Home 詐欺を知る ドラマ「正直不動産」に学ぶ―『欠陥住宅』

ドラマ「正直不動産」に学ぶ―『欠陥住宅』

ドラマ「正直不動産」に学ぶ―『欠陥住宅』

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『正直不動産』は、2022年春に、NHK『ドラマ10』枠で放送された、不動産業界の裏側をコミカルに描いた作品である。ドラマを題材に不動産取引で気を付けるべきことを学んでいこう。第10回は、『欠陥住宅』である。

インスペクション

住宅の安全性をチェックする専門家をインスペクターと呼ぶ。インスペクターによる住宅診断が、インスペクションである。相場は、一回、5万円~10万円である。インスペクションにより、欠陥が発見された場合、補強工事などが必要になる場合がある。この為、売り手目線では、こうした追加費用を避けたいという心理が働き易い。一方で、中古住宅の購入者にとっては、むしろ安心料といえる。ところで、住宅は目に見える部分より、床下などの隠れた部分に欠陥が潜みやすい。こうした部分の検査には、サーモグラフィや超音波装置等を駆使して、破壊することなく検査する。

花澤の横取り

月下は、父 昌也の家探しに燃えていた。父の蒸発によりバラバラになった家族が、また一緒に住めるかも。そんな、期待が彼女を駆り立てる。そこに父からの電話だ。なんと、良い物件が見つかり、今から内見するという。築5年、リノベーション済みのタワーマンションだ。永瀬は、物件情報を一瞥して、欠陥住宅を疑う。リノベーションするには、築年数が短すぎるのだ。二人は、契約を止めるべく、タワマンに急行した。

昌也をハントしたのは、ミネルヴァ不動産の花澤だ。美貌を武器に、話を聞くだけと誘いこみ、早くも契約目前だ。だが、一億近い買い物だ。昌也も即断即決とはいかない。ここで、花澤に電話が入る。別の内見者からだという。花澤が急かす。『一秒でも先に誰かが決めてしまったら、ご縁がなかったということで。』詐欺師も使う、焦らせの術だ。焦りは、正しい思考を奪う。『分かりました。ここに決めます。』昌也は、契約書に手を伸ばす。まさにその時、月下と永瀬が飛び込んだ。二人を部外者扱いする花澤に、月下が言い返す。『娘が、父が住むところの内見にきて、何か問題ありますか?』花澤の顔に、驚きが浮かぶ。そして、永瀬が叫ぶ。『ここは欠陥住宅です。』証拠はないが、確信はある。さらに、月下が提案する。『欠陥住宅かどうか、我々が指定したインスペクターで調査させてください。費用は父の日のプレゼントとして、私が出します。』花澤は認めない。『勝手なインスペクションは、お断りします。』月下は動じない。『拒否するのなら、何か隠していると見なして、父は購入を見送りますけど。』昌也は、契約を留保した。全ては、インスペクションの結果に委ねられた。

インスペクション対決

運命のインスペクションが始まった。インスペクターは、登坂不動産が信頼をおく町村だ。調査は淡々と進む。特に、問題は見つからない。最後に寝室が残った。ここで、永瀬が見つける。床のきしむ音だ。インスペクター町村が、サーモグラフィーカメラを取り出す。チェックが終わった。だが、町村は、動かない。早々に花澤は、契約を完了すべく、書類に手を伸ばす。まだ、町村は、動かない。何か、ためらっているようだ。たまらず、永瀬が訴える。『町村さん。このままだと、貴方のインスペクター人生、今日で終わりですよ。私の経験から言わせてもらえば、ここには間違いなく、何らかの欠陥があります。ミネルヴァに何を吹き込まれたか知りませんが、貴方のやるべきことは家の欠陥を見つけ、住む人の生活を守ることですよね。』町村が静かに起き上がり、部屋を後にする。ここで、月下が動く。その手には、バールが握られている。床を剥がして、中を確認するのだ。花澤の部下が慌てる。『ここはまだ、うちの物件だ。勝手なことはさせない。』これを意外にも、花澤が遮る。『どうぞ、調べてください。』月下がバールを振り下ろす。その顔に、家族を守る決意が滲む。そして、床下が露出した。コンクリートは、どす黒く変色している。町村が戻ってきた。その手には、詳細検査を行う為の器具が握られている。町村が、露になったコンクリート面を精密に検査する。『浸水が、鉄筋の下まで達しています。しかも、内部にまだ水が残っているようです。フローリングの腐食で最悪、床が抜けてもおかしくない状態です。』町村は、花澤の部下に顔を向け、きっぱりと言い切る。『誰に何を言われようとも、私は私の仕事をするまでです。』永瀬が決める。『もし床が抜けたら、命の危険まであった。貴方たちに不動産屋を名乗る資格はない。』花澤が、神妙な顔で、昌也に詫びる。『月下様、この度は大変、申し訳けございませんでした。』彼女は、体を90度に曲げたまま、静止した。

実は、前の住人が、ウォーターベッドにタバコで、穴を開け、浸水させた。それを聞きつけたミネルヴァ社長が安く買い叩いたのだ。しかも、その事実を、花澤は知らされていなかった。彼女もまた、被害者だったのだ。

優しい嘘

ミネルヴァによる欠陥住宅の売り込みは、失敗に終わった。改めて、月下が、昌也の新しい家探しを宣言する。しかし、昌也は目をそらす。奥歯に物が詰まったような、しどろもどろが続く。永瀬が、たまらず割り込む。『月下!お前のお父さん、別の人と再婚するんだ。さっき、相談を受けた。ごめん、家族のことに口出して。』晴れやかだった月下の表情に、もやがかかる。永瀬のアシストを受けて、昌也も前を向く。『黙っててごめんな。新しい家には、新しい家族と住む。だから、咲良に探してもらうわけにはいかない。』咲良が答える。『知ってたよ。お父さんに会った瞬間、なんとなく分かった。隠し事してる時、目そらすでしょ。だから、そうじゃないかなぁって。』月下、精一杯の優しい嘘である。さらに続ける。『お父さんには、豪華じゃなくても、新しくなくても、幸せだと感じられる家に、新しい家族と住んでほしい。だって、お父さん、私にとって、すっごく大事な人だから。』こうして、月下の家探しは、終わりを告げた。結果は残念だったが、永瀬は、月下の成長を肌で感じていた。家族への想いが、彼女を逞しくさせたのだ。

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