を示します。金には5から10%を配分します。これは危機時の保険、ポートフォリオの安定化を目的とします。不動産には20から40%を配分します。安定収入とインフレヘッジ、資産拡大を目的とします。
株式には40から60%を配分します。成長性を追求します。現金と債券には10から20%を配分します。流動性の確保が目的です。もちろん、これは一例であり、個人の年齢、資産状況、リスク許容度によって最適な配分は変わります。
まとめ
過去20年のデータから見えてきたことをまとめます。金は13.6倍という驚異的なリターンを記録しましたが、収入は生みません。不動産は価格上昇は約2倍にとどまりましたが、賃貸収入という安定した収益源があります。金は流動性が高く、少額から投資可能です。不動産はレバレッジ効果と税制メリットがあります。最も重要なのは、どちらか一方ではなく、両方を適切に組み合わせることです。金は短期的な危機への備え、不動産は長期的な資産形成という異なる役割を果たします。投資を始める際は、自分の目的と状況をよく考え、専門家のアドバイスも参考にしながら、バランスの取れたポートフォリオを構築することをおすすめします。
