Home 詐欺を知る 実態不明の新スポーツ賭博詐欺!「競球」事業で100億を集めた希代の詐欺師、第二の犯罪(2016年)

実態不明の新スポーツ賭博詐欺!「競球」事業で100億を集めた希代の詐欺師、第二の犯罪(2016年)

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山本一郎氏の出所後の「競球」事業
山本一郎氏の出所後の「競球」事業

11年の服役を経ても変わらなかった詐欺師の手口

2007年6月、11年間の服役を終えて出所した山本一郎氏。KKC(経済革命倶楽部)事件で350億円を騙し取った希代の詐欺師は、社会復帰と共に反省の色を見せるどころか、今度は「競球」という新たな事業を立ち上げ、再び多くの人々を騙すことになりました。この競球事業詐欺は、手口をより巧妙化させた第二の犯罪として、特に中国人投資家に深刻な被害をもたらしました。

出所直後から始まった新たな詐欺計画

山本一郎氏は出所と同時に、名前を「山本意致朗」に変更し、有限責任事業組合(LLP)経恵志(ケーケーシー)を発足させました。このタイミングの早さは、服役中から既に新たな詐欺計画を練っていたことを物語っています。

競球ホールディングスという会社を設立した山本氏は、今度は「競球」という耳慣れないギャンブル事業を看板に掲げました。この事業は表向きには、競馬の馬主ならぬ「球主」を集めて出資させ、巨大な競技場で複数の球を転がして順位を競うギャンブル事業だと説明されていました。しかし、その実態は以前のKKC事件と本質的に同じ投資詐欺だったのです。

競球事業の仕組みと騙しの手口

競球事業の魅力として宣伝されたのは、事業そのものではなく異常に高い金利でした。山本氏は月20%という法外な利回りを約束し、これは年利換算で約790%という非現実的な数字でした。この高利回りは、KKC時代の年利876%に匹敵する異常な水準です。

具体的な投資コースの一例として、456万円を預ければ毎月100万円を受け取ることができ、9か月間で総額900万円を手にできるという長期コースが提供されていました。このような数字を見れば、常識的な判断力があれば詐欺だと分かるはずですが、山本氏の巧みな話術と過去の「成功体験」の演出により、多くの人が騙されてしまいました。

法的な問題を回避するため、山本氏は「会員から借金をしており、金利ではなく高額の謝礼だ」という理屈を展開しました。しかし、不特定多数から高利でカネを集める行為は明らかに出資法違反であり、この言い逃れは法的に通用するものではありませんでした。

中国人コミュニティへの浸透と被害拡大

競球事業の特徴的な点は、中国人投資家を主要なターゲットとしたことです。山本氏は中国人コミュニティでの口コミを利用して急速に会員を拡大し、約1万人の会員から100億円という巨額の資金を集めました。

中国人被害者の一例として、7月に約500万円を預けた外国人男性のケースがあります。この男性は翌8月には約束通り100万円を受け取り、山本氏の話が本当だと喜んでいました。しかし、9月の2回目の支払日になると一銭も支払われず、山本氏に抗議すると「金がない」という単純明快な答えが返ってきただけでした。

通常の投資詐欺では、信頼を得るために最初の数回は約束通りの配当を支払うものです。しかし、山本氏の場合は1回しか支払わないという極めて悪質な手口でした。これは11年間の服役により、より効率的で労力を省いた詐欺手法を編み出していたことを示しています。

自転車操業の破綻と資金ショート

競球事業も結局はKKC時代と同様の自転車操業でした。月20%という法外な金利を支払い続けるためには、次々に新規投資家を募って、その投資資金を既存投資家への利払いに充てる必要がありました。

この仕組みは数学的に持続不可能であり、2015年9月頃から資金ショートが頻発するようになりました。山本氏はその度に様々な言い訳を繰り返しましたが、最も悪質だったのは2016年1月に「強盗に入られて2億5000万円を強奪された」という虚偽の説明でした。この明らかに作り話としか思えない説明で利払い中止を正当化しようとしたのです。

