スルガ銀行は、SI被害者同盟のメンバーらが行った本店前でのデモ活動や株主総会での発言等を「業務妨害・名誉毀損」として、SI同盟幹部や一般社団法人ReBORNs代表などに対して差し止めと損害賠償を求めて裁判を起こしました。その第二回目の法廷が2024年11月21日に行われ、同じ日にスルガ銀行の不正融資被害者団体「SI被害者同盟」の弁護団は東京都内で記者会見を開きました。
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「これはスラップ訴訟だ」
スルガ銀行から提起された訴訟についてSI被害者同盟の弁護団は「被害者の抗議活動を封じ込めようとするスラップ訴訟だ」と批判しました。スラップ訴訟とは言論や活動をけん制し、お金・時間・労力を消耗させ、見せしめにするなど攻撃的な目的で訴訟を武器に使う社会的な攻撃の一種で社会的な問題にもなっています。
不正融資被害者の抗議活動を止めることができないスルガ銀行の攻撃
確かにSI同盟は長期間にわたりスルガ銀行の店舗の前や金融庁の前で抗議デモを繰り広げてきました。ですが、法的に問題ない線を守った抗議行動で、警察沙汰にもなっていません。また不正融資被害者との調停も難航して解決がすすまない状況が続いています。
そしてスルガ銀行が不適切な融資を行っていた役員を訴えるスルガ役員訴訟では次々とスルガ銀行のゆがんだ内情が明らかになっています。また大阪ではスルガ銀行とタッグを組んで50人以上の不正融資被害者に累計数百億の物件を販売していた不動産会社社長が証人として、スルガ銀行の不正融資の証拠動画をもって法廷に出廷するなど不利な材料が次々に提出されている最中です。
弁護団の河合弁護士は「被害者の正当な抗議活動を止めさせたい意図で行われた訴訟」と指摘。訴状について「誰の、どの行為が権利侵害なのか明確でなく、裁判所からも釈明を求められている」と述べました。
投資と詐欺取材班が裁判所で傍聴
スルガ銀行が不正融資事件の被害者団体であるSI同盟やその支援組織ReBORNsを訴えた通称「スルガ銀行スラップ訴訟」はなにからなにまで異例のスタートを迎えた。まず東京地裁の法廷では20名以上の傍聴者が席に座れず退廷を促されるほど、会場には傍聴者が詰めかけていた。「傍聴者の中にはプレスの記者もいる。情報公開の面でも、次は大法廷でお願いしたい」と被告側弁護士が裁判長に要請する一幕もあった。
また開廷前に被告の一人である冨谷氏がスルガ側弁護士に「以前もお会いしましたよね?」と声を掛けるとスルガ側弁護士は「そうですかね。覚えていないですね」と返答。すると冨谷氏が「あの時にもお前悪いんだろって言われましたけど。私はしっかり覚えています」と語調は静かだが刺激的な会話を交わす一幕もあった。(イラスト左:スルガ銀行側弁護士。イラスト右:スルガ銀行に訴えられた冨谷氏)
スルガ銀行の訴状(裁判の争点)が不明確と裁判長が指摘
開廷早々、裁判長はスルガ銀行側の訴状に対して「訴状の内容が不明確であること」を理由に被告側弁護団の用意した準備書面にも触れられないことを説明しました。スルガ銀行の訴状(裁判の争点)が法的文書として問題のあったようで、「誰のどの行為が」「誰の何の権利を侵害したのか」が不明確、と裁判長がはっきりと明言しています。
そのため訴状に対する反論である被告側の準備書面に触れることもできない段階、ということで、裁判長も訴えられた被告側弁護士団に相当気を使った様子で説明を行っていました。
また当事者関係の混乱があり、被告ではないSI同盟の行為を主張の中心にしていたものになっていた、第三者による行為と被告の関係が不明確な上に、用語の使い方が不統一となっていて裁判の準備書面としてはかなりお粗末な印象を受けます。(イラスト左が裁判長。スルガ銀行側の「訴状の内容が不明確」である点を説明する際に、苦慮する様子がたびたび見受けられた。)
通常、銀行のような大企業が原告となる訴訟では、法務部による厳密なチェックの上、顧問弁護士による慎重な検討が行われ、具体的な証拠に基づく主張が展開されるのが一般的です。
このような基本的な要素を欠いた準備書面の提出は、法務体制に問題がある可能性もあるわけですが、むしろここでは訴訟戦略として意図的な可能性を考えるほうが妥当だと思われます。つまり訴訟自体が時間稼ぎや威圧な意図をもっている可能性が高いわけです。冒頭、SI弁護団がこの訴訟を「スラップ訴訟だ」と呼ばれるゆえんです。
訴えられた側は弁護士を雇い、弁護士と対策を協議し、金銭、時間、労力を使って反論しなければいけません。そういった意味ではスルガ銀行は効果的な攻撃を被害者団体に仕掛けていると言えるでしょう。
いずれにせよ、上場企業であるスルガ銀行が一般人を訴える裁判で、裁判所から複数の重要な問題点を指摘され「準備書面の内容が不明確」と審議を留保される事態は、法的手続きとしては相当に異例です。実際に、第二回法廷は、訴えられた被告側弁護士が準備書面の不備を延々と指摘する発言を行い、裁判長がうなずく局面に終始しました。
スルガ銀行のスラップ裁判に被害者側から批判噴出
被告の一人である一般社団法人ReBORNs代表の冨谷皐介氏は、訴状の問題点をこう指摘しています。「SI被害者同盟の行為について述べているが、同盟自体は被告になっていない。私が同盟の行為を指導・指示していると主張するがReBORNsについては一切触れられていない」。
SI被害者同盟の代表を務める被害者は「スルガ銀行は我々との対話を拒否し続けている。デモ活動でしか訴える手段がない」と説明。「銀行は『不正だけど不法ではない』と主張するが、過去の不正融資により、今も莫大な金利収入を得続けている」と批判しています。
スルガ銀行不正融資被害者の抗議行動の背景には進まぬ交渉がある
スルガ銀行によるスラップ裁判の背景には、解決の糸口が見えない被害者とスルガ銀行の対立の深刻化があります。2018年に発覚したスルガ銀行の投資用不動産融資での組織的な不正では、スルガ銀行が金融庁から業務改善命令を受けていますが、5年以上経過した現在も解除されていません。つまり問題は解決されていない中、被害が長期化しています。多くの被害者が精神的健康を害し、家庭崩壊や離婚など深刻な影響が出ている状況もあるようです。
さらに同行は2024年11月12日、一部被害者に対して支払督促を申し立て。弁護団は「調停による解決を進めている最中の突然の法的手続きは極めて不当。被害者個人への負担を意図的に増やす戦術だ」と非難しています。
会見では、本訴訟の原告側弁護士が2018年のシェアハウス融資問題(かぼちゃの馬車事件)で最初に対峙した弁護士であることも明らかにされました。(裁判の冒頭で冨谷氏と会話した弁護士です)
次回期日は12月26日。弁護団は「多くの被害者や報道機関が傍聴を希望しており、大法廷での開廷を求めている」としています。