詐欺師を騙す詐欺師。『クロサギ』。TBS系「金曜ドラマ」枠で放送された。ドラマで描かれた様々な詐欺を題材にその手口を学んでみたい。第4 回は、『M&A詐欺』である。
※一部ネタバレになりますので、ご注意ください。
目次
詐欺師とは
クロサギの部屋は、各種専門書で溢れている。詐欺師は、勉強家かつ努力家なのだ。ここで、詐欺師とは何かを考えるために、『人生の方程式』を示す。JALを再生させた故稲盛和夫氏が、提唱していた方程式である。
『人生の方程式』:人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力
仕事の結果は、考え方と熱意と能力の掛け算で決まるというものだ。これを詐欺師に当てはめてみよう。熱意と能力は間違えなく人並以上である。ただ、考え方が『マイナス』なのである。社会を害しても構わないという、考え方にこそ、詐欺師の本質がある。ドラマに登場するシロサギの多くは裕福である。決して、お金に困ってはいない。では、なぜ詐欺を続けるのか?多分、ゲーム感覚なのではないか?詐欺の面白さにハマっているのだ。クロサギの宿敵、ミキモトは、熱意と能力がハイレベルに達したシロサギだ。人間、能力が高まれば高まる程、それに見合った大きな仕事がしたくなる。これは、シロサギとて同じだ。ハイレベルなシロサギは、個人ではなく、企業をターゲットとする。企業は、専門家の集団だ。経営のプロ、法律のプロ、財務のプロといった優れた人材が組織を形成している。それゆえ、企業を騙す詐欺は、素人である個人を騙す詐欺に比べて、各段に難易度があがる。その分、儲けも大きい。シロサギにとって、企業は、スリル満点のハイリスクハイリターンな獲物なのだ。ミキモトは、このスリルに溺れ、自分を見失い、フィクサーの忠告を無視した挙句に、クロサギを放たれた。では、具体的に見ていこう。
ヘッドハンティング詐欺とは
ミキモトは、ターゲット企業に対し、まずはヘッドハンティング詐欺でジャブを打つ。優秀な人材を引き抜くためではない。追い出すためだ。実行するのは手下のシロサギだ。手口はこうだ。まず、ターゲット企業にいる特に優秀な人材をターゲットにヘッドハンティングを仕掛ける。その際、トラブルの担保として、保証金の納付させる。無事、移籍が成功すれば、返金するという約束で。そして、情報は洩れ、トラブルが起きる。もちろん、シロサギの仕業だ。そのくせ、ターゲットを責め、保証金を没収する。ヘッドハンティングに乗ったターゲットは、会社にも居づらく、やがて退社する。ミキモトの狙い通りだ。これから行うM&A詐欺の実行に、正しい判断ができる優秀な人材は、じゃまなのだ。
M&A詐欺とは
M&Aは、企業の合併や買収のことで、もちろん、通常のビジネスの一環である。例え、敵対的な買収であっても、決して詐欺ではない。企業に価値を認め、市場より高い価格を提示して、大株主になれば、それが敵対的であったとしても、適法なのだ。
一般に、M&Aは、巨額な資金が必要だ。かつ、会社同士の駆け引きも絡む。こうした、M&Aの性質は詐欺と非常に相性がよい。事実、架空の企業を売却したり、コンサルティング料ををだまし取ったりと、様々なM&A詐欺が存在する。 では、ミキモトの手口を確認しよう。まず、業績不振の中小企業の情報を集める。こうした中小企業は、生き残りに必死だ。特に、つけ入りやすい企業をターゲットに選定する。そこへ、融資話を持ちかけるのだ。ただし、条件をつける。優良企業との合併だ。渋るターゲットには、本来の企業力を活かすために、まずは体力を付けることが大事と諭す。さらに、条件を受け入れるなら、現在抱えている負債を全額融資すると、アメをちらつかせる。もちろん、合併の候補となる企業は、全てミキモトの会社だ。合併によって、事実上の乗っ取りを図るのだ。ミキモトは、こうした仕込みを複数のターゲットに行っている。これには、大金が必要だ。高い利子で、危険な連中から借りるのだ。では、いかにして、回収するのであろうか?答えは、乗っ取ったターゲット企業の売却である。当然ながら、そのまま売っても、利益は出ない。そこで、財務諸表を改ざんし、企業価値を大幅に水増しして売るのだ。これが、ミキモトのM&A詐欺による錬金術である。
クロサギの手口
クロサギは、ミキモトを喰うために、自分が作った架空の企業を、ターゲット企業に合併させた。資産が増えたターゲット企業は、ミキモトにとって、より魅力的な獲物になる。乗っ取れば、より大きく稼げるからだ。ミキモトは、この餌に喰いつき、ターゲット企業に大金を投じて、買収した。この瞬間、ミキモトの投じた大金が、クロサギに入った。実は、クロサギが、ターゲット企業の大株主になっていたのだ。そうとは知らずに、ミキモトは取締役会で、現取締役の解任と、自らの新社長就任を動議し、承認を得る。ターゲット企業の乗っ取りに成功したのだ。ご満悦の表情で社長室の扉を開けると、待っていたのはクロサギだ。クロサギは、新社長ミキモトに、親会社の取締役を紹介する。なんと、クロサギは、ターゲット企業の親会社を新設し、そこに全資産と社員を移していたのだ。ミキモトが大金を投じて買収したのは、資産も社員もない、ペーパーカンパニーだったのだ。さらに、クロサギの追撃が続く。ミキモトが、M&A詐欺を仕掛けていた全企業に対し、企業合併の内情を暴露していた。もう、誰も、ミキモトには騙されない。ミキモトに、残ったのは、莫大な借金だけだ。
行き場を失ったミキモトは、上海に飛び、自ら命を絶つ。
『お前の仇は、俺で終わりじゃない。』そうクロサギに言い残して。