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1100億円の被害総額を誇る大和都市管財事件とは?
日本で、社会現象となりニュースにもなった豊田商事事件に続き、第2の豊田商事事件と言われている大規模な詐欺事件があります。それが2001年に起こった大和都市管財事件です。
大和都市管財事件とは、不動産やゴルフ場経営を行っていた会社である大和都市管財が抵当証券を1100億円相当も乱売したにもかかわらず、経営破綻し証券の購入者1万7千人以上が大きな経済的損失を被った事件のことです。
抵当証券は、現在は廃止されている金融商品ですが、不動産を担保にして貸付債権を小口からでも運用できるようにした金融商品のことです。モーゲージ証券ともいいます。今回は大和都市管財事件がなぜ起きたのか、豊田商事事件クラスの規模にまで発展してしまった理由などについて解説していきます。
大和都市管財事件の真相
大和都市管財は抵当証券という、不動産を証券化し資金調達するという金融スキームの証券を主に扱う会社でした。対象となる抵当証券は、バブル期に数多く作られたゴルフ場やリゾート施設の持つ不動産を対象にしており、運転資金や事業再生の元手の資金を得るために、証券化されたものでした。
こうした抵当証券は低リスクでハイリターンが期待できるということで、当時大きな注目を集めました。というのも「不動産が担保になっているので、損はしない」と理解されていたからです。
実際は、帳簿上の金額からバブル崩壊で地価が下落し、多くの含み損を抱えた負の資産だったので、リスクは小さいものではありませんでした。証券化された際の評価額は、実際の市場価格よりも高い簿価で評価されていたのです。経営立て直しに成功すれば、それに応じて地価もあがるので、証券の価値もあがるはず、という思惑で販売されていた商品だったのです。
つまり大きく下落したゴルフ場の価値が、事業再構築を通じて再建され、価値が戻ってくれば抵当証券の価値は上がります。しかし再構築が失敗したり、期待ほどの成果がでない場合は、証券会社も債務超過に陥るリスクがある商品だったのです。
2000年初頭は、各家庭にまだインターネットは普及していませんでしたし、スマートフォンもまだなく、ガラケー全盛期です。いまでこそ全盛を迎えているネット証券会社もほとんどなく、多くの一般家庭にとっては、テレビや新聞・雑誌のみが情報源でしたので、抵当証券に関する情報は証券会社からの説明に限られました。そんな中、大和都市管財は新聞広告に力を入れ、100回以上も中日新聞に広告を掲載するなど、自社サービスの宣伝に努めています。
また、当時は、電話営業や訪問販売がまだ盛んな状況でした。「値上がりは確実なので、絶対損はさせません。うちは新聞に広告も掲載されています」と熱心な営業マンが各家庭を回って営業していました。その口車に乗せられたのが主婦や年金生活者です。
当時は就職氷河期と言われていた不景気な時代。退職金というまとまった金額をもとに、高齢化社会を生き抜かなければならないという危機意識に刺さった形でした。
抵当証券の中核には外資系金融機関の存在
2000年にSPC法(資産流動化法)とよばれる法改正がありました。ざっくりと説明すると不動産の証券化・流動化を認めるという内容です。バブル期にはリターンを顧みない、ずさんなゴルフ場やリゾート施設への融資がゴルフ場やリゾート施設の土地や建物を担保に実行されましたが、経営不振で大きな含み損をうみだしていました。金融機関は「貸しはがしたいが、つぶれると困る」ということで長いあいだ融資を回収できずにおり不良債権処理が大きな社会問題になっていたほどです。
2000年代初頭は、SPC法による不動産の証券化は海外で先行していた取り組みだったこともあり、外資系ファンドが巨大な資金力を背景に日本国内の現物不動産や不動産担保付ローン債権のシェアを一気に伸ばしていった時代でもあります。そして大胆な人員削減や事業の整理によって収益力のある事業のみを転売し利益を上げる姿が「ハゲタカファンド」とよばれ恐れられていました。
大和都市管財はそうした流れにのってバブル期の残骸のような企業を次々買収していきます。グループ会社としてベストライフ通商,ナイスミドルスポーツ倶楽部,ナイス函館カントリークラブ,北海道泊別観光,株式会社美祢カントリークラブ,杜の都,株式会社たに・いち,グレートジャーニィ,株式会社リステム化学研究所、ゼネラルファイナンスパートナーなどの複数の企業を買収して大和都市管財グループを組織していました。いずれの企業も不動産を持っているが収益力は低い企業だったのですが、大和都市管財はこうした企業の保有不動産を証券化スキームで販売し利益を得ていったのです。ハゲタカファンドと大きく違っていたのは、大和都市管財はリストラによる収益力回復を行わなかったことです。
