シェアハウス「かぼちゃの馬車」を巡る不正な融資が社会問題化したスルガ銀行ですが、不正融資はシェアハウスだけにとどまらず、アパートやマンション物件にも広がっています。
不動産ADRなどを通じて協議には応じたものの、1兆円とも言われる投資用不動産貸付の大半を占めるアパートやマンションへの影響を回避したいスルガ銀行と、破綻している物件収支の改善はスルガ銀行や公的機関からの救済しか手立てのない被害者団体の対立は深刻化しています。
目次
スルガ銀行不正融資の被害者の訴え。法的措置にも言及。
そんな中、2022年2月4日、SI被害弁護団が記者会見を行い法的措置について言及しました。
・申立人388人により東京地方裁判所に調停申立を実施。
申立人388人の被害総額は合計で972億円2,927万円、719棟にのぼる。
・スルガ銀行との不正融資の実態の説明、ならびにスルガ銀行との交渉状況の報告。
・スルガ銀行からの物件差し押さえについて被害者からの訴え。
会見を通じてSI被害弁護団は多くの証拠を記者団に提示しながらも、被害者救済のためにスルガ銀行との対話を通じた解決を模索する姿勢を示していました。
スルガ銀行の行員も関与する不正の証拠が次々明らかに
SI被害弁護団長の山口弘弁護士は、投資用のアパート・マンション(以下、アパ・マン)に関してシェアハウスと全く同じ構図での不正が行われていたと主張しています。その構図とはスルガ銀行と不動産業者が結託して入居者の数や賃料を偽った詐欺的投資物件に融資を付けて被害者に売り込んだ、というものです。
被害者の主張を裏付ける証拠はあるのでしょうか。SI弁護団によるとスルガ銀行の行員の関与が疑われる証拠は複数存在するとのことで、会見ではその一部が報告されました。
左図のスルガ銀行開示の賃貸明細表では空室は2部屋、家賃も月65万円でした。一方で被害者が不動産業者から説明を受けていたのは8部屋の空室、家賃も月37万円と実に1.7倍も乖離があったのです。被害者による資料開示請求をおこなって初めてこの事実が明らかになったと言います。「カーテンスキーム」と呼ばれる空室偽装を聞いたことがありましたが、当時のスルガ銀行の好調の裏側にはこのような不正融資が横行していたということが言えると思います。
被害者56名が新たにSI被害弁護団に合流、一棟物件がぞくぞくと競売に
スルガ銀行と個別交渉を行なっていた被害者56名(SI被害弁護団とは別の弁護士に個別に委任)が行なっていた裁判外紛争解決手続き(ADR)は2021年10月22日に打ち切りとなったそうです。その後、SI被害弁護団の受任が完了するまでの間隙を縫って、スルガ銀行は当該56名の物件の差し押さえ、競売手続きを執行してしまいました。
今回のSI被害弁護団の申立のうちの1つは、スルガ銀行に対して当該物件に対する競売等の手続きを停止するように東京地裁に求めたものとなります。
今回の記者会見ではこの56名の被害者の一人が苦しい胸の内を告白しました。
この被害者の方は神奈川県在住の勤務医の方で、昨今コロナ対応に追われて夜勤もあるそうです。そのような中、競売により物件がなくなってしまうと購入当時に不動産業者により組まされたリノベーション用の信販ローンの返済もできなくなってしまうこと、競売の手続きで入居者に迷惑を掛けてしまっていることなどを訴えました。また、物件を紹介された時に、不動産業者からはスルガ銀行で融資が決まっている物件と紹介を受けて信用してしまったそうです。
それを聞いて筆者はとても違和感を感じました。というのも通常の収益物件の融資というのは、融資を受ける方(物件を買いたい方)が個人属性資料と物件資料を事業計画書という形で銀行に持ち込み、融資審査を経て融資が決まります。「人+物件=事業計画」として銀行は評価しているはずですが、物件だけでスルガ銀行の融資が決まっていると不動産業者が言い切っているということは銀行の融資審査内容が不動産業者に漏れている、または不動産業者とスルガ銀行が緊密に連携しているということが考えられます。
