2018年に始まったスルガ役員訴訟。2024年2月10日には静岡地裁でスルガ銀行の営業を統括する営業企画部に長く在籍したS藤氏が証言台に立ちました。不正融資をけん引した岡野喜之助氏の側近として2015年10月からCOO補佐を務めたS藤氏の発言に注目が集まりました。
S藤氏の発言から見る6つのポイント
- S藤氏はスルガ銀行の営業企画部に長く在籍し、喜之助氏から直接指示を受けて様々な業務を行っていたようです。弁護士からの「営業企画部の具体的な業態を教えてください。」という質問に対し「様々な指示を送りました。商品開発であるとか、会議の内容、喜之助氏の意向を反映した配布物のような社内外への指示、そういったものの策定なども考えないといけない立場でした」(S藤氏)と回答しています。
- スルガ銀行では、喜之助氏1人に大きく依存する業務執行体制となっており、ガバナンスの機能不全を招いていたようです。弁護士から岡野喜之助氏の役割や企業としてのガバナンスに関して関して質問を受けS藤氏は「(岡野喜之助氏は)会社全体を、ほぼ1人でマネージされており、経営の重大な判断からですね、執行レベルの、細かい判断に至るまで、ほぼ1人で、ご判断をされていたという風に認識をしておりまして、ま私も含めて、ま、多くの社員は、なかなか自分で判断することなく、多くのことについて副社長であった喜之助氏にご判断を仰いでおけば大丈夫だと。」
「審査、営業というところにとどまらず、ま、会社全体をですね、もう、(岡野喜之助氏が)見てらっしゃった。おそばにいて、お受けしている限りですね、非常に、大変なお役目、ま、社員の誰よりもですね、お仕事をされていて、えー、会社のことを、考えられていたということで、非常に、あの、ある意味、尊敬を申し上げておりました。ただ、一方で、それが、通常、一般的に、銀行という企業に求められる水準のガバナンスを十分満たしていたかと言うと、そうは言えなかったという風に評さざるを得ない。」と回答しています。 - 融資管理部門が指摘した問題点について、喜之助氏は営業部門に十分にフィードバックせず、営業方針の軌道修正を図ろうとしなかったと言います。「どうしても融資管理から上がってくる情報ですので、うまくいってないことが整理されているということだと思います。当時、その、先ほど申し上げたような営業の最前線でやっていた麻生さんのスタイルに、ま、ややもすると水を指すかもしれないということで、今は、報告する段階にはないっていう風に言わなかったのかもしれない。」(S藤氏)
- 喜之助氏は増収増益を強く意識しており、それはファミリー企業との関係性にも影響を与えていたとS藤氏は考えています。「高額な融資が残っていたというようなこともします。まあの債務者区分であるとか引き当て、そういったところにいい影響があるという風に考えたのではないかなと。」
「(当時は問題ないと思っていたが)今となっては、大変な問題だったという風に思いますし、ま、第三者委員会も含めて、様々に表されたという感です。」 - 「出口から見た気づきの会議」では、シェアハウスローンに関する様々な問題点が指摘されていたが、差し迫った重篤な事態とは受け止められていなかったと言います。「とりわけこれは、という感じでは。すいません。あまり時間がないので、多く取り扱ってなかったと言いますか。なんか強く記憶に残ってるものは、ほとんどありません。」
「現実として報告されたと思うんだけど、その意図までは聞いていません。」
(この「出口からの気づきの会議」に関しては、別途機会を設けて解説したいとおもいますが、簡単にいうと、相次いで不正融資に関する取り組みが起こっている中で、どう収束させるか検討する会議という位置づけのスルガ銀行内部の会議のことを指します。) - S藤氏は当時の状況から、岡崎氏や柳沢氏が喜之助氏の意向を忖度し、積極的に是正行動を取ろうとしなかったのではないかと推測しています。「喜之助さんが取り立てている麻生さんの出すような内容もあったので、そういったことを勘案して、管理するわけでもないかな、必要もないという風に考えしたのではないかなと思うので、、、」
「全体に言えることかもしれません。(喜之助氏の)重用を受けるためにはですね、ま、創業家のま、お側で、何か手柄をあげ続けるということが、必要なわけなんですが、いわゆる余計なことをしてしまって、嫌われてしまうと、今までの培った関係性みたいなものを取り上げられてしまうんじゃないかと。そういう風に思う時もあったんではないかな、という風に思います。」
S藤氏の証言から、スルガ銀行における岡野喜之助氏への依存体質とガバナンスの問題点、不動産融資(投資向けアパマンローン・シェアハウスローン)に関する問題認識の甘さなどが浮き彫りになっています。巨大な中小企業というか一族企業が、創業家COOの暴走で平成とは思えない前時代的な経営体質のまま暴走したと言えそうです。
企業としての責任を果たす姿勢にも注目
スルガ銀行が自身の経営層の責任を明らかにしようとする取り組みは、問題に向かい合う姿勢としては評価されるべきものです。ですが責任の所在を明らかにすることと、企業として被害者に向き合うことは並行して行われるべきものです。これからスルガ銀行がどのように不正融資問題と向き合っていくのか、注目していきたいと思います。