スルガ銀行は、シェアハウスへの不正融資問題で大きな注目を集めています。この問題は、複数の役員と関係者が関与し、多くの投資家が被害を受けました。2024年4月12日に行われたスルガ銀行の専務を務めるT氏への尋問は、この問題の詳細を明らかにする重要な一環です。
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役員の経歴と役職
T氏は1990年にスルガ銀行に入社し、営業店や経営企画部、管理部での経験を経て、2017年4月から審査部長に就任しました。その後、2019年6月には取締役専務執行役員審査本部長兼CCOに就任しています。T氏はまさに2018年から社会問題化したスルガ銀行の不正融資の実態を知る人物であり、不正があった融資審査書類を社内でつかさどる審査部門のトップとして業務を行っていた当事者です。
「スルガ銀行の審査部長」としての業務
T氏は、審査部長として融資案件の詳細を確認する必要はなく、主に部下から報告を受けていたと証言しました。「あなたが審査部長に就任される前に、融資案件の任務書類を隅から隅までチェックする必要があったのでしょうか」という質問に対しては、「いいえ、審査第二部のWさんから、融資のポイントや営業との折衝状況について説明を受けていました」とT氏は述べました。
信用リスク委員会の役割
2017年4月6日に開催された信用リスク委員会では、ソフトインベストメント取扱い案件の出口戦略が議論されました。T氏は、「A生さんから、サブリースで組んでいるお客様に対して3通りの提案をしたらどうかという議案がありました」と証言しています。
スマートライフとの取引禁止
T氏の前任の審査部長であるY氏は、T氏の審査部長就任後は、常務取締役として審査業務に関与していました。そのY氏からの指示により、スマートライフとの取引は一切禁止されていました。T氏は、「Yさんからスマートライフに関する指示があり、一切関与しないようにしていました」と述べています。
しかし弁護士からの「Y氏の指示にもかかわらず、スマートライフとの取引が継続された理由は何ですか?」との問いに対して、T氏は少し間を置いて、「現場の判断で取引が続けられたこともありました」と営業サイドの圧力に屈して、指示が徹底されなかったことを認めています。
スルガ銀行のシェアハウス融資全件調査の結果
法廷で「第1回サクト会議で、シェアハウス全件の調査が行われたとありますが、なぜそのような決定がなされたのですか」との質問に対してT氏は「米山社長の指示で、シェアハウス全件の調査を行うことになりました。問題のある物件が多いとの懸念から、全件調査が必要とされました」と説明しました。さらに、尋問官が「調査の結果、942件中578件がスマートライフ関連で、68件が空室でしたが、その事実はどのように審査部内で共有されましたか」と尋ねると、「物件調査ミーティングで共有されました。結果を見て、部内では非常に懸念が広がりました」とT氏は答えました。
スルガ銀行内で営業部と審査部が対立
調査結果を巡り、スルガ銀行内部で、営業部と審査部との間で意見の対立が生じました。T氏は、「実際に物件を調査すると、空室が非常に多く、皆が(融資の妥当性がないことを)懸念していました。営業部の主張とは明らかに矛盾がありました」と述べています。尋問官が「調査結果について営業部にはどのように伝えられましたか」と尋ねると、T氏は「2017年6月に営業部に報告されました。営業部は結果に対して強く反発しましたが、事実を基にした報告でした」と答えました。
ここで再び弁護士が質問を投げかけました。「営業部が反発した具体的な理由は何ですか?」T氏は「営業部は入居者がいると主張していましたが、実際には空室が多く、業績に対する影響を懸念していたようです」と答えています。
スルガ銀行の営業部としては売上を上げるためには、シェアハウスローンは無理を押してでも継続したい。審査部としては実態とかけ離れていて看過できないという対立があったことが窺われます。
シェアハウスローンの停止判断
実際に、問題が多いチャネルであるサクトとの取引方針を検討する第4回サクト会議では、シェアハウスローンを止めるべきとの結論が出ましたが、取締役会では実行に移されませんでした。T氏は、「リスクが高いのでシェアハウスローンを止めるべきだと思いました。しかし、取締役会での判断は異なりました」と証言しています。
弁護士はさらに追及しました。「取締役会がシェアハウスローンを停止しなかった理由は何ですか?」T氏は「代替商品が見つからなかったため、取締役会はローンの停止を決定しませんでした」と説明しました。
経営会議の決定とその後の反応
経営会議では、収益物件の取り扱い業者に関する厳しい条件が設定されましたが、営業部からの反発が強く、実行が困難でした。T氏は、「営業部からは、この条件では数字が達成できないと批判がありましたが、経営会議の決定事項として対応しました」と述べています。
弁護士は最後に、「営業部の反発に対して、どのような対策が講じられましたか?」と問いました。T氏は「経営会議の決定事項を厳守する方針を貫きましたが、営業部との協議を続けました」と答えています。
売上至上主義のスルガ銀行は社内での自浄ができず暴走を続けた
スルガ銀行のシェアハウス問題は、内部のガバナンスの欠如とリスク管理の不徹底が原因であることが、T氏の尋問から明らかになりました。この問題は、多くの投資家に損失をもたらし、銀行の信頼性にも大きな打撃を与えました。こうした営業の暴走を食い止めることができなかったT氏が現任の常務として経営にあたっているスルガ銀行は、果たして自行内のガバナンスを正しく行うことができているのか。コンプライアンスに即した経営を行っているのか疑問が払拭できない尋問だったと言わざるをえない内容でした。