不動産業者はどの程度の偽造を行えば融資審査が通るのか分かりますので、不動産業者との蜜月関係が不正融資を大量に発生させた原因のひとつと言えるのかもしれません。
また、この被害者の方はスルガ銀行の融資審査資料を開示請求したところ、貯金残高100万円が7100万円と大幅に改ざんされていたそうです。「そんなにあったら、こんなことしなかったのに、大変悔しい。決して警戒をしていなかったわけではなく、私なりに勉強もしていたが社会の公器たる銀行がまさか騙しにくるとは思わなかった。」と悔しさを滲ませていました。
対話を打ち切り債権回収を強行するスルガ銀行。自宅を競売にかけられた被害者も
弁護団の説明によるとスルガ銀行はアパ・マン以外の自宅ローンに関してもアパ・マンと一緒に競売にかけられている事例があるとしています。自宅に関しては延滞を解消して約定通りの弁済をするので、競売を取り下げて欲しいとお願いしているものの、スルガ銀行からは「期限の利益を喪失したものについては一括して返済してもらえない限り対応できない」との回答だったそうです。アパ・マンも含めて3億円以上を一括返済できないため現実的ではありません。スルガ銀行が債権回収に対して強行な姿勢を見せていることがわかります。
被害者の困窮状況は緊迫、競売の恐怖が被害者に自殺を強いる可能性も
SI被害弁護団の河合弘之弁護士によると、アパ・マン融資の際に加入する団体信用生命保険(以下、団信)が今回の被害者たちに自殺を誘因している、と訴えました。通常、団信は債務者が事故や病気等で亡くなった際に、保険により債務がなくなるという正に保険としての機能を果たすのですが、被害者は自分が自殺すれば債務がなくなり、残った収益物件で家族を養っていけるだろう、競売で物件がなくなる前に自殺をするしかない、と被害者を追い込むというのです。
また、山口広弁護士からは、スルガ銀行のアパ・マン不正融資の問題に関しては把握している限り、既に2名の自殺者が出てしまっているとのことです。この問題の深刻さを改めて認識させられました。
同日の財務金融委員会でスルガ銀行不正融資問題が議題に
この記者会見が行われた同日2022年2月4日に財務金融委員会にてこのスルガ銀行不正融資に関する問題が立憲民主党の末松義規議員により質疑されており、鈴木俊一財務大臣からは「シェアハウス以外の投資用不動産に関連した融資(アパ・マン含む)についても多くの債務者にとって可能な限りスルガ銀行に対して多くの債務者に対し早期に問題が解決できるよう、引き続きスルガ銀行に対し、適切な対応を求めてまいります。」と答弁がありました。
なお、この質疑にもある通り、2021年4月16日に立憲民主党の日吉雄太議員もアパ・マン問題に関して、金融庁に質問がされていた経緯があります。その時は栗田監督局長からは「シェアハウス以外の投資用不動産融資も含めまして、スルガ銀行におきましては、当然のことながら、可能な限り個々の債務者の理解と納得を得て解決することを目指していただく必要がありまして、その対応については金融庁としてしっかりとモニタリングしてまいりたいというふうに考えております。」と回答されておりました。
今回も同様な質疑がされており、未だにスルガ銀行のアパ・マン問題が解決されていないことから金融庁はこの問題に対しておよび腰なのかもしれません。
過去の金融庁長官 森信親氏がスルガ銀行の飛び抜けた営業利益を見て地銀の優等生と称し、他の地銀も見習うように発言していましたが、それがスルガ銀行の不正融資を助長した可能性は否めません。今後、被害者の中からさらなる自殺者が出ないようにするためにも、金融庁の早急な対応が求められます。
2021年4月16日の財務金融委員会の1:32:45より立憲民主党の日吉雄太議員によるスルガ銀行の不正融資に関する質疑が確認できます。
嘘の条件を信じた被害者は投資を失敗したのではなく詐欺被害にあったのではないか。スルガ銀行のアパ・マン不正融資に関して、金融庁はどのような対応をとっていくのか、今後の展開に目が離せません。投資と詐欺 編集部では今後も取材を継続しスルガ銀行不正融資事件を追っていきたいと思います。