『正直不動産』は、2022年春に、NHK『ドラマ10』枠で放送された、不動産業界の裏側をコミカルに描いた作品である。ドラマを題材に不動産取引で気を付けるべきことを学んでいこう。第13回は、『賃貸併用住宅』である。
目次
賃貸併用住宅とは
賃貸併用住宅は、家主に大きなメリットがある。戸建て住宅の一部に賃貸部分を設けることで、家賃収入が入る。つまり、住宅ローンの負担を軽減できるのだ。さらに、相続税や固定資産税の軽減処置も受けられる。だが、メリットがあれば、デメリットもあるのが世の常だ。どんなデメリットがあるのか、ドラマで確認していこう。
過去との対峙
登坂不動産は、営業成績が振るわない。ミネルヴァ不動産の攻撃に晒されているのだ。先日、ミネルヴァ不動産の脅しにより、有能な社員である、桐山が退社した。だが、ミネルヴァ社長は、手を緩めない。残った最後の稼ぎ頭、永瀬に襲い掛かる。方法は、簡単だ。かつてのライアー永瀬に、騙された顧客を見つけ、クレームを入れさせるのだ。
今日も、半年前に騙された、松永が怒鳴りこむ。『覚えているよな、俺の事。よくも、騙しやがって。』今の永瀬は正直だ。『しっかり覚えいています。我ながら、あくどいやり方で売りつけさせて頂きましたから。』松永が購入したのは、3階建ての賃貸費用住宅7500万円だ。この時、永瀬は、ひたすらメリットのみを強調して成約を勝ち取った。だが、この物件には、明らかなデメリットがあった。駅から遠すぎるのだ。賃貸の借り手が一向に現れない。その結果、住宅ローンが楽になるどころか、バカ高いローンの支払いを強いられているのだ。松永は、この物件を一刻も早く売却し、新しい住宅を見つけるよう、永瀬に言い残して、帰っていった。
その後も、続々と、かつての顧客が、クレーマーとなって、押し寄せる。永瀬は、かつてのライアー営業の罪の重さに、初めて気付くことになった。
若き日の永瀬
そもそも、若き日の永瀬は正直者だった。まだ、大学生の頃のことだ。永瀬の父は、友人の連帯保証人になり、自宅の住宅ローンが払えなくなった。通常、住宅ローンを借りる際、家を担保に入れる。もし、将来、住宅ローンが払えなくなった場合、貸主である銀行は、家は競売にかけ、その代金で回収を図る。つまり、本来、自分の資産であるはずの持ち家が、自分の意思とは無関係に、勝手に売られてしまうのだ。永瀬は、実家をこの競売の危機から救うため、任意売却専門業者に電話した。任意売却とは、競売を回避して、ある程度、家主の意思を反映させて、売却を図る手法だ。ただし、相手は悪徳業者だった。このままでは、永瀬家は騙され、一銭も手にしない。そんな永瀬に声をかけたのが、登坂社長だ。『そこね。悪徳業者。私は町の不動産屋だけど、私のこと信じるなら、助けてやってもいいよ。』登坂社長は、誠実だった。きっちり、正規の価格で売り、実家の引っ越し代も賄えた。『有難うございました。』と、礼を言う永瀬に、社長が返す。『何も、君のために助けたわけじゃないよ。私は、売り手からも、買い手からも仲介手数料を貰っている。一番儲かったのは、私。』これを聞いて、永瀬、感動だ。客から感謝されて、お金も儲かる。不動産業者こそ、最高の仕事であろう。登坂社長が、永瀬に入社の条件を課す。国家資格宅建の取得だ。だが、やる気に燃える永瀬は、独学で資格を取得した。そして、入社の日、登坂社長に宣言する。登坂不動産を、日本一、いや、世界一の不動産屋にしてみせると。
ライアー永瀬の誕生
しかし、大卒の新人がいきなり稼げるほど、不動産業界は甘くはない。登坂不動産への入社の日は、永瀬の苦悩の日々の始まりでもあった。がんばれど、がんばれど、誰も新人営業マンの話なぞ、聞いてくれない。家は、一生の買い物だ。こんな、若造にお願いするお人好しなどいないのだ。全く成約が取れない永瀬は、アルバイト並みの安月給が続く。やむなく、衣食住を切り詰める。安アパートに住み、スーパーで弁当が特売なるまで待つ。だが、永瀬は燃えていた。木造の安アパートの一室で、毎日、筋トレに励む。筋トレで放出されるアドレナリンを使って、ひたすら男を磨いたのだ。そう、永瀬は、ただ、上を目指した。金を稼いで、タワマン住んで、いい車に乗ることが、目標だ。男を磨くだけでは、家は売れない。営業技術が必要だ。そこで、永瀬は、登坂不動産の当時の営業トップを完コピする。スーツ、髪型、時計に始まり、営業トークまで。そして、営業に役立ちそうなことは、なんでも取り入れる。心理学、マーケティング、詐欺まがいの営業、なんでもだ。この努力で、遂に、成約が積みあがってきた。だが、それでも、トップは取れない。そこで、永瀬は、思考する。自分とトップとの差は何なのか。そして、答えを見つける。『客を人だと思わないこと』だ。この瞬間に、ライアー永瀬が生まれた。数字を追い、自分の収入が増えれば、詐欺まがいでも、痛まない心を手に入れたのだ。永瀬は、ライアーという武器を駆使して、地域No1営業の座に長く君臨することとなる。もちろん、タワマン、スポーツカー、美女と、欲しいものは、向こうから、ライアー永瀬に寄ってきた。
過去との向き合い方
松永はお怒りだ。物件が早く売れないと、バカ高いローンを払い続けなければならない。居留守を提案する月下を、永瀬が制する。『いや、ちゃんと話す。自分がやった過去は変えられない。だったら、今できることを正直に、誠意をもって伝えるしかないでしょ。』永瀬は、完全に過去のライアーと決別した。今や、正直営業のオネスティ永瀬に生まれ変わったのだ。月下も、感動だ。『私も助太刀します。』と後を追う。
そして、買い手が見つかる。住居ではなく、改装して、シェアハウスとして使うのだ。これならば、1人当たりの賃料も低く抑えられる。直接の顧客である松永でけではなく、買い手側の立場にも立ったWin-Winの提案である。しかし、一度、騙された松永は、そう簡単には、信じない。『また、俺を、だまそうとしてるんじゃないの?』オネスティ永瀬は、正直流の殺し文句で応じた。『安心してください。私は、嘘が付けない人間なんです。』