みなさんも宗教法人が税制面で優遇されているということをご存じだと思います。今日はそんな宗教法人を節税に活用する投資に関して国内外の注目が集まっているというお話です。
海外では無信仰であることが社会的にデメリットとなることも多いのですが、日本では逆に冠婚葬祭以外に、宗教活動を語る場は少ないのが現状です。誰かが宗教に傾倒していると聞くと引いてしまうという方も多いのではないでしょうか。ですが日本は法治国家ですので、信仰の自由が保障されていますし、宗教団体も届け出を出し認可を受ければ税制面で優遇措置を受けられるようになっています。そして認可を受けて設立された宗教法人は法人格の売買こそできませんが、寄付金などの対価を支払うことで、役員への就任などを形を通じて実質的なsっ拝見を入手することができます。つまりM&A可能なわけです。
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宗教法人のM&Aが存在する理由は一般商店と同じ
宗教法人と言っても、仏教や神道、キリスト教、その他新興宗教など様々な信仰があり多様です。信仰に身をささげた宗教者が団体として活動を行っているわけですが、中には信者が減少し、団体運営に支障をきたしてしまう団体もあります。また信者がいても、跡継ぎがいない場合や、高齢を理由に引退したい職業的な宗教者もいます。例えば地方のお寺の和尚さんです。
「人口減少で檀家が減少し、寄付や人的支援が少なくなってきた。広大な墓地や寺院を維持する費用が大変だ。駐車場や幼稚園などの営利活動でその費用をねん出しようとしても、営利活動には税金がかかる。」そんな事情もあって、寺院運営をおこなっていても、住職の手元に大金が残るわけではないケースもあります。そうなると高齢になり、引退して余生を送りたいと考える住職もでてくることでしょう。この辺りは、大工さんや飲食店の事業承継と同じ事情があります。
こうした寺院の事業承継は、純粋な宗教活動を引き継ぐために継承される場合が大半でしたが、近年は宗教法人の税制優遇を目当てに行われるケースも出てきていると言います。
非課税となる宗教活動
詳細はともかく、イメージとしてよく知られているように、宗教法人宗教活動は非課税です。監督官庁に活動内容や経営状況を報告する義務がありますが、宗教法人が行う「宗教活動」に基づく収入については、課税対象にはなりません。これは、宗教法人法や税法の規定に基づいています。以下に、宗教活動が非課税となる仕組みと、課税される場合について詳しく説明します。具体的には以下の活動が非課税となります。
墓地の管理運営: 宗教法人が管理している墓地の使用料や管理費も、宗教的な活動の一環と見なされるため、非課税となります。
法要や祭事、儀式: 寺院や神社で行われる法要、祭事、葬儀などの宗教儀式からの収入は非課税です。これは、宗教法人の目的が宗教活動にあり、その収入が宗教活動を支えるためのものであると見なされているためです。
お布施、寄付: 信者からの寄付やお布施も非課税です。これは、信者の善意に基づくものであり、宗教活動の一環として行われるため、課税対象外となります。
祈祷料やお守りの販売: 宗教法人が宗教的な儀式に伴って受け取る祈祷料や、神社での御札やお守りの頒布なども、宗教的な活動と見なされるため、非課税です。
宗教的な法話を対価を得て提供する場合も宗教的な活動として実施すれば非課税となります。これがコーチングや研修サービスとして提供すると営利事業となり課税対象になる場合もあります。どういう認識でサービスを提供するかがポイントになってくるようです。
節税に活用するスキーム
ここから先はあくまで可能性のお話ですのでその認識で読み進めてほしいのですが、寄付、教義に即した研修合宿、宗教儀式の体験サービスなどは売り上げになるものの、非課税となります。例えばあなたが個人として一億円の土地を保有しているとします。その土地を宗教法人に寄付をするとします。
- 寄付する側(送る側)の税金:
a) 贈与税:
- 個人が宗教法人に寄付する場合、原則として贈与税は非課税となります。
- これは租税特別措置法第70条の規定によるものです。
b) 所得税:
- 寄付をする個人は、一定の条件下で所得控除または税額控除を受けられる可能性があります。
- ただし、控除額には上限があり、1億円全額が控除対象になるとは限りません。
- 受け取る側(宗教法人)の税金:
a) 法人税:
- 宗教法人が受け取る寄付金は、原則として非課税です。
- これは宗教法人が公益法人等に該当し、その本来の事業に関連する寄付として扱われるためです。
b) 固定資産税:
- 寄付された不動産が宗教法人の本来の用途(礼拝施設など)に使用される場合、固定資産税が非課税となる可能性があります。
- ただし、収益事業に使用される場合は課税対象となります。
注意点:
