詐欺師を騙す詐欺師。『クロサギ』。TBS系「金曜ドラマ」枠で放送された。ドラマで描かれた様々な詐欺を題材にその手口を学んでみたい。第7回は、『貧困ビジネス』である。
※いつもと同じ、ネタバレ注意です。
目次
貧困ビジネスとは
資本主義社会では、貧富の差が生じる。これは、止む無いことである。この貧富の差を是正するセーフティネットが、生活保護制度である。生活保護が必要と認定されれば、国民の血税を原資とする生活保護費が支給される。この生活保護費を不法に搾取するのが、貧困ビジネスである。貧困ビジネスは、社会問題であると同時に、限りなく詐欺に近い。
一般に、生活保護を受けると、家を所有出来ないなど制約がある。だが、決して、貧困にあえぐような生活を強いられるわけではない。確かに、生活保護費自体は、月に10万円+アルファ程度である。しかし、住民税を始め、国保保険料などの幅広い減免を受ける。贅沢はできないが、人間らしい生活は送れるはずなのだ。
しかし、生活保護を受けても、貧困にあえぐ人達がいる。貧困ビジネスに搾取された人々だ。貧困ビジネスは、生活保護受給者に、劣悪な住環境と最低限の食事を提供する。その対価として、生活保護費をまるごと搾取する。つまり、生かさぬように、殺さぬように、囲い込み、私腹を肥やすのである。だが、困窮者を支援する慈善団体のようにも見えるため、なかなか摘発されない。もちろん、非常に悪質な場合、裁判で賠償命令が出された事例もある。しかし、それはまだまだ、一部に過ぎない。多くの貧困ビジネスは、必要悪として、社会の底辺で、はびこっている。今回のシロサギは、大病院の医院長である。病院が貧困ビジネスに手を染めるとどうなるか。見ていこう。
シロサギの手口
このシロサギは、元々、ホウジョウの部下として大銀行で働いていた。ホウジョウは、大銀行の幹部だ。かつ、シロサギ界の大物でもある。ホウジョウは、自分の裏金作りのため、シロサギを大病院に送り込んだ。シロサギの錬金術は、病院版の貧困ビジネスだ。その手口はこうだ。まず、生活に困っている、貧困者やホームレスを大勢集める。彼らに、生活保護を受けさせ、病院に入院させる。一見、貧困者の味方だ。だが、シロサギは、彼らに、10個ほどの病名を付け、点数の水増しを図る。診療報酬は、点数に応じて払われるため、病院は大儲けだ。シロサギは、こうして作った裏金を、ホウジョウに納めているのだ。他にも、経営改革の推進として、多数の医師、看護師、事務員などをリストラした。シロサギはこうして、赤字病院をわずか2年で黒字化し、病院内の権力を一手に握る。
クロサギの手口
今回のクロサギの目的は、シロサギの失脚である。あわよくば、ホウジョウへの裏金の証拠の入手を狙う。だが、シロサギのガードは固い。仮にも、大病院の医院長である。簡単には尻尾を出さない。この難敵に対し、クロサギは、入念な事前調査で、二つの隙を見つけ出す。
一つ目は、リストラされた事務員である。クロサギは、記者に扮し、貧困ビジネスの裏をとった。二つめは、シロサギの若妻、レイカである。レイカの目当てはカネだ。そのために、好きでも無いバツ2のシロサギと結婚した。だが、結婚以来、放置され、毎日、ホスト遊びに興じている。そこを、クロサギがつけ入る。ホスト風のファッションを身にまとい、スポーツカーで登場だ。そのくせ、医療機器を扱う会社の社長である。クロサギは、お寿司デートで、レイカの弱点を突く。儲け話だ。すぐに、乗っかるレイカ。クロサギは、レイカの紹介で、シロサギとの対面を果たした。ここで、クロサギは、開口一番、大砲をぶっ放す。『医療機器を導入しませんか?もちろん、キックバックをお付けしますよ。』、『何を言い出すかと思えば、お引き取り願いますか。』これには、シロサギもあきれ気味だ。クロサギは、粘ることなく、すっと席を立つ。しかし、これが罠である。残ったレイカが、夫婦喧嘩を吹っ掛ける。『毎日、毎日、仕事、仕事って、ほっておかれて。これなら、ホステスと客のままのほうが良かった。』と泣き落としだ。困ったシロサギは、『わかった、わかった。あいつに仕事くれてやればいいんだろぉ。』と言い残し、部屋を後にした。医院長室に1人残ったレイカは、『言われた通りにやったら、チョロかったわ。』と奇襲成功を告げる。『おつかれさま』クロサギは、レイカに4000万円を与えた。
レイカが作った商談チャンスで、クロサギは勝負を賭ける。シロサギ個人への9億5千万円キックバックだ。巨利の誘惑に、遂にシロサギが落ちた。契約成立である。
機器導入の日、届いたのは段ボール製のCTだ。怒るシロサギを、クロサギが煽る。『警察に連絡したら。』シロサギが答える。『こちらは、多額のキックバックを貰っている。出来るか。10億はくれてやる。帰れ。』クロサギが更に焚きつける。『他に、警察呼べない理由があるんじゃないの?』そして、スマホを手にする。元事務員が、シロサギの貧困ビジネスの実態を赤裸々に語る動画が流れる。シロサギの顔色が変わる。『ホウジョウへの裏金の証拠をくれたら、許してあげるよ。』最後の取引だ。一瞬、乗っかろうとするシロサギ。だが、その直後、ホウジョウの顔が脳裏をよぎる。『俺が、全部、一人でやった。』シロサギは、苦虫をかみつぶした表情で答えた。
悪事が世間にリークされ、シロサギは沈んだ。