スルガ銀行不正融資事件は、スルガ銀行が日本全国のサラリーマンなどに対して、シェアハウスやアパート、マンションの購入用資金の融資を行う際に、年収や預金残高などを示す資料の改ざんを行ったほか、対象物件の価格や収益性を偽ることに加担していたとされる一大事件です。
背景にはチャネルとして結託していた不動産業者との癒着や売上至上主義が横行した結果、ずさんな融資審査が常態化していた事などが挙げられています。
2018年ごろに大きな社会問題になって以降、被害者との間で調停が続いていましたが、2022年4月に第三次の調停が成立しました。その結果、「シェアハウスに関しては、被害者は弁済義務を負わない」という形で救済された結果となりました。
スルガ銀行はシェアハウスでは被害者の訴えに押され完敗した形ですが、アパート、マンションの不正融資に関しては戦う構えを依然解いていません。
4月19日に行われたSS被害弁護団(スルガ銀行シェアハウス被害者弁護団)の記者会見を取材しながらこの問題の現状を振り返ってみたいと思います。
目次
第三次調停で解決した内容とは?
SS被害弁護団の河合弁護士によると「今回の調停によって解決した被害は、被害者数404名、物件数522棟、対象有担保ローン額約605億円、対象無担保ローン約20億円。被害者オーナーは全国に及び、海外の居住者もいる。」とのこと。スルガ銀行は自らがあっせんした外資系金融機関を通じて、対象となる物件を買い取る代物弁済を行うことでローンを帳消しにする形となります。今回の調停で三回に分かれた調停のすべてで、担保となるシェアハウスを買い戻し、融資をなかったことにするという決着が図られることになりました。
シェアハウス問題は全面的に解決したのですが、同時に横行していたアパートマンション問題(アパマン問題)は未解決です。スルガ銀行不正融資の中でも、解決したのは氷山の一角に過ぎないといえるでしょう。
アパマン問題の被害は続くー困っている人の体験談から
都内在住50代女性が会見で涙ながらに自身の体験を語ってくれました。不動産業者の営業を受け、2016年6月に葛飾区の土地を購入し、同年8月にシェアハウスを建設する契約を結びました。シェアハウスにはサブリース契約がセットで提案されており、将来にわたって不動産会社がシェアハウスを借り上げ、賃料を保証してくれることで、空室リスクがなくなると説明を受けていました。シェアハウスを建てる際に発生する空室リスクもなくなるのであれば、と契約を結ぶのですが、2017年10月にサブリース賃料減額の連絡が入ります。また2018年1月には「経営破綻したので、サブリースの賃料が払えなくなった」とサブリース業者からの通知を受けとる事態になってしまいます。
この被害者女性は民事再生法適用、破産手続きが流れるように進んでいく様子を見てようやく計画倒産だったと気がついたといいます。実は物件は不当に高く値を釣り上げられたもので、サブリースはさも収益が取れるように高めに契約されていたのですが、実際は市場価格と乖離した水準で、初めから倒産を行うことを視野に入れたもので、騙されたと気が付いたということです。
サブリース業者が経営破綻しても、スルガ銀行からの融資には返済を行っていく必要があります。もともとの返済計画が、粉飾されていたものであったこともあり、大きな経済負担に被害者女性は一度は自殺も考えますが、SS弁護団とともにこの数年を戦うことで、シェアハウス関連の融資による経済的な破滅から逃れることができたということです。
しかし、それより前の2016年5月に、同じ業者の紹介で中古マンションを購入していました。こちらに関しては、わずかな利下げのみで実質ゼロ回答。ここで、スルガ銀行は、シェアハウス問題に対しては金融庁の業務改善命令に従っていることをアピールするために好条件を提示してきたが、マンション問題には最初から応じる気はなかったのだ、と被害者女性は感じていると語っています。今後は、SI被害弁護団とともにスルガ銀行と闘っていくと語りました。彼女にとっては、まだ問題は解決していないのです。
SI被害弁護団の今後
このように社会問題化したシェアハウスへの対応に関しては、問題が解決を迎えたといえます。被害者団体の活動が大きな成果を上げたのは確かな事実と言えるでしょう。しかし解決はシェアハウスに関してのみで、アパート、マンションの購入に関する融資では被害者とスルガ銀行は大きく対立しています。SS被害者かつアパートマンションを買った人は50名ほどいるとのことで、アパートマンション関連融資については救済されていないと感じている被害者たちはスルガ銀行不正融資被害者同盟に参加して、戦いを継続させていくということです。
まとめ:今後はアパマン問題に争点が移るースルガ銀行の不動産ADRの対応状況
SI被害弁護団によると、これまでに数百件の個別不動産ADRを行ったものの、スルガ銀行は多くの案件で元本カットに応じていないとのことです。
弁護団記者会見でも触れられていましたが、不動産ADRを通じて、被害者とスルガ銀行は交渉を行ってきました。ADRとは、裁判外紛争解決手続のことで、裁判によることなく法的なトラブルを解決する方法、手段などを総称する言葉です。仲裁、調停、斡旋などの形態があります。
交渉の場においても、スルガ銀行側が提示した資料は調停を行う調停官にしか開示されていません。スルガ銀行不正融資被害者の中には契約書も十分に提示されていない被害者や実際に資料が偽造された被害者もいます。何が事実かをすり合わせしないままADRをスルガ銀行に有利なまま進行された、大企業にしてやられたと感じている被害者は多いようです。
この塩対応の背景には、シェアハウスよりもアパート、マンション関連融資の方が融資残高が多いというスルガ銀行の経営へのインパクトの大きさも影響しているでしょう。スルガ銀行の個人向け不動産ローンの貸し出し残高は1兆円。第二地銀であるスルガ銀行が大きく業績を伸ばした推進力を担う個人向け不動産ローンへの影響を最小限にとどめることができなければ経営破綻も現実に起こりうるスルガ銀行も必死に抵抗したのではないかと想像されます。
被害者に対して、スルガ銀行の代理人である弁護士からは返済困難者向けの融資条件の緩和などを提示があった一方で、「ご異論があれば法廷でお会いしましょう」という言葉が聞かれたとも言われています。金融庁の指導に対して、シェアハウスを全く新しいビジネススキームだから融資審査が機能しなかったと言い訳し、本丸であるアパート、マンション向け融資を守るために戦う姿勢が明確に示されていたようです。 会見に同席していたスルガ銀行不正融資被害者同盟の関係者は「スルガ銀行が私たちに提示したのは、詐欺や不正融資への補償ではなく、金融機関が支払い困難な債権者に対して行う返済相談でしかありませんでした。一年間利子だけを返済する、元本は削らないが金利を1%削減するなどの提案でスルガ銀行は自身の融資のずさんさや不正な経営姿勢を反省したといえるでしょうか。私たちは元本の適正な評価や補償を求めて今後も対話を続けていきます」と語っていました。