近年、M&Aを悪用した詐欺事件が多発し、社会問題となっています。中でも、2021年頃から暗躍していた「ルシアンホールディングス」による事件は、その被害件数の多さと被害の深刻さから、大きな注目を集めました。本記事では、ルシアンホールディングス事件の詳細を分析し、M&A詐欺の実態に迫ります。
目次
1. ルシアンホールディングス事件の概要
ルシアンホールディングスは、2021年11月11日に設立された投資会社です。本社所在地は東京都千代田区丸の内となっていますが、実際にはバーチャルオフィスを利用しており、現在は茨城県土浦市にオフィスがあります。代表取締役は廣田彰人氏、その他に佐々木辰尚氏、山内五郎氏、荒木正喜氏、嘉多山尚氏などの役員が名を連ねていました。
同社は、設立当初から積極的にM&Aを展開し、短期間で全国30社以上の中小企業を買収しました。ターゲットとなったのは、業績不振や後継者不足に悩む中小・零細企業が多く、結婚式場、飲食店、建設会社、IT企業など、業種は多岐にわたり30件以上にも及ぶと言います。
ルシアンホールディングスは、M&Aで買収した企業の資金を抜き取り、次々にM&Aを行うことで資金が豊富であるように見せかけていましたが、実態はきちんと経営を行わず、契約で約束していた代表者債務の書き換えなども行わないという不正行為が行われていました。
その結果、買収された企業の多くは、資金繰りが悪化し、正常な運営が行われないばかりか、支払いが滞り、家賃、給与、外注費、水道光熱費といったありとあらゆる支払いが未払いに陥り、倒産に追い込まれたケースも少なくありません。約束していた従業員の雇用継続も、自主退職が相次ぎ、取引先との関係は破綻、金融機関からは連帯債務の支払いを求められるなど、売却した旧経営者の目論見は大きく外れる結果となりました。
事件の発覚は2024年5月頃で、被害企業の経営者らが「被害者の会」を結成し、警察に告発したことがきっかけです。
2. ルシアンホールディングスのM&A詐欺の手口
ルシアンホールディングスは、巧妙な手口で中小企業を騙し、M&Aを成立させていました。
具体的な手口は以下の通りです。
- ターゲット企業への接触: 後継者不足や業績不振に悩む中小企業に、M&A仲介業者やコンサルタントを通じて接触します。
- 虚偽の情報提供: 自社の経営状況や事業計画について、虚偽の情報や誇大な表現を用いて、ターゲット企業の経営者を誘導します。年商100億円など過大な数字を伝えていたと言います。
- 不当に低い価格での買収: 企業価値を不当に低く評価し、格安で買収します。デューデリジェンスも形式的に行うか、全く行わないケースもありました。
- 買収後の資産の抜き取り: 買収後すぐにターゲット企業の資産(不動産、現金、有価証券など)の売却・現金化を進めます。
- 資金の流用: ターゲット企業の資金を、ルシアンホールディングスや関連会社に不正に送金します。
- 従業員の解雇: 人件費削減を理由に、従業員を大量に解雇します。
- 取引先の切り捨て: 既存の取引先との取引を一方的に打ち切り、新たな取引先を開拓します。
- 経営陣の逃亡: 資金を搾取し尽くした後、経営陣は逃亡し、連絡が取れなくなります。
- 責任の放棄: 被害企業の債務や従業員の雇用など、一切の責任を放棄します。
ルシアンホールディングスの手口は、非常に悪質で計画的です。事業承継を役所に相談して、M&A仲介会社を紹介されたということもあって、被害にあった企業経営者は、M&Aに関する知識が乏しいこともあり、ルシアンホールディングスの甘い言葉に騙されてしまうケースが後を絶ちませんでした。
3. 被害企業の状況
ルシアンホールディングスのM&A詐欺によって、多くの企業が深刻な被害を受けました。
具体的な被害事例としては、
- 福島県白河市の結婚式場「鹿島ガーデンヴィラ」を運営するピーアンドケーカンパニーは、2021年10月にルシアンホールディングスに買収されました。買収後、同社は資金繰りが悪化し、2023年秋に閉鎖に追い込まれました。従業員は約30人が解雇されました。
- 栃木県宇都宮市の建設会社「〇〇建設」は、2022年3月にルシアンホールディングスに買収されました。買収後、同社は資金を搾取され、2024年1月に倒産しました。負債総額は約10億円に上ります。
- 東京都内のIT企業「△△システム」は、2022年6月にルシアンホールディングスに買収されました。買収後、同社は主要な取引先を失い、2024年3月に事業を停止しました。従業員は約50人が解雇されました。
これらの事例以外にも、多くの企業が、ルシアンホールディングスのM&A詐欺によって、経済的な損失、信用失墜、従業員への影響など、深刻な被害を受けています。
被害企業の共通点としては、
- 後継者不足や業績不振に悩んでいた
- M&Aに関する知識が乏しかった
- 売却後株式を譲渡したが、旧経営陣の連帯債務保証の変更がすぐ行えなかった
などが挙げられます。
まさにルシアンホールディングスによって巻き起こされたように、M&A詐欺は、被害企業にとって、従業員の雇用もまもれず、長年かけて築き上げた取引先との信頼関係をこわし、連帯債務だけが残るという最悪の悪影響を及ぼす大きなリスクをはらんでいます。
4. M&A詐欺から身を守るためには
M&A詐欺から身を守るためには、以下の点に注意する必要があります。
- 契約内容の精査
- 契約書の内容を、専門家に確認してもらう。
- 不利な条件は、断固として拒否する。
- 契約不履行時に、解約できるようにする。
- M&A後のリスク管理
- M&A後も、会社の経営状況を注意深く監視する。
- 問題が発生した場合は、速やかに対応する。
M&Aは、企業にとって重要な決断です。詐欺師は知識や経験が多く、売り手をだまそうとしてきます。素人は見抜くことは困難です。M&A詐欺の被害に遭わないよう専門家の支援を受ける、またはどうしても外せないポイントをしっかり確認していくことが必要です。
M&Aは、企業の成長や事業承継のために有効な手段ですが、詐欺師も暗躍していると覚悟して臨むべき取り組みです。M&A市場の健全化を図ることで、M&Aがより安全かつ効果的に活用されることが期待されますが、残念ながら現在は魑魅魍魎が暗躍するシビアなマーケットになっています。一度騙されると多大な被害をうけるのは自分です。最後の大仕事として人任せにしない、相手のいうことはセカンドオピニオンで検証してから回答するなど慎重な振る舞いが必要です。
参考資料