スルガ銀行の不正融資問題に関する役員責任追及訴訟が今も続いている。2024年にも複数の承認が法廷に立つことになる。2024年1月19日には、2005年から首都圏と札幌の拠点でアパートローンの営業を担当していた元行員のW氏が証人として出廷。W氏は、厳しい営業ノルマを背景に、顧客の収入を水増しした書類の改ざんなどの不正な融資が常態化していた実態を証言した。
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ベテラン営業マンが語るスルガ銀行のパワハラ横行
W氏は、2005年から2011年4月までスルガ銀行のドリームプラザ日本橋で勤務し、その後2012年9月まで特別推進チーム(通称:特推)に所属。首都圏を中心に、個人向け不動産融資、特にアパートローンの営業を担当していた。W氏個人の融資目標は月6億円で、1件あたりの融資額が1億円前後だったことから、1ヶ月で5〜6件の案件を担当する必要があったという。
2012年10月からは、ドリームプラザ札幌に異動。引き続きアパートローンの営業を担当する傍ら、月1回開催されるセンター長会議に所属長の代理として出席することもあった。融資案件の審査をパーソナルバンク担当部署に申請する際は、上司を通じて営業担当部長のA生氏への事前相談を行うのが通例だったと述べた。
W氏は、各支店や部署に対し「非常に難しい」ノルマが課されていたと証言。目標の未達が続けば「(上司に)激しい叱責を受ける」などのパワーハラスメントが横行し、同僚の中には「上司から『死ね』と言われた」者もいたという。W氏自身、「数字を上げなければ本当に殺されるのではないかと思っていた」と振り返った。
「数字を作るために書類を改ざん」が常態化
こうした状況の中で、顧客の預金通帳や売買契約書、収入証明書などの偽造・改ざんが常態化していたという。「融資関係書類の多くで改ざんが行われているだろうと思っていた」と語ったW氏は、自らも顧客の収入を水増しするなどの不正を行っていたことを認めた。一方で、「不正を指摘すれば(融資の)チャネルとの繋がりがなくなり、銀行員としての業績が上がらなくなる」として、改ざんに気づいても見て見ぬふりを続けたと打ち明けた。
形骸化するスルガ銀行の審査部門
行内では、審査を通りやすくするため、本来は融資実行時までに確認するルールだった顧客の預金通帳などの原本確認を省略するのが常態化していた。W氏は「(営業成績のために)原本を確認することで時間をかけるわけにはいかなかった」と述べ、審査の形骸化を証言した。
さらに、営業部門と審査部門の癒着の存在をうかがわせる証言もあった。融資書類の偽造・改ざんを把握していたはずの営業担当部長のA生氏について、W氏は「A生さんの意向によって、審査の人事が左右されていた」と述べ、「A生さんに意見する審査担当者は、異動させられるなどの不利益を被った」という。
銀行の融資審査では担保物件の価値を算定する際には積算評価を用いるのが一般的だ。しかしスルガ銀行のアパートローンの審査では、物件の収益性を審査する「収益還元法」が採用されていた。W氏は、同行の融資審査について収益還元法であるにも関わらず「収益性を十分に審査せず、多額の融資を実行していた」と証言。2014年頃からは「担保として回収できない物件への融資が増えてきていた」と明かし、「銀行の体質を変えることは難しいと感じていた」と漏らした。
行員の口から語られるスルガ銀行の現場がまさに修羅場
原告側は、一連の証言を踏まえ、スルガ銀行の経営陣が不正融資の実態を認識しながら違法行為を黙認していたとして、被告の役員らに対する責任追及を強化する方針だ。
スルガ銀行をめぐっては、2018年にシェアハウス関連融資を中心に大規模な不正融資問題が発覚。投資家らに約1900億円の損失を与えたとして、金融庁から一部業務停止命令を受けるなど厳しい行政処分を受けた。同行は2018年、企業ガバナンスに問題があったとして、元会長や元社長ら旧経営陣に対し総額35億円の損害賠償を求める訴えを起こしており、2024年現在も証人喚問が続いている。