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    【株主総会レポート】クレディセゾン、過去最高益の陰で炎上 – スルガ銀行提携を巡り株主が猛反発

    2025年6月25日、東京都内で開催されたクレディセゾン第75回定時株主総会は、開始直後の和やかな雰囲気から一転、激しい糾弾の場となった。営業収益4,228億円(前期比16.9%増)、事業利益936億円(同30.1%増)という絶好調の業績発表も、スルガ銀行との資本業務提携を巡る株主の怒りの前にかすんだ。

    業績絶好調のクレディセゾン – 2030年ビジョンへの自信

    水野克己社長は冒頭、満面の笑みで業績を報告した。全3セグメントが牽引する好調な数字を背景に、野心的な将来構想を語った。

    「中期経営計画では2026年度に1,000億円の事業利益を目指しますが、この後も年100億円を超える成長を目指して成長スピードを加速させていきたいと考えております。私個人としましては、2,000億円規模の事業利益を出せる企業へと変えていきたいと思っております」

    人的資本投資にも言及し、「2025年度につきましては1人当たりトータルで100万円弱の決算賞与を平等に配布することを決定いたしました」と社員重視の姿勢をアピール。インド事業では債権残高4,000億円を目指すなど、グローバル展開への意欲も示した。

    この時点では、まだ誰も2時間後の修羅場を予想していなかった。

    河合弘之弁護士による痛烈な弾劾 – 会場に響いた「起立願います」

    総会開始から約40分後、178番株主として壇上に立った河合弘之弁護士の言葉が会場の空気を一変させた。

    「今日、このスルガ銀行の不正融資問題、特にアパマン不正融資問題の被害者の方たちが株主として多数出席しております。その被害者の方たち、起立願います」

    会場の至る所で株主が静かに立ち上がった。その瞬間、水野社長の表情が硬直した。河合弁護士の声は次第に熱を帯びていく。

    「今立ち上がった人たちは、1人2億円から3億円の返済の見込みのないスルガ銀行に対する債務を抱え、毎日苦しんでおります。自分が自殺すれば団体信用生命保険によって借金が弁済され家族が助かる、そうしようか、いや死んではならない、そういう葛藤に日々悩んでいる、そういう人たちの集まりでございます」

    「私の弁護団に結集している被害者の人たちは438人、その人たちが抱える債務の金額は約1,000億円です。皆さん考えてください。皆さんの社員で、社員が1人返済見込みのない2億円、3億円という債務を抱えて苦しんでいるとしたらどう思いますか」

    そして、最も衝撃的な一言を放った。

    「社会問題を引き起こす勢力、社会に悪を流す勢力は反社会的勢力と呼ばれます。その意味でスルガ銀行は反社会的勢力であります。反社会的勢力と取引して良いのか、資本業務提携して良いのか、それがクレディセゾンに問われている問題なのです」

    この「反社会的勢力」という表現にわずかに水野社長も身じろぎする。水野社長は時間制限を理由に発言の終了を促したが、河合弁護士は最後にこう締めくくった。

    「最後に水野さんに申し上げます。私はフジテレビの株主代表訴訟で日枝さんを訴えました。日枝さんと水野さんは非常に似ています(中略)企業倫理を無視して『面白ければいい』ということだけで、ただひたすら走り続けて会社を大きくしていったからああいうことになったのです」

    スルガ銀行提携に反対する株主の質問の数々

    河合弁護士の弾劾を皮切りに、株主からの厳しい質問が相次いだ。

    55番株主の鋭い指摘

    「行政府と立法府が問題あるって言ってるけど、クレディセゾンだけがスルガ銀行問題ないと。で、提携解消しないとおっしゃってます。どこまでスルガ銀行が落ちたら、業務提携・資本業務提携解消することを検討するのか、ちょっとその御社の基準を教えていただきたいです」

    214番株主の同日開催への疑問

    「御社の高橋副社長がスルガの役員をやられて、なおかつ加藤社長、スルガの加藤社長が御社の取締役に入っているという中で、取締役会にそういった総会の日程っていうのは、お二方は上げていなかったんでしょうか(中略)株主平等権っていうのは会社法にありますと。でそれをあえて奪うような決断をされているわけです」

