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金融庁がスルガ銀行に営業停止を命じた日

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2018年10月5日は金融庁がスルガ銀行に営業停止を命じた日です。スルガ銀行はシェアハウス、アパート、マンションといった収益用不動産を購入するための個人向け不動産ローンで1兆円の貸し出し規模をほこるなど隆盛を誇っていたのですが、2018年1月にシェアハウスかぼちゃの馬車を運営するスマートデイズの経営破綻で大きな不良債権化のリスクにさらされました。この事件をきっかけにスルガ銀行は金融庁から厳しく指導を受け、半年にも及ぶ営業停止処分を受けることになりました。

この記事では、金融庁の営業停止処分を取り上げながら、背景や経緯、金融庁がスルガ銀行に迫った内容を取り上げていきます。

金融庁の行政処分の内容

金融庁は以下の行政処分をスルガ銀行に命じました。

銀行法第26条第1項に基づく命令

(1)平成30年10月12日(金)から平成31年4月12日(金)までの間、新規の投資用不動産融資を停止すること。また、自らの居住に当てる部分が建物全体の50%を下回る新規の住宅ローンについても同様に停止すること。
 

(2)上記(1)の期間において、当行の役職員が融資業務や法令等遵守に関して銀行員として備えるべき知見を身につけ、健全な企業文化を醸成するため、全ての役職員に対して研修を行うこと。その際、各役職員が少なくとも一定期間通常業務から完全に離れ当該研修に専念することにより、その徹底を図ること。
 

(3)健全かつ適切な業務運営を確保するため、以下を実行すること。
 

① 今回の処分を踏まえた経営責任の明確化(厳正な判断が期待できる社外の第三者による客観的な検証体制の構築及び責任追及を含む)
 

② 法令等遵守、顧客保護及び顧客本位の業務運営態勢の確立(当局への正確な報告の実施にかかるものや過去の不正行為等に関する必要な実態把握を含む)と全行的な意識の向上及び健全な企業文化の醸成
 

③ 反社会的勢力の排除に係る管理態勢、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与に係る管理態勢の確立
 

④ 融資審査管理を含む信用リスク管理態勢及び内部監査態勢の確立
 

⑤ 当行の営業用不動産の所有・管理や当行の株式の保有等を行い、創業家の一定の影響下にある企業群(ファミリー企業)との取引を適切に管理する態勢の確立
 

⑥ シェアハウス向け融資及びその他投資用不動産融資に関して、金利引き下げ、返済条件見直し、金融ADR等を活用した元本の一部カットなど、個々の債務者に対して適切な対応を行うための態勢の確立
 

⑦ 上記を着実に実行し、今後、持続可能なビジネスモデルを構築するための経営管理態勢の抜本的強化
 

(4)上記(3)に係る業務の改善計画を平成30年11月末までに提出し、直ちに実行すること。
 

(5)上記(4)の改善計画について、当該計画の実施完了までの間、3ヶ月毎の進捗及び改善状況を翌月15日までに報告すること(初回報告基準日を平成30年12月末とする)。

半年にもわたって、業務を停止する非常に強力な措置を下しています。その背景には文中に何度も登場する「健全」「法令順守」「顧客保護」という言葉がないがしろにされてきた実態があったといえるでしょう。監督官庁から法令に遵守せずに、自行の利益を最優先にして、顧客保護の観点ができていない融資姿勢をとがめられ、営業できない状態に追い込まれたという大きな出来事でした。

行政処分の背景

スルガ銀行はシェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営するスマートデイズ社を通じ1000名以上の個人投資家にシェアハウス購入のための資金を融資していました。しかし2018年1月にこのスマートデイズが経営破綻し、シェアハウスオーナーたちへの賃料支払いを停止する事態が発生します。

この個人向け収益用不動産ローンは、従来資産家とよばれるすでに数億円の資産を持っている層ではなく、私たちの多くがそうであるように一般のサラリーマンを対象にしていました。物件自体の収益性を評価するというロジックで、数千万円の現金や資産を持っていないサラリーマンを相手に、数千万円から数億円の収益用不動産を融資していたのです。