- 個別の状況により税務上の取り扱いが異なる場合があります。
- 大口の寄付の場合、税務署の調査対象となる可能性があります。
- 宗教法人が不動産を受け取る際、登記にかかる費用は発生します。
このように財産を喜捨すると個人の場合、非課税で贈与が可能です。そして宗教法人が宗教目的でその施設を利用する限り、非課税のままとなります。
こうなってくると何年かかけて財産を喜捨すれば相続税を抑えることができると考える人が出てくるかもしれません。そうした目的で国内外の投資家が日本の宗教法人に熱い視線を注いでいるというわけです。こうした動きは以前からあったと思うのですが、インターネット全盛のこの時代だからこそ表に出てきたといえるのと、日本の過疎化、人口減少で宗教法人も収支が厳しくなってきたことなどが影響してM&Aに応じる宗教法人が増えてきたといえるのかもしれません。
また企業が宗教に寄付できる金額は限られていますが、宗教法人に教育研修サービスを受けることがあれば、その費用は経費になります。また宗教法人側も宗教的な見地からの人格陶冶のための法話を有償で提供したことになれば宗教活動として非課税になってしまうのかもしれません。
自社の幹部や信頼できる親族を宗教法人の代表や幹部に据え、ガバナンスを聞かせることができれば、節税に大きな効果が得られる方策がいくつもあるのが宗教法人を購入したい企業が数多く存在する理由と言えそうです。
宗教法人にも系列組織に所属する場合と一本立ちしている場合がある
さて一口に宗教法人という言葉を使ってきましたが、M&Aを実際に検討する場合には、この宗教法人がどのような経営で支えられているかを確認していく必要があります。
お仏壇がありお葬式はお坊さんがお経を挙げに来るという日本の一般家庭の感覚では、寺院の名前まで意識することは少ないかもしれませんが、宗教法人には、親会社と子会社にあたる関係がある場合があります。親会社、系列元にあたる法人を「包括法人」、子会社、系列参加企業にあたる宗教法人を「被包括法人」とよび区別しています。こうした系列に属さない独立している宗教法人は「単立法人」と呼ばれます。
① 包括法人
包括法人は、宗教団体全体を統括する法人で、下位に複数の寺院や神社、教会などを含んでいます。宗派全体や大規模な宗教団体を管理・運営する中心的な存在です。具体的には、全国に分布する複数の寺院や神社、教会を統括している宗教団体が該当します。
- 例: 浄土真宗本願寺派、曹洞宗など、各宗派の本山や総本山が包括法人となります。これらの包括法人が全国にある各寺院を統括しています。
② 被包括法人
被包括法人は、包括法人のもとに属する個別の寺院や神社、教会です。被包括法人は、包括法人に所属し、その指導や統制を受けながら宗教活動を行います。多くの寺院や神社は、この被包括法人として宗教法人格を取得している場合が多いです。
- 例: 各地域の寺院や神社が、包括法人である本山や宗派に属している場合、その寺院や神社は被包括法人となります。
2. 単立法人
単立(たんりつ)法人
単立法人は、包括法人に属さず、独立して宗教法人格を持つ宗教団体です。つまり、単立法人は他の宗派や団体の管理を受けず、自律的に運営されています。日本には、単独で宗教法人格を取得している寺院や神社、教会が多く存在します。
例: 独立した小規模な寺院や、新興宗教団体などが単立法人に該当します。たとえば、特定の宗派に属さない仏教寺院や、地域ごとに独立した神社などがこれにあたります。
このように多くの仏教系寺院はいわば系列に所属する系列企業です。企業でいえば本社にあたる総本山の系列に所属し、地方支社である本山の指揮下にある、という感じです。同じお経を読む系列寺院だけど、個別の寺院の経営権は家族が握っているというケースも多いわけです。そんな寺院では寺院と隣接してお坊さんが住んでいる家があります。伝統的な職住一致のファミリービジネスなんですね。
宗教法人にも「事業承継したい」「お金も欲しい」というニーズがある(場合もある)
家族経営で代々お寺の住職を続けてきたような寺院の場合、宗派の意向よりも寺院単体の意向で後継者を選ぶことも多いようです。自分の寺という意識が強いんですね。長年住み込みで一緒に働いてきた弟子に継がせる場合もあれば、よそから後継者を招く場合もあると思いますが、自分の余生や、子孫に財産を残したいという場合は、よそから後継者を迎える代わりに、土地建物の対価を受け取ることもあったようです。
宗教者といえども、社会に生きている以上、お金がないと生きていきにくいのは確か。老人ホームに入ったり介護を受けたりすることを考えると、お金が必要になるのは道理です。そうすすると、事業としてのお寺を売却して退職金を得たい、いままで個人の懐から補填していた赤字を回収したい、他の人にお寺を引き継ぐために引っ越しして余生を過ごすための資金が必要などのニーズがあると言えます。