    193番株主の免許停止懸念

    「業務改善命令を受けて、さらに報告徴求命令を受けてると。でそのスルガ銀行がきちんと対応しない場合は、スルガ銀行の免許を停止される可能性もあるんじゃないかと思います。その場合、スルガ銀行との提携の効果がどうあろうと、どれぐらい儲かろうと、何の意味もなくなってしまうんじゃないでしょうか」

    終始冷静に対応する水野社長だが、株主からの指摘にでたじろぐ場面も

    水野社長と高橋副社長は、株主からの質問は口調こそ静かだが、内容的にはかなり厳しい。この追及に対して数字を根拠に反論を続けた。

    高橋副社長は力強く語った。

    「コラボレーションローンについては約1,000億円の残高を積み上げております。住宅ローンの保証については214億円の保証を積み上げております(中略)当社の企業価値は2023年の3月末は3,100億円強でございました。2025年の3月の末日は6,500億円になっております。2倍以上の、要すれば企業価値が向上しております」

    水野社長も冷静に対応を続けた。

    「我々もスルガ銀行の提携についてはですね、何度も議論を重ねてまいりました。当然、我々が一緒になることによってですね、いろんな諸問題が解決しない、長引くということも予想しておりましたし、ビジネスをやっていく上では、やはりある程度のリスクテイクをしていくというのが非常に重要だという風に我々は考えております」

    しかし、最後の83番株主からの質問で、ついに水野社長の表情に動揺が見えた。

    83番株主は立ち上がり、マイクを手にして問題の本質を突いた。

    「ちょっと知ってらっしゃるのかちょっと確認したいなと思ってるんですけれども、提携されてるスルガ銀行の不正融資問題っていうのは、行員自ら資産資料を改ざんしていることで、行員が少なからずこう主体的に関わってる問題なんですよ。でその融資審査資料を自ら改ざんしたって自白してる方が第三者委員会の報告書で報告されてまして、明記されてるんですよ。でそういったその融資審査資料の改ざんって、一応刑法の159条で私文書偽造っていう風に問われるような、刑事的責任が問われるような問題なんですね。で先ほどからなんか問題がないということをおっしゃるんですけれども、そのようなその刑事的責任が問われるような企業と提携してて、問題ない理由として、その成果が上がってるってことを繰り返し社長おっしゃられるんですが、そういうことを私たち聞いてるんじゃなくて、企業倫理の観点で、まさか問題がないとかっていうことはないと思うんですが、なんでその問題がないんですか。その成果が上がってるからとかそういうことではなくて、企業倫理の観点で、その刑事的責任が問われかねないようなスルガ銀行と提携を継続することに問題がないと言ってる、その理由を教えてください、と聞いてます」

    水野社長は滑らかに回答する。

    「こちらにつきましては私の方よりご回答を申し上げます。先ほど副社長の高橋も申し上げた通り、問題がないとは我々は言っておりません。当然、以前のスルガ銀行の対応についてはやはり色々な問題があったんであろうという風に我々は認識をしております。その中で、現在のスルガ銀行さんと我々は提携していく中で、非常に逆に硬いやり方をされてるなという印象を持っております。その中で、コンプライアンスですとか企業倫理に関しても、先ほど言いました通り、かなり変わってきてるんではないかなという風に私個人的にも思っております。そういった企業と組む点に関してはどうなんだということでございますけども、我々としては今後も提携を続けていく所存でございます。以上、お答え申し上げました。」

    以前のスルガ銀行と今のスルガ銀行は別、という姿勢を説明した。

    緊急動議で暴露された「不正利益の共有」

    質疑が終了し採決に移ろうとした時、132番の株主から臨時株主総会開催の動議が提出された。この動議の中で、最も衝撃的な指摘が飛び出した。

    「国会議員の中にはスルガ銀行がこれまで不正融資先から獲得した利益が793億円にも上ると・しかもそれはほんの一部であって、最低でもそれぐらいの利益だと。本日クレディセゾンですね、報告事項、事業の報告事項の中にもですね、スルガ銀行の利益から持分法でピックアップした利益があると高橋副社長におっしゃいましたけども、その中には不正融資先から得ている利益も含まれているということなんです」