この考え方自体は欧米型の融資姿勢ということで問題はないものでしたが、スルガ銀行の融資がずさんであったこと、多くの不動産業者と深く関係を持ち、融資の販売チャネルとして癒着したことで、不動産業者の暴走をまねいた観があります。

スルガ銀行自体が、融資のお墨付きを出したうえで、具体的な収益用不動産を進める、不動産業者が融資の審査書類を記入するなど銀行業法に違反するような勧誘が横行しました。それだけではなく、不動産業者がスルガ銀行の融資時の審査基準に即して、申し込み時の審査書類の記載を不正に偽造することが実際に多数発生したのです。その中には、明らかにスルガ銀行行員が営業ノルマを達成するために、不動産業者に融資案件を催促したり、審査基準を満たす数字に書き換えるような指示をおこなったケースもあるといわれていました。

そんな実態把握を行うために、金融庁の指導もあって、スルガ銀行は実態把握のために第三者員会を組織し、実態調査を行います。弁護士3名、監査法人55名の一大体制をもって、役員、社員、パートに対して一斉調査をおこなったのです。

その結果、まことしやかに言われていたスルガ銀行行員による直接的な偽装への関与は実際に起こっていた事、不動産業者をチャネルとして、営業部門が銀行法に違反するやり取りを行っていたこと、一部の不心得な社員が起こした事件ではなく、経営層による営業部門や審査部門への強烈なプレッシャーで全社をあげて業務として不正を行い、見逃していたことが明らかになりました。

行政指導の目的 スルガ銀行の不正な実態の解消

こうした実態の解消を目指した行政処分でしたが、その目的を改めて金融庁の言葉でおさらいしてみます。金融庁は以下のようなスルガ銀行の実態を改善することが行政処分の目的であるとしています。

(1)シェアハウス向け融資及びその他投資用不動産融資に関する不正行為

金融庁は、シェアハウス向け融資及びその他投資用不動産融資に関して、3点の不正行為が確認されたとしています。
 

① 不動産関連業者(チャネル)が、賃料や入居率について、実勢よりも高く想定し、もしくは、実績値よりも高い数値に改ざんして、収益還元法で不動産を評価することにより、割り増された不動産価格が算出された結果、当該価格に基づき、当行から多額の融資が実行されている。
 当行では、投資用不動産融資を扱う相当数の営業職員が、チャネルによる上記の不正行為を明確に認識、もしくは少なくとも相当の疑いを持ちながら業務を行っていた。中には、当行営業職員が、チャネルに対して不正行為を能動的に働きかけて改ざんを促す事例や、自ら改ざんを行った事例も認められた。
 

業者の物件価格の水増しをスルガ銀行が分かった上で看過したことを金融庁は問題視しています。また中には積極的に不動産業者に水増しを働きかけたり、書類を改ざんするスルガ銀行の行員がいたことを指摘しています。

1)審査書類の改ざん・偽装

② チャネルが、当行の融資審査を通すために、(ⅰ)自己資金のない債務者の預金通帳の残高の改ざん、(ⅱ)債務者の口座へ所要自己資金の振り込み(見せ金)、(ⅲ)一定の年収基準を満たすよう債務者の所得確認資料の改ざん、(ⅳ)売買契約書を二重に作成、等を実施している。
 当行では、投資用不動産融資を扱う相当数の営業職員が、チャネルによる上記の不正行為を明確に認識、もしくは少なくとも相当の疑いを持ちながら業務を行っていた。
 

メーカーが販売店をチャネルとして、商品の拡販のために利用するように、スルガ銀行は不動産業者を販売チャネルとして利用していました。そのチャネルがもってくる融資案件に対する審査がずさんで形骸化していたことを問題視している指摘です。営業部は成績を上げるために審査を通したいので、審査部をなんとかなだめ通そうとする、審査部はその圧力にまけて、不正があるかもと疑うことはあってもそのまま通してしまったとしています。

