あまり知られてはいませんが、2018年(平成30年)11月12日、スルガ銀行は同行の取締役(およびその法定相続人)、経営幹部ら12名を相手取り裁判を起こしています。これは個人投資家向け不動産投資で成長してきたスルガ銀行が巻き起こした不正な融資が社会問題化したことを受けて、その責任を問うものです。
この裁判に先立つ2018年9月、スルガ銀行は、自らが引き起こした不正な融資をめぐる問題を社内調査するだけではなく、第三者委員会を組織して調査を行い、その結果を公表しています。(通称スルガ銀行第三者員会報告)338ページにも及び、個人向け不動産投資ローンで成長を続ける中で優良な物件が枯渇。それでも経営陣の大号令で、必達目標とされた営業数字を作るために不正な融資資料改ざんや悪質な不動産業者をチャネルとして営業したこと。アパート・マンション投資向け不動産で行っていた不正をより加速させたのがシェアハウス投資であったことが詳細に解説されています。
スルガ銀行が行っている損害賠償請求訴訟
スルガ銀行株式会社が原告となって、同行の取締役等(被告)に対して提起した損害賠償請求訴訟の訴状の内容は以下のとおりです。
- 原告は、個人向けローンを重視する戦略をとり、シェアハウスローンを含む収益不動産ローンを拡充していたが、被告らが適切な対応を怠ったことにより損害を被った。
- 被告らは、シェアハウスローンのリスクや融資審査の機能不全などを認識しながら、適切な措置を講じず、多数のシェアハウスローンの実行を継続した。
- 原告において、外部通報への対応、「出口から見た気づき」の会議、審査部による物件調査、信用リスク委員会・経営会議における報告などの問題があった。
- 銀行取締役には、融資業務の実施に際して債権保全措置義務があり、他の取締役等の義務違反を監視監督する義務及び内部統制システムを構築する義務がある。
- 被告らには、シェアハウスローンに関する監視監督義務違反及び内部統制システム構築義務違反が認められる。
- 被告らの善管注意義務違反等により、原告はシェアハウスローンに関して多額の損害を被った。
- 原告は、被告らに対し、合計で約35億円の損害賠償を求める。
原告は、被告らの任務懈怠を主張し、シェアハウスローンに関する多額の損害の賠償を求めているものと理解されます。
スルガ銀行が創業家一族である岡野一族や役員を相手取り損害賠償請求を行うというまさに骨肉相食む、異例の裁判です。スルガ銀行としては、第三者員会報告で、自らの弁護士法人、監査法人から既存の経営層の断罪が必要と記載されている報告書を受け取ってしまい、監督官庁である金融庁から業務停止命令を受けた経緯もあり、避けられない裁判だったと言えるでしょう。
そして、注目すべきはこの裁判に共同訴訟参加申出書が提出されている点です。
これは株主であれば、会社が起こした取締役等の責任を追及する裁判に参加することができるという会社法849条1項に定めに則った参加ということになります。
会社と取締役の争いでは、いわゆる身内同士の争いとなるため形だけのなあなあな裁判になってしまう可能性があります。これでは株主にとっては不利益になってしまうため、株主も参加可能なように既に会社法に定められているということです。
感の良い読者ならお気づきかと思いますが、この裁判に共同訴訟として参加しているのはシェアハウスで被害を受けた方々であり、その代理人弁護士であるSS被害弁護団の弁護団がスルガ銀行の役員の面々に尋問を行っているのです。
2024年現在も訴訟は継続しており、何人もの経営幹部が証言に立っています。また同じように同行の社員も証言台に立っています。もちろん業務の一環として証言せざるを得ない行員の発言はスルガ銀行に寄ったものであることは想像に難くありません。自分は知らない、上司の命令でやった。部下が勝手にやったと話さざるを得ないことでしょう。しかしそれでも起こった不正に対する関係者による生生しい発言に注目が集まっています。
さらに前述した通り、シェアハウス被害の代理人弁護団が尋問をするということは、徹底的に責任追及がされることは想像に難くありません。
既に、2023年12月から調停期日が毎月開かれており、驚くような発言が証言台に立ったスルガ銀行の行員から赤裸々に語られていると言います。
投資と詐欺では次週以降、この裁判の様子をお伝えしていきたいと思います。