    クレディセゾンが単にスルガ銀行と提携しているだけでなく、実際に不正融資から生まれた利益の一部を自社の収益として計上している可能性が示唆されたこの指摘に、水野社長も動揺の色を隠しきれなかったのか、表情がかわった。

    「こういったようなですね、全く議論が尽くされていない。さらに言えば、冒頭に河合弁護士が言っていたように、本日の株主総会への報告内容にコンプライアンスだとか、そういったことが全く含まれていない。それについても議長からも何にも触れられていない。本当に問題だと思います。そこで私からは臨時株主総会の開催を提示したいと思います。それについての動議になります」

    この動議は拍手とともに迎えられた。記者が会場の様子を観察していると、賛成の拍手と反対の拍手の音量はほぼ同程度に聞こえた。

    しかし、水野議長は明らかに取り乱したのか、まだ採決もとらない中で否決という言葉を口に出しかけた後に、反対を表明した。

    「ただ今、株主様より臨時株主総会開催の動議が提出されました。私としましては、ただ今の動議については反対でございます。このことにご賛同いただける株主様は拍手をお願いをいたします」

    反対への賛同を求める際の水野議長の声は、これまでの落ち着いたトーンから一変し、やや上ずっていた。結果的に動議は否決されたが、その判定プロセスの曖昧さに疑問を抱く株主も少なくなかったことだろう。そもそも株主総会での決議は拍手の音量で評価される。きちんと数を数えたり持ち株数に応じた計算を行うたぐいのものではない。緊急動議で臨時株主総会を提唱した株主もそれをわかっているだろう。だが132番株主が暴露した「不正利益の共有」という構造的問題は、単なる提携先選択の問題を超えた深刻な経営課題として会場に重くのしかかった。

    編集部の見解:ESG時代の経営課題が浮き彫りに

    今回の株主総会は、現代企業が直面するESG(環境・社会・ガバナンス)経営の難しさを如実に示した。数字上は申し分ない業績を上げているクレディセゾンだが、提携先選択の倫理性について厳しい目が向けられている。

    特に印象的だったのは、河合弁護士が指摘した「企業倫理の問題」と経営陣が強調する「企業価値向上」の対立構造だ。緊急動議を提唱した株主が指摘したように、スルガ銀行の株主としてクレディセゾンはスルガ銀行が上げた利益の分配を受けている。現在のスルガ銀行と過去のスルガ銀行がことなる体制であると主張しても、過去のスルガ銀行の不正な融資で積みあがった利益をクレディセゾンは受け取っているのだ。

    スルガ銀行との提携により実際に1,000億円規模のコラボレーションローンを積み上げるなど、クレディセゾンの経営層は着実に成長に向けて取り組みを行っている。好業績の裏側にあるリスク要因に背を向けた経営姿勢ととらえられるのはクレディセゾンにとって大きなマイナスだろう。

    今後の注目点

    1. スルガ銀行の業務改善命令解除時期 – 6年半続く金融庁の業務改善命令がいつ解除されるか
    2. 国会での追及継続 – 既に18回の質疑が行われており、今後も政治的圧力は続くと予想
    3. 株主による継続的な追及 – 今回否決された提携解消議案が再び提出される可能性
    4. ESG投資家の動向 – 機関投資家によるガバナンス評価への影響

    クレディセゾンにとって、数字で示せる成果と社会的責任のバランスを取ることが、今後の最重要課題となることは間違いない。次回の株主総会では、より建設的な議論が期待される。

    投資と詐欺編集部
    投資と詐欺編集部
    「投資と詐欺」編集部です。かつては一部の富裕層や専門家だけが行う特別な活動だった投資ですが、今では一般の消費者にも未来の自分の生活を守るためにチャレンジしなくてはいけない必須科目になりました。「投資は自己責任」とよく言われるのですが、人を騙す詐欺事件は後を絶ちません。消費者が身を守りながら将来の生活に備えるための情報発信を行なっていきます。

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