中国人被害者による抗議デモ

競球事業の破綻により、特に中国人被害者の怒りは頂点に達しました。2016年7月15日には、日比谷公園から東京地裁まで、中国人女性約100人が「山本一郎を逮捕せよ」と叫びながらデモ行進を行いました。この光景は、一人の詐欺師がいかに多くの人々の人生を破綻させたかを象徴的に示すものでした。

山本氏の事務所がある浅草周辺では、毎日のように中国人被害者が押しかけ、地元警察との間で電話合戦が繰り広げられるという異常事態となりました。近隣住民は事務所前で中国語を話す人々を見かけることが日常となり、地域社会にも深刻な影響を与えました。

法的回避の巧妙さと捜査の困難

競球事業がKKC事件よりも悪質だった点は、法的な抜け穴を狙った巧妙さです。山本氏は過去の逮捕・起訴の経験を活かし、より摘発されにくい手法を編み出していました。

「投資」ではなく「借金」だと主張し、「金利」ではなく「謝礼」だと言い張ることで、出資法違反の立件を困難にしようとしました。また、競球という実在しないギャンブル事業を看板に掲げることで、事業実態があるかのように装いました。

しかし、このような法的回避策も、被害者による民事訴訟や刑事告発により、最終的には破綻することになります。山本氏は「会員からお金を借りているだけで、返す意思もある」と主張しながら、4000人以上から100億円以上を借り入れていることを認めざるを得ませんでした。

山本一郎氏の競球事業に関する刑事告訴・逮捕状況

調査結果をまとめると、競球事業について以下の状況が判明しました:

刑事告訴の状況

山本一郎氏は競球ビジネスを行っているものの賭博事業の資格は取得していません。それにも関わらず1億円以上に昇る出資金を募ったため、「経済革命俱楽部事件」の時の同様に出資法違反罪で出資者から告訴されています。 先日の東京地裁前の抗議デモに参加したメンバーの一部は、刑事告訴の準備も始めたという。

民事訴訟の状況

2016年8月の時点で「訴訟ラッシュ」として、被害者による民事訴訟が提起されています。中国人被害者も多く、中国人の出資者による損害賠償の訴えや抗議デモ、警察への捜査依頼などを行っています。

逮捕されていない理由

この新規事業も警察の捜査の対象となっていますが、人の上手な言い逃れによって多数の被害者が出ているものの立件には繋がっていません。 山本氏は現在に渡って競球ビジネスを継続しています。「会員からお金を借りているだけで、返す意思もある」と言っており、4000人以上から100億円以上を借り入れていると認めました。

法的回避の手法

山本氏は以下のような方法で法的な責任を回避しようとしていました:

  1. 「投資」ではなく「借金」だと主張
  2. 「金利」ではなく「謝礼」だと説明
  3. 賭博事業ではなく「借金」として位置づけ

結論

競球事業については以下の状況です:

刑事告訴されている:出資法違反で被害者から告訴済み
逮捕されていない:2025年現在まで逮捕に至っていない
民事訴訟提起済み:損害賠償請求訴訟が複数提起
警察の捜査対象:捜査は行われているが立件に至らず

山本一郎氏が逮捕されていない主な理由は、巧妙な法的回避策により、出資法違反や詐欺罪での立件が困難な状況が続いているためと考えられます。しかし、被害者による刑事告訴や民事訴訟は継続的に行われており、法的な責任追及は続いています。

詐欺師の心理と更生の困難さ

競球事業詐欺は、一度詐欺を働いた人物が真に更生することの困難さを浮き彫りにしました。11年間という長期間の服役を経ても、山本氏は被害者に対する反省の念を抱くことはありませんでした。むしろ、より巧妙で効率的な詐欺手法を編み出すための時間として服役期間を利用していたとさえ考えられます。

山本氏の行動パターンを見ると、詐欺を働くことに対する罪悪感が完全に欠如していることが分かります。被害者の人生を破綻させることよりも、自分の利益を優先する極めて自己中心的な人格が浮かび上がります。

現代的な詐欺手法への発展

競球事業詐欺は、従来の投資詐欺から現代的な手法への発展を示す事例でもありました。インターネットの普及により、より広範囲に被害者を募ることが可能になり、特定の民族コミュニティをターゲットにすることで、口コミによる急速な拡散を実現しました。

