スルガ銀行をめぐる不正融資問題で、同行の株主代表が役員の責任を問う訴訟が進行中です。この裁判で、2024年4月12日に元経営管理部長のA氏が証人として証言台に立ちました。原告側弁護士による鋭い追及に、A氏は「組織ぐるみ」ともいえる不正の構図に関して重い口を開き語りました。
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シェアハウスローンのリスク構造を問う
追及の的となったのは、シェアハウスローンに内在するリスクへの認識の甘さです。
「シェアハウスは入居状況の確認が難しいという特性から、賃料相場などのマーケット情報が極めて乏しい。それにも関わらず、スルガ銀行はなぜリスクを十分に考慮せず、融資を拡大したのか」弁護士のこの質問に、A氏は次のように答えています。
「シェアハウスローンというのは、審査の方法がアパートローンとは異なるというふうに認識をしておりました。ただ、シェアハウスローンにどのようなリスクがあるのかということについては、正直申し上げて十分な認識がなかったというふうに考えております」「当時の私を含めた経営陣は、シェアハウスローンのリスクの特殊性について十分な認識を持っていなかったというのは事実でございます」(A氏)
さらに弁護士は、サブリース業者の存在がリスクに拍車をかけている点を指摘します。「シェアハウスは、サブリース業者に一括して賃貸され、その業者が入居者から賃料を取りまとめてオーナーに支払うスキームだ。つまり、サブリース業者の信用リスクが、オーナーの返済リスクに直結する。この構造的問題について、スルガ銀行はどう認識していたのか」
この質問に答えてA氏は「ご指摘の通り、サブリース業者とオーナーの返済リスクが連鎖する問題については、融資実行当初、十分な認識がありませんでした。社内では、『シェアハウスはサブリース付きだから安定している』という楽観的な見方が広がっていたのです」とリスクに対して認識が甘かったことを認めています。
銀行内部の牽制機能の欠如を追及
しかし銀行と言えば、審査部門が厳しく融資審査を検討する仕組みを持っているはずです。弁護士はさらに、スルガ銀行内部の牽制機能が機能不全に陥っていた点を問題視していたようで「融資の実行を急ぐ営業に対し、審査はノーと言えなかったのか?」とストレートに訪ねています。
A氏は「当時の銀行の中では、残高を伸ばすことがかなり強いプレッシャーになっていたという状況でございます。したがって、少し無理をしてでも残高を伸ばそうとするような状況が行内の中であったのは事実でございます」「営業からは、審査の厳格化は『現場の足を引っ張る』と反発がありました。
審査が疑問を呈する前に、次々と融資が実行される状況が常態化していた様子がうかがえます。
「シェアハウスローンにつきましては外観から入居状況が判断できないということで、審査をする際の物件調査におきましても、現地に赴きましても、その入居状況を把握するのが非常に難しい」(A氏)という事情もあり、審査が徹底されず、骨抜きにされていったようです。
それだけではありません。弁護士は、会長の指示を無視してまで特定の業者に融資を続けた経緯を問い質しています。「会長が取引を禁じた業者の別動隊に、なぜ平然と融資できたのか」
これに対し「元々、会長からはスマートライフへの取り扱いを一切取りやめるよう指示があったと聞いています。しかし、シェアハウスローンにサブリースが介在することで、個人のリスクが業者のリスクに転換されてしまう構造的な問題があります。そこに、スマートライフの取り扱いをやめるべきだという判断が重なったのだと認識しています」とA氏は回答した。
A氏の証言からは、シェアハウスローン特有のリスク構造についての問題意識もスルガ銀行の経営層は認識していたにも関わらず、経営層の指示を営業現場が軽視していた可能性が垣間見えます。つまり内部でのガバナンスが形骸化していたのです。
経営判断の誤りとガバナンス不在
こうした事態を許した背景には、経営レベルの認識の甘さとガバナンスの欠如があったように見受けられます。スルガ銀行のM専務は、「サクトがアレンジャーだと認識して融資しているのであれば、ストラクチャードファイナンスであり、個々の案件ではなく全体として捉えるべきだ」と発言。また、スルガ銀行のS専務は、「現状をきちんと把握するため、エンジニアリングレポートの再調査を行い、物件評価を確定させる」と述べていたようです。
こうした発言から、経営陣にもシェアハウスローンのリスクに対する危機感がなかったわけではありません。しかし営業方針が覆ることはありませんでした。
スルガ銀行の経営層は誰もがリスクを過小評価していた
弁護士は、リスクへの認識があったにもかかわらず、融資を継続したことにも言及しました。「第4回のサクト会議で、シェアハウスのリスクが明らかになったはずだ。なぜそれでも融資は止まらなかったのか」
A氏は、「当時の会議では、その融資方針を見直すということについての具体的な議論までは至らなかったというふうに理解をしております。その方針を見直すということになれば、当然、既存の債務者に対する影響でありますとか、あとは営業上の影響、こういったことも踏まえなきゃいけないという意見もございまして、すぐに結論を出すことができる状況ではなかったというふうに理解をしております」
ということでスルガ銀行の行内で意見統一ができなかった実態を証言しています。
金融機関としての公共的使命を忘れ、「規律」を欠いた経営。スルガ銀行の「病巣」は、そこにあったのかもしれない。 法廷での鋭い問答は、再生に向けて、この「病因」への手術メスを入れる必要を示唆しているようだった。