2)迂回取引

③ 審査部が資料の改ざん等の不芳情報のあったチャネルを取扱い停止にしたにもかかわらず、営業店が、取引継続を企図し、当該チャネルに新たなチャネルの設立を持ちかけるなど、迂回取引を行い、不正行為を継続・助長させている。
 

度が過ぎた不正もあったのでしょう。このチャネル経由の融資案件はリスクが高い(明らかに防いだ)と審査部門が位置づけ、出入り禁止にした場合でも、営業部門が別会社を設立すれば取引を継続できるなどと働きかけ、不正な融資を継続させるために加担していたという指摘です。組織的な関与といってもスルガ銀行内部でも営業部門が不正な取引の中心にいたことが見えてきます。金融庁はこうした構図を理解したうえで、業務停止期間を設け、是正を命じたと思われます。

2)顧客の利益を害する業務運営

金融庁はこうした姿勢を明確に顧客の利益を害すると断罪する表現でとがめています。利益に反するではなく、利益を害するという表現の強い意志を感じるところです。

(2)顧客の利益を害する業務運営
 当行では、シェアハウス向け融資を含めた投資用不動産融資を実行する際に、カードローン、定期預金、保険商品等の様々な商品を抱き合わせて販売しているが、これらの取引は、顧客にとって経済合理性が認められない取引となっており、顧客保護上不適切な業務運営となっている。こうした取引の中には、銀行法第13条の3第3号(抱き合わせ販売)に違反する行為が一定数認められる。
 また、当行は、銀行代理業の許可を持たないチャネルに顧客への説明を委ねており、顧客説明態勢に不備が認められる。
 

その実態は、チャネルとして、不動産業者が、スルガ銀行の営業や融資申し込みといった業務に食い込んでいる点が問題視されるべきでしょう。銀行法に明らかに抵触している実態を金融庁がスルガ銀行に対して明確に是正を求めています。

(3)適切な信用リスク管理及び営業に対する牽制機能の欠如

(3)適切な信用リスク管理及び営業に対する牽制機能の欠如
 経営陣及び審査部は、シェアハウス向け融資及びその他投資用不動産融資に関して、特定のチャネルの財務状態、ビジネスモデルの持続可能性に関する様々なリスクを把握しているにもかかわらず、こうしたリスクについて十分に検討を行うことなく融資を継続した結果、不良債権の増加を招いており、信用リスク管理上の問題が認められる。
 審査部は、営業部門からの要請により、審査の迅速化のため、資金使途や保有金融資産の確認を営業店の事後確認のみで完結させるなど、稟議関係書類の簡素化を図っている。また、営業部門の本部長ミーティングで妥当とされたシェアハウス向け融資をほぼ全件(99%)承認するなど、実質的に審査が形骸化している。
 監査部は、一連の不正行為に関して、融資方針や施策、ポートフォリオの構造変化などに対するリスクアセスメントを行っておらず、事務不備点検に重きを置いた監査にとどまっており、不正の兆候を発見できていない。

金融庁はスルガ銀行の状態が営業が強すぎて、審査部門の働きを阻害しているのにも関わらず、自浄作用を促す仕組みが機能不全に陥っており、なにか問題が表面化しないと改善できない状態であったことを指摘しています。

4)ファミリー企業に対する不適切な融資

スルガ銀行は金融機関ではありますが、創業家が支配するオーナー企業でした。そこではオーナー企業の私物化がみられたと指摘されています。

(4)ファミリー企業に対する不適切な融資
 以下のとおり、当行では、ファミリー企業に対する融資に関して、保有資産の実態把握、具体的な返済計画の検証等を行っておらず、不適切な融資管理の実態が認められる。また、ファミリー企業から創業家個人に対して一定額の融資が実行される中、業況の芳しくないファミリー企業に対する当行融資の回収が進まないなど、信用リスク管理上の問題が認められる。
 

① 当行が融資を実行したファミリー企業が別のファミリー企業に対して転貸した資金の回収可能性がなく、大幅な債務超過となり破綻懸念先に該当し、当該ファミリー企業向け融資について追加引当が必要となった事例が認められる。
 