では実際にいくらくらいで売買されているのでしょうか。法人格があるだけで寺院の維持に問題があり廃寺とほぼ変わらないほど荒廃している、活動的な檀家がほぼいない、地方で土地建物の価値が著しく低い、という場合で、数千万円~、土地建物の価値がそこに加わったり、檀家衆がアクティブでお布施もある程度期待できるとなると数億円以上というのが相場のようで、2,3億あれば購入可能で、数年で回収できるというイメージのようです。
宗教法人を管理する監督官庁
こうした様々なニーズがあるため、宗教法人の売買はできないものの、企業のM&Aと同じで、代表者や役員の地位を第三者に譲ることができるようになっているため実質的に売り買いされているわけです。企業の場合、法務局で登記変更するだけで引継ぎが完了するわけですが、宗教法人の場合、監督官庁が複数あることを忘れてはいけません。監督官庁は、主に日本国内で次のように分かれています。
- 文部科学省
全国的な宗教法人や規模の大きな宗教団体は、文部科学省の宗教法人審議会によって監督されています。文部科学省は、宗教法人の設立、変更、解散などに関する申請を受け付け、適切な運営が行われているかを確認します。 - 都道府県庁
地域に根ざした中小規模の宗教法人は、設立されている地域の都道府県が監督します。例えば、地方の寺院や神社などは、その所在する都道府県の担当課(文化課や宗教法人課など)が監督しています。
宗教法人は、非営利の宗教活動を行うための法人格を持つ団体であり、法律や規制に従って、適切な活動と運営が行われているか定期的に監督されています。
M&A後の代表者の変更の手続き
宗教法人の代表者の変更手続きは、宗教法人法に基づいて行われます。以下は、代表者変更の際に必要な手続きの一般的な流れです。
1. 内部手続き
宗教法人の代表者を変更するには、まず宗教法人内での適切な手続きを経る必要があります。具体的には、宗教法人の規則や定款に基づいて、以下の手順が取られることが一般的です。
- 総会や評議会の承認: 代表者の変更には、総会または評議会での承認が必要です。宗教法人の内部規定に従って、正式な手続きが行われることが求められます。
- 新しい代表者の選出: 規則や内部手続きに従い、新しい代表者が選出されます。
2. 監督官庁への届け出
代表者の変更が正式に決まったら、所轄庁(文部科学省または都道府県庁)に届け出る必要があります。届け出の際には、以下の書類が必要です。
- 代表者変更の届出書: 所轄庁に提出する書類で、代表者の変更理由や新しい代表者の氏名、住所などを記載します。
- 総会や評議会の議事録: 代表者変更に関する決議が行われたことを示す議事録の写しを提出します。
- 新旧代表者の印鑑証明書: 新しい代表者の印鑑証明書が必要です。また、旧代表者の印鑑証明書も求められる場合があります。
3. 所轄庁の確認・審査
提出された書類をもとに、所轄庁が変更手続きを確認します。すべての書類が適正であれば、代表者変更が正式に認められます。
4. 法人登記の変更
所轄庁での手続きが完了した後、法務局にて宗教法人の代表者変更の登記を行います。代表者の変更は法人登記に反映させることで、法律上も有効になります。
実態がない税金逃れのM&Aには問題も多い
とはいえ、宗教法人は企業とは違い、宗教的活動を行うための団体です。たとえば新規に認可を得るためには数十人の信者と寺院、そこでの宗教儀式の開催実績を証明することが必要になります。既存の宗教法人も監督官庁が管理しているため、資金洗浄や節税のためと思われないような継承の経緯や継承後の活動実態が求められる可能性があります。
また今は信仰に熱心でなかったり遠方に住んでいる檀家からすれば、先祖が眠る墓の管理方針が急に変更になるとなれば一大事です。いままでと変わると大きな波紋を呼ぶ可能性もあります。宗教という心のよりどころを担う事業を継承する際には、こうした心理的な問題にも配慮しないと大きな問題につながる可能性もあります。
出家して精神陶冶する気持ちならありかも
宗教法人は数が少ないものの、企業のM&Aと同じで実質的に売買可能です。宗教者だけではなく一般の投資家でも業者を通じて購入が可能です。購入することで、宗教法人の持つ税制面での優遇措置を得ることや寺院が保有する文化、宗教上の財産を継承することができます。
一方で、寺院が担ってきた文化、宗教的な責任も受け継ぐことになるので、活動の実態と信者層への一定の配慮が必要になります。少なくとも檀家がいる寺院であれば実際に法事や葬儀、お墓への埋葬、霊園の維持など宗教儀式を実際に行うように求められることでしょう。代行する住職を雇うなどして信者へのサービスを提供する必要がありそうです。
ある程度経済的に成功し、数億円を支払って寺院を継承して自ら宗教を通じて精神的な豊かさや人格的な感性を目指すのであれば、財産の相続対策にもなりますし、寺院M&Aは有意義な取り組みになるかもしれません。