Home 詐欺を知る ドラマ「正直不動産」に学ぶ―『店舗物件』

ドラマ「正直不動産」に学ぶ―『店舗物件』

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『正直不動産』は、2022年春に、NHK『ドラマ10』枠で放送された、不動産業界の裏側をコミカルに描いた作品である。ドラマを題材に不動産取引で気を付けるべきことを学んでいこう。第5回は、『店舗物件』である。

店舗物件

 店舗物件は、リスクが高い。まず、家賃が高い。事業が軌道に乗らないと、この家賃さえ払えない。又、退去時は、大規模な原状回復工事が必要だ。こうした費用の担保として、入居時に、家賃10ヶ月分余りの保証金を払う。つまり、借り手は、小規模な店舗を構えるだけで、数百万円掛かるのだ。こうした店舗物件で、何が成否を分けるのか、そのポイントをドラマで確認しよう。

桐山の仕込み

桐山の営業はずるい。ターゲットは、仮想通貨で一発当てた、派手な若い男である。内見を始めるや、次の内見者がやってくる。男が気づく。ここは、人気物件だと。気を良くした男は、事業アイデアを自信満々に披露する。窯焼きパンケーキ屋だ。月下がすぐ反応する。『本格的ですね。』狙い通りの女子ウケだ。行列も出来るに違いない。男の安易な妄想を、月下の疑問が打ち砕く。『でも、こんな好立地なのに、どうして、前の喫茶店、つぶれちゃったんですかね。』そこへ、前の店にも出入りしていた業者が現れた。『なんで、前の店はつぶれたの?』男が業者に聞く。『店主がギャンブルに、はまっちゃって。』この答えに、男は自身の成功を確信する。『決めた。ここ借りるわ。』もちろん、様々な登場人物は、全て桐山の仕込みである。月下のお人好しトークも織り込み済みだ。頭の良い桐山には見えていた。数年後に、破綻する男の姿が。が、むしろその方が、好都合だ。また、新たなターゲットを見つけ、仲介手数料を頂けばいい。こうした営業は、詐欺まがいではある。しかし、失敗の本質は、杜撰な事業計画にあるのだ。

粘りの月下

 月下は、芽が出ない。今月も成約0件だ。社長は、そんな月下に、『どちらか選べ。』と店舗物件を手渡す。案の定、月下は、ダメ物件を選ぶ。低い集客力で、コンビニを潰した物件だ。社長は落胆する。だが、神様は、まだ月下を見捨てていない。店舗に出向くと、60代の高田夫婦が、真剣に空き店舗を物色していた。夫は語る。『私は、先月、警察官を退官しました。これからは、現役時代に苦労をかけっぱなしだった妻を大切にしていこうと思います。まずは、妻の夢である、駄菓子屋を一緒に開きたいんです。駄菓子屋なら、ノウハウがなくても出来るでしょうし。』これに永瀬が、過剰反応する。『甘い。甘すぎます。駄菓子屋なんて、客単価激安ですよ。その上、商店街も廃れきっています。夢だかなんだか知りませんが、せっかくの退職金をドブに捨てるようなもんです。』即座に、月下が、永瀬をつまみだす。夫は、机をたたきながら吐き捨てる。『妻の夢のためなら、退職金なんて、どうでもいいんだ。』

 もちろん、高田夫妻のプランに、現実感がないことなど、商学部卒、宅建取得済みの月下も承知の上だ。そこで、月下、一計を案じる。家賃と保証金の値下げをオーナーに直談判するのだ。その為に、徹夜で提案資料を作成した。永瀬が慌てる。オーナーは、不動産女王のマダムである。そもそも、気軽に話が出来る相手ではない。値下げなんかあり得ないであろう。下手すると、月下、永瀬、揃ってクビすらありうる。なにせ、マダムは、登坂社長に絶大な影響力を持つのだ。永瀬、最悪の事態を回避すべく、月下の特攻に付き添う。

 まるで、お城のような豪華な洋館。マダムは、1人、昼下がりのワインを嗜んでいる。そこに突撃してきた月下を、マダムは一言でする。『話にならない。』絶望感が月下を包む。『永瀬君、何この失礼な新人。登坂社長に後でクレーム入れとく。』月下、秒殺か。だが、ここで永瀬が物申す。『そんなに儲けたいんですか?商店街の変遷も気にかけず、昔のまんま、バカ高い賃料と保証金で据え置きとは、マダムのビジネス感覚は、お鈍りになっていませんか?』これには、マダムもビックリだ。慌てて、聞く耳を取り出す。月下、大逆転なるか。最後のプレゼンが始まる。マダムが、口火を切る。『それで、何の店を開くつもり?』『駄菓子屋さんです。』『駄菓子。』マダム、失笑だ。月下、構わず続ける。『でも、ただの駄菓子屋さんじゃないんです。街のニーズに合った、イートインスペースがある駄菓子屋なんです。コンビニが無くなって、お子さんの塾帰りを待つ場所が無くなったっていう声が多いんです。その声をこの店が拾うんです。それに、来年には、近くに大型マンションが3棟建ちます。待ちスペースがある駄菓子屋さんの需要は、今以上に高まります。こうした街の活性化が、マダム様の別の物件にも、将来の利益をもたらす筈です。』月下、全てを出し切った。だが、マダムには刺さらない。『私、将来の利益なんて、興味がないの。帰りなさい。』月下、完敗である。

月下の想い

『これ、クビかなぁ。』と落ち込む月下に、永瀬が、訊く。『どうして、この仕事選んだ?』月下が打ち明ける。『きっかけは、両親の離婚です。二人とも、外資系で働いてて、都心に結構立派な家建てたんです。でも、家を買う時、質の悪い不動産屋の口車に乗って、無謀なローンを組まされたみたいで。リーマンショックで、収入が減って、結局、家を手放すことになって。そのまま、父は蒸発したんです。だから、家族をバラバラにした、不動産屋をすっごく、うらみました。でも、母と二人での幸せな、安アパート暮らしで、私、気づいたんです。家なんて、ただの箱でしかないんだなぁって。高い、安いじゃなくって、住む人が幸せだなぁって思える場所、それこそが、いい家なんだって。だったら、今度は私が、そういう家を探してあげられる不動産屋さんになりたいって思ったんです。』

  翌日、月下の携帯が鳴った。マダムからだ。提案書が分厚すぎるとお怒りだ。月下、すぐに説明に向かう。そして、商店街に高田駄菓子屋が、誕生した。

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