『正直不動産』は、2022年春に、NHK『ドラマ10』枠で放送された、不動産業界の裏側をコミカルに描いた作品である。ドラマを題材に不動産取引で気を付けるべきことを学んでいこう。第9回は、『家族と家』である。
目次
家族と家
家族とは、『家を共にする一族』と書く。確かに、同じ家に住むことで、家族の絆が育まれ易いであろう。それだけに、家族と住む家を手に入れる時、人は自然とこだわりが強くなる。不動産仲介業者は、こうした顧客の強い想いを扱う仕事だ。つまり、不動産仲介業者こそ、本来、カスタマーファーストが求められるのだ。
スパイ騒動
このところ、登坂不動産の売上は低迷している。そして、事件が起きた。登坂不動産の一部しか知らない未公開物件が、ミネルヴァ不動産に横取りされたのだ。社内にミネルヴァ不動産のスパイがいる。永瀬はそう直感した。その夜、永瀬は独断で、ミネルヴァ不動産の営業、花澤を呼び出した。共通の友人である光友銀行の榎本が同席する。花澤が口火を切る。『美波ちゃん、永瀬さんと仲がいいんだ。』永瀬が答える。『僕ら、シャン友なんですよ。』『へぇ~。シャンパン飲むんだ。二人で。』おかしなことに、ライバル関係にある永瀬と花澤は、話がスイングする。『で、ご要件は?』『実は最近、うちの未公開物件をおたくに横取りされたんですよ。スパイ送るの止めてもらえますか?』『うちが、スパイを送っている前提で話すの、やめてもらえますか?証拠はあるんですか?』『ないから、困ってるんです。』『話にならない。』花澤は、スッと席を立ち、うっぷん晴らしに一発かます。『美波ちゃん、悪いこと言わないから、こんな男とだけは付き合わないほうがいいよ。いいのは見た目だけで、人間性は最悪だから。』これには、永瀬も黙っていない。『そういうあんたこそ、いいのは顔だけで、中身は腐りまくってますよ。悪徳不動産だと知ってて、なぜ働いてるんですか。弱みでも握られているんですか?』これには、花澤もキレる。ジョッキを持ち上げ、永瀬の顔に残ったビールをぶちまけた。『手が滑っちゃった。』そう言い残して、美女は消えた。翌朝、永瀬は部長から、大目玉を食らう。ミネルヴァから、クレームが入ったのだ。以降、スパイ探しは、部長に託された。
ロールプレイング
業績不振を振り払うべく、登坂不動産では、研修会が開かれた。営業スキル向上を目的としたロールプレイングである。部長が顧客役となり、仮想の商談を行う。そこから得た気づきを元に、みんなで話し合い、学びに変えていくのだ。事前に細かい設定をしっかり作り上げておくことで、より学習効果が高まる。ここでも、月下はカスタマーファーストを全開させる。『今日は、私とすてきな物件を見つけましょう。まず、お客様の理想の条件を私と共有させて下さい。』
月下のカスタマーファースト
月下が、カスタマーファーストにこだわるのには理由がある。きっかけは、両親の離婚だ。両親はともに外資系で働いており、高収入であった。そして、都内に立派な家を買った。しかし、実は不動産屋に、無理なローンをを組まされていたのだ。リーマンショックが、この爆弾に火を付ける。二人とも収入が減り、ローンが払えず、家を手放し、ついには、父親が蒸発したのだ。だが、その後、貧しいながらも、母と幸せな生活を送る中で、家はただの入れ物に過ぎないと気づく。安い家賃でも、住む人が幸せを感じられるならば、それがいい家なのだ。家族が幸せを共有できる場所、そんな家を紹介すべく、彼女は不動産業界に飛び込んだ。
不審な男性
その日の午後、登坂不動産の受付嬢が騒ぎ出した。外に、不審な中年男性がいるという。ミネルヴァ不動産のスパイを疑った、永瀬が声をかける。が、男は意外にも、『月下さんはいますか?』と、聞き返してきた。呼ばれた月下は、男を見た瞬間、涙が溢れだす。『この人、私のお父さんです。』蒸発後、大阪で働いていた月下の父、正也は、この春、東京支店長となり、住む家を探していたのだ。この日は、連絡先だけを残し、去っていった。
母とのキッチン
帰宅後、月下はキッチンに立つ母を見つける。『今日、私が当番だよ。』月下家の料理係は当番制だ。『じゃあ、一緒に作ろう。』結局、今日も、二人並んでキッチンに立つ。『やっぱり、二人並ぶと狭いね。いつかまた、広いキッチンがあるおうちに住みたいね。』母の言葉に、思わず目をそらす月下。『咲良、なにかあった?』母は鋭い。隠し事があるときの様子が父親の正也とそっくりだという。結局、この日は、父との再会を母には伝えられなかった。
月下の家探し
月下は迷っていた。父の連絡先は貰ったものの、連絡すべきかどうか。そんな月下の背中を押したのは、意外にもクールな桐山だった。『子どもが親に気を遣う必要なんてないだろう。』月下は、父親と再会を果たした。家がまだ見つかっていないという父に、早速、営業開始だ。『お客様の理想の家を教えてください。』正也が答える。『4LDK、分譲マンション。』ファミリータイプだ。さらに続ける。『キッチンは広い方がいいな。』月下の脳裏には、母が浮かぶ。『やっぱり、悪いからいいよ。』という父に、『探させて。』と答える月下。
さぁ、月下の家探しが始まった。家族で一緒に住むための。