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弁護団会見後の独自取材で判明した衝撃の実態
スルガ銀行の不正融資問題で、同行が調停において責任を認めた2件について、銀行側が証拠資料や懲戒処分者リストの開示を一切拒否していることが、被害者団体幹部への取材で明らかになった。約600件の被害のうちわずか2件で責任を認めながら、その根拠となる情報は秘匿し続けている実態が浮き彫りになった。
先日開催された弁護団記者会見では、調停で有利な展開があったことが報告されたが、その詳細について団体幹部に追加取材を行った結果、銀行の対応に重大な問題があることが判明した。この件は毎日新聞などの全国紙などにも取り上げられており、物議を醸している。
証拠なき責任認定の謎
問題となっている調停とは、スルガ銀行不正融資事件の被害者団体SI被害者同盟が弁護団を介して東京地裁に民事調停を申し立てている件だ。SI被害者同盟に加入するためには、スルガ銀行のアパマン融資において「レントロールの改ざん、契約書の改ざん、預金通帳の改ざんが認められた被害者であること」が条件となっている。販売チャネルであった不動産会社と組織ぐるみで改ざんを行い、消費者に安全な投資と誤認させた組織的犯行だとして被害者団体はスルガ銀行のコンプライアンスの欠如した数字至上主義を批判。スルガ銀行が非を認めたシェアハウス融資と同じ構造であるために、スルガ銀行に非があるのは自明だとして調停に臨んでいる。
一方でスルガ銀行はシェアハウスは新しいビジネスモデルであったため審査面で不備があったことを認めつつも、アパート・マンションの融資に関しては既存の投資案件であるため、同じではないと反発。スルガ銀行は営業数字を追求するあまり、市場価格と乖離した物件価格が被害者団体と争う姿勢を見せている。
「相手は上場企業です。単独で争っても、資金力に任せて有能な弁護士をつけています。個別に争っても各個撃破されてしまうだけです。そこで被害者団体を組織して弁護士団に依頼して集団交渉して来たのですが、、、」
調停は長引き、2018年の問題発覚からすでに6年半以上が経過。2022年から始まった調停もスルガ銀行側が非を認めないために、思うように進まない。
「スルガ銀行が自ら組織した第三者委員会の調査報告で、複数の行員の関与があったことが報告されています。またその結果複数の行員が処罰を受けていることがわかっています。ですがその内容をスルガ銀行は証拠として提出しないんです。不正を働いた証拠があるにもかかわらず、調停の場に提出することを拒否しているんです」
「誠実に被害者と向き合い対話を行う」と謳うスルガ銀行だが、1000億円を超える係争ということもあって、徹底抗戦の構えだ。そんな最中、交渉に変化があったという。
調停の対象となった物件の中から証拠となる書類がそろった24件に関して、先行して協議した結果、スルガ銀行側が2件の融資に関して、賠償責任を認めたというのだ。
「なぜこの2件について銀行が責任を認めたのか、理由がさっぱりわからない」
被害者団体の幹部はこう語る。調停において、被害者側が「スルガ銀行の行員が関与し契約書、レントロール、銀行通帳の改ざんを行った」と主張したところ、スルガ銀行側は理由を明かすことなく事実上争うことなく認める姿勢をとった。しかし、その後の証拠開示請求に対しては頑なに拒否し続けているという。
具体的には以下のような対応が続いている:
「証拠書類を出してくださいと求めても『出しません』。懲戒処分を受けた行員のリストも『社内のことなので開示する義務はない』と拒否してくる強硬姿勢に裁判所の調停員も本当に出さないんですか?とあきれ顔」と団体幹部は証言する。
裁判所も算定に困惑
通常、調停での和解においては双方が根拠となる資料を提出し、合理的な解決策を模索するものだが、今回は銀行側が一方的に責任を認めつつ、その詳細は秘匿するという異例の展開となっている。ほかの調停中の案件では認めていない非を認めたということは、社内でも相当の処分が下っているはずで、どんな不正な行為をおこなったのか。同様の不正はあったのかに関するスルガ銀行側の認識を確認するための重要情報となる。もちろんスルガ銀行にとってはアキレス腱となるため一切の開示を拒んでいる。レアケースであれば開示してスルガ銀行自身の正当性を主張してほしいところだが、こうした隠避体質が事件の解決を阻んでいると団体幹部は語る。
「早期解決のため」という銀行側の主張
残る約600件への影響は?
今回の2件での対応は、残る約600件弱の被害者にとっても重要な意味を持つ。事件の構造はいずれも「重要な融資書類の改ざん+高値掴み」という共通点があり、被害者団体では「この観点で引き続き取り組む」方針を示している。
しかし、銀行側が証拠を開示しない姿勢を続ける限り、真相解明は困難を極める。被害者たちは、なぜ銀行が責任を認めたのかその理由すら知ることができない状況が続いている。
金融庁の監視下での対応に疑問
スルガ銀行は金融庁からの報告徴求命令を受け、被害者との対話による解決を求められている。しかし、調停での対応を見る限り、真摯な対話姿勢には程遠い実態が明らかになった。
「証拠も出さずに責任だけ認めて、あとは金額だけ決めましょうという姿勢では、本当の解決にはならない」
団体幹部のこの言葉は、スルガ銀行の問題解決への本気度に対する疑問を端的に表している。
金融庁が求める「被害者保護」が実現されているとは言い難い状況の中、スルガ銀行の対応姿勢が改めて問われている。