② 特定のファミリー企業からの融資を回収するために、複数回にわたり、当初寄付名目で拠出した資金を別のファミリー企業を通じて当該ファミリー企業へ還流させ、返済を受けている。当該取引は実質的に特定のファミリー企業を支援するものであり、本来であれば、将来の経営改善の見込みや経営支援の必要性について取締役会や経営会議において議論した上で決定すべきであるにもかかわらず、実際は一部の経営陣のみで決定しており、与信管理及びガバナンス上の問題が認められる。
 

創業家に関連する企業への合理性のない融資に関して指摘がされています。これは個人向け不動産融資の問題ではないですが、不正な融資を行う土壌として断罪されている項目です。

(5)反社会的勢力との取引の管理態勢、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に係る管理態勢の不備
 

(5)反社会的勢力との取引の管理態勢、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に係る管理態勢の不備

① 当行では、既存顧客を新たに反社会的勢力と認定しても、(ⅰ)既存のカードローンの与信枠の閉鎖を行っていないため、枠内でローン残高が増加している事例、(ⅱ)反社会的勢力に対する新規の預金口座の開設をブロックするシステムの整備が不十分であるため、預金口座を新規開設している事例が多数存在する。
 

② 当行では、既存顧客を新たに反社会的勢力と認定しても、警察への照会件数が少なく、照会する顧客(反社会的勢力)についても取引解消が相対的に容易な先を優先するなど、取引解消に向けた取組みを十分に行っていない。
 

③ 当行では、疑わしい取引のチェックを行うシステムにおいて、法人取引を検知対象に含めておらず、管理帳票の出力・確認などの代替の対応策も講じていないなど、法人取引における疑わしい取引の検知態勢を整備していない。
 また、法人取引時の実質的支配者の確認・記録を営業現場に徹底していないため、実質的支配者の情報を確認しないまま、取引を実行している(犯罪による収益の移転防止に関する法律第4条第1項第4号違反)。
 

金融庁は、スルガ銀行が反社会的勢力との取引を行っていたと明確にとがめています。融資がマネーロンダリングに悪用されている、監査が不全で改善ができない姿勢があったと認めているということです。

(6)当局に対する実態と異なる報告

(6)当局に対する実態と異なる報告
 シェアハウス向け融資や投資用不動産融資に関して、特定のチャネルとの取引関係の有無について当局から照会を受けた際の報告が、実態と異なる内容となっていたことが判明している。
 また、ファミリー企業に対する融資の管理状況について当局へ報告しているが、融資先ファミリー企業による転貸状況を十分に把握していないため、当該報告が実態と異なる内容となっていたことが判明している。
 

金融庁はこうした実態は、「創業家が実質的にスルガ銀行を支配」し、不正を押してでも成績を伸ばそうとする「営業優位の組織を構築」してしまったとしています。その一方で、「営業現場を放置したため、営業現場では、創業家の後ろ盾を得た特定の執行役員が、厳しい業績プレッシャー、ノルマ、叱責等で営業職員を圧迫した結果、法令等遵守を軽んじ不正行為を蔓延させる企業文化が醸成された」としています。取締役会などの経営層に対しても厳しい指摘をおこなっていますが、嘘の報告や不正を組織的に行っていた体質自体が金融庁の厳しい断罪を招いたといえそうです。

スルガ銀行は健全な銀行になったのか?

2022年2月時点では、シェアハウス問題は、スルガ銀行の譲歩により、被害者が救済されました。しかし、本丸ともいうべきアパート・マンションローンの分野では、被害者団体との激しい対立があり、いまだ解消されていません。

金融庁から「スルガ銀行は健全になった」という公式の発表がなされるかどうか不明です。とすると、被害者団体との対話で円満解決を図る以外にスルガ銀行の健全化を表現する事象はないように思います。

今後の不正融資被害者との対話のあり方をじっくりと見ていく必要があるでしょう。

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