「結局こういう抵当証券会社というのは、借り手がいるわけですね。つまり投資家から集めた資金というものを貸してですね、そしてその抵当権について抵当権設定登記を致しまして、そして法務局といいますか、その登記所からそういう抵当権設定登記を裏付けにした抵当証券の交付を受ける。そして、その抵当証券は抵当証券保管機構に預かってもらって保管証というものを発行してもらう。それをモーゲージ証書という形で、言わば細切れにして投資家に売っている。ということはこの抵当証券会社が発行したモーゲージ証書というものが、果たして元本を含めて確実に返ってくるかどうかというのは、この借入れ人の言わば健全性にかかっているわけでございますね。この借入れ人が今回の場合は、大和都市管財株式会社の言わばグループ企業、まあゴルフ場等いろいろグループ企業であったわけですが、我々は検査といっても大和都市管財を検査するのであって、それが借りている先まで、そういう企業までは検査に立ち入れないわけでございます。」
森金融庁長官記者会見、平成13年4月16日より
SPC法はアメリカなどの外圧によって推し進められた『金融自由化』の産物でした。対応にも神経をつかう取り組みだったようで、金融庁も対応に苦慮した様子が伝わってきます。大和都市管財の場合、こうしたバブル期の開発の残骸のような会社を安値で買い集め、証券化し個人に販売することで、利益を得る一方で、運用はしないというポンジースキームのような運営を行っていましたので、抵当証券の利払いは滞ることが目に見えていたのでした。
バブルの後遺症処理を担わされた年金生活者
先ほどご紹介したように抵当証券の多くは日本の年金生活者が購入していました。その数2万口、1万7千人以上が1100億円分も購入していました。つまり一人当たり650万円弱の投資をしていたことになります。こうした年金生活者たちの「命金」を資金源に、ゴルフ場やリゾート施設が再建をめざしたのですが、順調に再建した企業ばかりではありません。期待通りの成果を上げられない事業者も多く、大和都市管財は含み損を抱えることになります。
抵当証券を販売するには、3年に一度、財務の健全性を金融庁に認めてもらう必要がありました。しかし大和都市管財は抵当証券で巨額の債務超過を出してしまいます。その結果、大和都市管財は、2001年の4月に経営破綻することになります。近畿財務局が債務超過と判断し、抵当券業への登録更新を拒否したことが直接のきっかけですが、その原因はこうしたバブル期の高騰した地価を背景とした抵当証券の高値掴みだといえるでしょう。
大和都市管財が経営破綻してしまったため、抵当証券は紙くずになってしまいます。購入した被害者は「投資は自己責任」といわれ、だれを訴えることもできず泣き寝入りするしかありませんでした。2001年11月に社長や関与していた人は詐欺容疑で逮捕され、2006年9月に懲役12年が確定されていますが、被害は回復されませんでした。外資系のハゲタカファンドと抵当証券を組成した外資系金融機関も似たようなスキームでビジネスをおこなっていましたが、大和都市管財はそこに着想を得て、詐欺を働いたとみることもできるでしょう。
被害に遭わないためには、リスクを認識し責任を追える範囲のチャレンジにとどめること
まったく新しい金融スキームは大きなビジネスチャンスであることに間違いはありません。しかしリスクがない投資は存在しません。リスクヘッジのための試みはされていても、そんなにリスクがない投資であるなら、莫大な資金を持つ機関投資家が投資を行い、一般投資家のところまで話が流れてくることはないと考えるほうが自然です。
とはいえ、チャンスにのらなければリターンもありません。金融商品は必ず勉強してから購入するようにしましょう。また新規性が高い金融商品に手を出す場合は、全額なくなっても構わない金額だけに投資額を抑えるなどの予算配分も重要になります。
被害者の中には、親から相続したお金を全部投資した、退職金を全部投入したなどのリスクテイカーがいたと言われています。その方は大きな痛手を被ったはずです。巧みな話術に誘導され、高額な投資に引き込まれてしまう危険性は誰の身にも起こりうることです。最後に自分を守ることができるのは自分だけです。絶好のチャンスに巡り合った!と感じても、万が一の失敗リスクを考慮できる人は、すべてを失いことはないでしょう。多少儲けが減ってもいいじゃないですか。すべてを失うことにくらべれば、絵に描いた餅の一部を我慢するべきです。
[まとめ]勉強をしても太刀打ちできないからこそ、全部の卵を同じかごにいれない。
詐欺にあわないためには、その分野について勉強することが大切です。ですが、金融商品や会社について詳しく調べても、相手は営業のプロ、業界のプロです。素人の付け焼刃だけでは太刀打ちできないのもまた事実です。
冷静に「自分が投資に失敗したり、だまされるかもしれない」というリスクを理解して、失敗してもいい金額しか使わないという大原則を自分に課し、守ることが重要です。
投資の世界では「全部の卵を同じかごに入れるな」という言葉があります。万が一つまづいてこけてしまっても、全部の卵がわれないように用心しよう、という考え方は、金額が大きくなればなるほど、心がけるべきでしょう。「絶対に儲かる話」は話半分で聞いておく用心深さが投資を継続して行うためには必要になってくるかもしれません。