また、グローバル化の進展により、国境を越えた詐欺が容易になったことも、この事件の特徴です。中国人投資家をターゲットにすることで、言語や文化の壁を利用して被害者の抵抗を困難にする狙いもあったと考えられます。

被害者救済の課題

競球事業詐欺では、被害者救済が極めて困難でした。KKC事件とは異なり、長期間にわたって野放し状態が続いたため、被害が拡大し続けました。また、被害者の多くが外国人であったため、日本の法制度に不慣れで、適切な救済手続きを取ることが困難でした。

民事訴訟による損害賠償請求も、山本氏に支払い能力がない以上、実効性に乏しいものでした。刑事告発についても、巧妙な法的回避策により、立件が困難な状況が続きました。

社会への警鐘と教訓

競球事業詐欺は、現代社会に対していくつかの重要な警鐘を鳴らしています。まず、一度詐欺を働いた人物に対する社会復帰支援と監視体制の在り方について、根本的な見直しが必要です。単純に刑期を全うしただけでは、真の更生は期待できないことが明らかになりました。

また、国際化が進む現代において、外国人投資家を狙った詐欺に対する対策の必要性も浮き彫りになりました。言語や文化の違いを悪用した犯罪に対して、より効果的な防止策と被害者救済制度の整備が急務です。

さらに、インターネット時代における投資詐欺の手口の巧妙化に対して、一般市民の金融リテラシー向上と、当局による監視体制の強化が不可欠です。

現代に通じる投資詐欺の特徴

競球事業詐欺から学ぶべき現代的な投資詐欺の特徴として、以下の点が挙げられます:

技術的な装いの利用:実在しない新しい技術や事業モデルを看板に掲げる手法は、現在の仮想通貨詐欺やAI投資詐欺でも見られます。

特定コミュニティへの浸透:SNSやオンラインコミュニティを利用して、特定のグループに集中的に働きかける手法が増加しています。

法的抜け穴の悪用:既存の法制度の隙間を狙い、摘発を困難にする手法がより巧妙になっています。

国際的な展開:国境を越えた犯罪により、捜査や被害者救済を困難にする手法が一般化しています。

投資家が身を守るための対策

競球事業詐欺の事例から、投資家が身を守るための具体的な対策を学ぶことができます:

過去の経歴の確認:投資先の代表者や役員の過去の経歴を徹底的に調査することが重要です。特に詐欺や金融犯罪の前科がある人物には絶対に近づいてはいけません。

異常な高利回りへの警戒:月利10%を超えるような投資案件は、まず間違いなく詐欺です。年利20%を超える案件には絶対に手を出してはいけません。

事業実態の確認:投資先の事業が実際に存在し、利益を生み出しているかを客観的に確認することが必要です。

第三者機関への相談:投資判断の前に、必ず独立した第三者の専門家に相談することをお勧めします。

おわりに:繰り返される悲劇を防ぐために

山本一郎氏による競球事業詐欺は、KKC事件から何も学ばなかった社会の失敗を象徴する事件でもありました。一度詐欺を働いた人物が、より巧妙な手口で再び多くの人々を騙すことを許してしまったのです。

この悲劇を繰り返さないためには、個人の注意だけでは限界があります。社会全体として、詐欺犯罪者に対する監視体制の強化、被害者救済制度の充実、国際的な犯罪対策の協力体制の構築が必要です。

また、投資に関する正しい知識の普及と、「楽して大金を稼げる」という甘い誘惑に惑わされない健全な投資意識の醸成も重要です。山本一郎氏のような詐欺師が二度と活動できない社会を作ることが、私たち一人一人に課せられた使命なのです。

真の豊かさは、地道な努力と健全な投資によってのみ築くことができます。競球事業詐欺の教訓を胸に刻み、賢明な投資家として歩んでいくことが、被害者の方々への最良の追悼となるでしょう。

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「投資と詐欺」編集部です。かつては一部の富裕層や専門家だけが行う特別な活動だった投資ですが、今では一般の消費者にも未来の自分の生活を守るためにチャレンジしなくてはいけない必須科目になりました。「投資は自己責任」とよく言われるのですが、人を騙す詐欺事件は後を絶ちません。消費者が身を守りながら将来の生活に備えるための情報発信を行なっていきます。

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